急斜面に建てられた“懸け造り”の参籠殿。世界危機遺産『伊予大洲・少彦名神社』とはこんな所だ!

急斜面に建てられた“懸け造り”の参籠殿。世界危機遺産『伊予大洲・少彦名神社』とはこんな所だ!

更新日:2013/12/03 16:02

歴史的な建築物や遺産の保存運動を推進する米ワールド・モニュメント財団(WMF)は、今年10月にニューヨークで記者会見し、2014年版「世界危機遺産リスト」の中に愛媛県大洲市の『少彦名(すくひこな)神社参籠殿』を選定。世界でも名立たる建築物や名所がリスト入りする中、なぜ小さな町の神社が選定されたのでしょうか?その秘密を探るべくマイナスイオンと光のパワーで満ち溢れた神社にチェックインしましょう。

光のパワーを感じながら境内の中心に向かいましょう。

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全国に分布する少彦名(すくひこな)神社。中でも愛媛・大洲(おおず)地方は少彦名命の伝説やゆかりの地が数多く残されています。
少彦名命(すくひこなのみこと)は常世(とこよ)の国から訪れた小さな神様で、大国主神(おおくにぬしのかみ)と協力して国作りをしたとされます。「風土記」や「万葉集」にも見え、穀霊・酒造りの神・医薬の神・温泉の神として信仰されています。愛媛の湯元・道後温泉は彼らによって発見され、道後温泉本館横の「玉の石」には少彦名命が残したとされるクボミを見ることができます。

さてここ大洲少彦名神社は菅田町大竹地区にあり、少彦名命が終焉を迎えた地とされ、境内(簗瀬山)に埋葬したとされる御陵が山頂付近にあります。
藩政時代は藩主の命により「入らずの山」として、境内(簗瀬山)が秘密にされていたという歴史を持っています。社などが造営、整備されたのは近代に入ってからのことであり、現在の社の配置は肱川(ひじかわ)に面して山の斜面に沿って麓から大鳥居、参籠殿、拝殿、中殿、本殿(御陵)へと続いています。

世界危機遺産の参籠殿は崩壊の危機に直面。

世界危機遺産の参籠殿は崩壊の危機に直面。
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マイナスイオンのシャワーを浴びながら参道をのぼること約5分。左手に注目の建物が見えてきます。その建物こそ「参籠殿」。つい最近までは藪の中に埋没し、この建物が「懸け造り」であるかどうかさえ不明なぐらいでした。崖下から見上げる参籠殿はその大部分が空中楼閣のように渓谷に張り出すように持ち出されている大迫力の建物であることがよく判ります。

懸け造りの参籠殿
懸け造りとは、急峻な崖や山の斜面にへばりつくように建てられた寺社建築を総称し、少ない立地を有効に利用した日本独特の建築様式を言います。清水寺(京都)や長谷寺(奈良)が代表的な例で全国に120余りが現存します。ここ少名彦神社の参籠殿は近代に入って建築されたもので延べ床面積が128平方メートルの木造平屋建築です。前述の歴史的背景により、氏子を持たない同神社は市民有志による部分的な補修が細々と行われて来たものの、土台を含めた柱等の傷みは予想以上に激しく、有志の活動の限界を越え崩壊の危機に直面しています。

WMFへの働きかけ
ワールド・モニュメント財団(WMF/本部:ニューヨーク)は1965年に設立された非営利団体で危機遺産を「緊急に保存・修復などの措置が求められる文化遺産」と定義、保存や修復作業への助成も実施している世界規模の団体です。日本では過去に鞆の浦(広島)や京町家群(京都)も選定を受けています。
ここ少彦神社では歴史的に価値のある建築物を崩壊の危機から救うために地元有志の集まりである「おすくな社中」が中心となって財団に働きかけを実施。熱心な保存活動などが評価され、危機遺産に選定されました。

