仏の化身が続々と出現!?岡山県・弘法寺の「踟供養」

仏の化身が続々と出現!?岡山県・弘法寺の「踟供養」

更新日:2024/04/13 17:27

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
「踟供養/練供養(ねりくよう)」という行事、ご存知ですか?本家本元の奈良県・当麻寺をはじめとして、中世以来、全国各地の寺院で伝えられてきた仏教行事ですが、毎年5月5日、岡山県瀬戸内市の弘法寺でとりおこなわれる踟供養には、何と実際に人が仏像の内部に入り込む「被仏」の風習も伝えられており、踟供養のなかでも古い形式をいまに伝えています。今回は仏の化身が続々と出現する弘法寺の踟供養をご紹介しましょう。

毎年5月5日にとりおこなわれる弘法寺の踟供養

毎年5月5日にとりおこなわれる弘法寺の踟供養

写真:乾口 達司

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「踟供養/練供養(ねりくよう)」とは、奈良時代に実在したと伝わる中将姫の故事にもとづいた来迎会のこと。仏に仮装した一団が「娑婆(しゃば/現世)」にいる中将姫を迎えにおもむき、極楽往生を手助けするさまを再現した中世以来の仏教行事で、中将姫伝説の本場・奈良県葛城市の当麻寺をはじめ、現在も全国各地でいとなまれています。

岡山県瀬戸内市にある弘法寺でも、鎌倉時代以来、踟供養がいとなまれており、1710年(宝永7)頃に制作された版画『備前国邑久郡千手山弘法寺踟供養之図式』にも残されています。現在は毎年5月5日の午後にもよおされます。

写真は塔頭の一つである遍明院を出発する来迎の一行。先頭を歩くのは、一行の警護役に当たる「棒付(ぼうつき)」です。錫杖を手にしているのは、踟供養のなかでも古い形態を残しているとされます。

毎年5月5日にとりおこなわれる弘法寺の踟供養

写真:乾口 達司

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棒付の後ろには、草花を手にしたお稚児さんたちが続きます。その形態から「花稚児(はなちご)」とも呼ばれます。

毎年5月5日にとりおこなわれる弘法寺の踟供養

写真:乾口 達司

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花稚児の後ろには、シンバルによく似た「鐃鈸(にょうはち)」や「銅鑼(どら)」などを手にした楽隊。写真には写っていませんが、法螺貝を吹き鳴らして歩く方もいらっしゃいます。

彼らがそれぞれの楽器を奏でながら進んでいくため、荘厳な雰囲気が醸し出されます。

仏面をかぶった人々

仏面をかぶった人々

写真:乾口 達司

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いよいよ仏の一団(聖衆)の登場です。まずは天童。その名のとおり、童子の姿となった仏の化身で、弘法寺の踟供養では2名の天童が登場します。その後ろには地蔵菩薩が続きます。

仏面をかぶった人々

写真:乾口 達司

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天童と地蔵菩薩に続き、菩薩面をかぶった6名の観音菩薩が現れます。

仏面をかぶったお姿、実に不思議な印象を持ちませんか?しかし、それが踟供養の醍醐味。その神秘的で非日常的な光景を堪能しましょう。

仏面をかぶった人々

写真:乾口 達司

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一行が目指す「娑婆」は、遍明院の石段下の広場に設定されています。

娑婆には導師が控えており、ここで観音菩薩は蓮台に乗った中将姫の小像を授かります。これにより、中将姫は西方浄土へと旅立つことになるのです。それを仏教用語で「来迎引接(らいごういんじょう)」と呼びます。

来迎引接を終えた一行は往路と同じく隊列を組み、もときたところへと戻りはじめます。

体内!?「被仏」としての阿弥陀如来

体内!?「被仏」としての阿弥陀如来

写真:乾口 達司

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その頃、西方浄土に位置する遍明院では、戻ってくる一行を出迎える準備がはじまります。その出迎え役は、西方浄土の主である阿弥陀如来。像高2メートル近くになる弘法寺の阿弥陀如来は一行を迎え入れる役割をになっていることから「迎え仏」とも呼ばれ、現在、岡山県の重要文化財に指定されています。

写真をご覧になると、茶色の法衣をまとった方が阿弥陀如来をかぶろうとしているのが、ご確認いただけるでしょう。弘法寺の踟供養では、阿弥陀如来の内部に実際に人がもぐり込み、一行を出迎えるという風習が残されているのです。これを「被仏(かぶりぼとけ)」といい、近代以前の踟供養では、このように実際に人がもぐりこんだ被仏が多くの寺院で登場したと考えられています。

体内!?「被仏」としての阿弥陀如来

写真:乾口 達司

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阿弥陀如来をかぶり、両脇から支えられて立ち上がったお姿は、こちら。

被仏の内部にもぐり込む役の人にうかがうと、内部には肩当て用の木枠が設けられており、それ以上、奥(上部)まで入り込むことはないとのこと。腹部に設けられた細い覗き穴を通して外の様子がうかがえるものの、内部は狭く、息苦しさをおぼえるそうです。

実際に内部にもぐり込む人にとっては、苛酷なことなんですね。

体内!?「被仏」としての阿弥陀如来

写真:乾口 達司

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阿弥陀如来は、迎え仏として、娑婆から戻って来た来迎の一行を出迎えます。とてもシュールな光景であり、弘法寺の踟供養におけるハイライトの一つです。お見逃しなく。

復路における来迎の一行

復路における来迎の一行

写真:乾口 達司

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阿弥陀如来に迎えられた一行のうち、菩薩面をかぶった方の手に小さな中将姫の坐像がおさまっていることに注目してください。これは往路とは決定的に異なる部分です。

仏の一団に導かれて、中将姫は西方浄土にたどり着くのです。

復路における来迎