道半ばの保存活動
WMFに選定されたからと言っても認定を受けた訳ではなく、資金援助はまだまだ先の話。認定を受けるには「おすくな社中」の今後の保存活動や整備計画の進捗状況などを毎月報告する必要があり、その積み重ねが評価されて初めて資金援助となる見込みです。保存活動は道半ばであり、一般市民の資金援助は必要不可欠であり広く募金活動を展開中です。

光のパワーが集まる拝殿に参拝しよう。

光のパワーが集まる拝殿に参拝しよう。
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参籠殿を左手に見ながら階段を上って行くとその先には拝殿が見えてきます。早朝に発生したキリと朝日が幻想的な風景を見せてくれます。参拝者のほとんどがこの拝殿を本殿と勘違いして帰ることが多いのですが、実はこの拝殿の左側から、中殿(神楽殿)、本殿(御陵)に続く細い参道があります。

往時には整備された立派な参道が本殿まで続いていたそうですが、昭和40年代以降、徐々に勢いを失い、支える氏子もいないため、すたれ、昭和の終わり頃からは荒れるに任せる状態になったようです。
今回の危機遺産選定の対象は参籠殿に限られていますが、本殿に続く参道と同様に拝殿や中殿、本殿も激しく傷んでいるのが現状です。

午前中に訪れる拝殿は光のパワーに溢れており、本当に傍らに神様がいるかのような錯覚に陥ります。境内は街の中で聞くような雑音はなく、風の音や鳥のさえずり、空の青や木々の緑(紅葉)といった周囲のすべての自然が自分に響いてくる感覚が…。その感覚の中で神様にお願いをしてみましょう。

本殿に参拝するには覚悟が必要!

本殿に参拝するには覚悟が必要!

提供元:おすくな社中

http://www.geocities.jp/osukuna/地図を見る

本殿に続く「参道」は拝殿の左手奥にありますが、今では細い「山道」になっています。道は確かに本殿(標高約300メートル)へと続いていますが、一部に谷川を渡ったり、藪をかき分ける場所もあります。道に迷う可能性もあり、何の用意もなく山道に入るのは避けた方がいいかも知れません。

拝殿から中殿までの所要時間は約25分。残念ながら中殿(神楽殿)本体は崩壊しています。
中殿から本殿までの所要時間は約35分です。写真は現在の本殿(御陵)を撮影したものですが、往時は参拝者が絶えなかったとか。。。なお少し下ったところには狛犬ならぬ珍しい「狛猪」が残されています。簗瀬山山頂付近(標高約370メートル)にはハート池と呼ばれるハート型の小さな池も存在します。

「おすくな社中」では毎年一回、2月〜3月ごろに「おすくな探検隊」というイベントを実施しています。これは社中メンバーが本殿に参拝し、周囲の草刈りなど清掃作業をするものですが、このイベントには広く一般の方の参加も募集しています。道に迷わず、楽しく確実に中殿や本殿に行けるイベントに参加してみましょう。

おわりに

いかがでしたか?

今回は危機遺産に選定されたばかりの少彦名神社(菅田町大竹)についてナビゲートしましたが、ここから目と鼻の先にも同じ名前を持つ神社(菅田町菅田)があります。この神社は少彦名命が滞在したと伝えられる場所で、古くから地区の皆さんによって管理されていますので併せて参拝してみましょう。

さて伊予の小京都・大洲の名所と言えば、臥龍山荘(がりゅうさんそう)は外すことはできません。ここは肱川流域随一の景勝地に望む三千坪の山荘であり、中にある不老庵は少彦名神社・参籠殿と同じ懸け造りの建築物で実は同じ設計者が手がけたものです。両方を見比べるのも楽しみのひとつではないでしょうか。

文化遺産に選定されたことで注目を浴びる少彦名神社。現場に立つと光のパワーが自分を包んでくれる実感があります。ぜひ一度本物をご覧ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2013/11/23 訪問

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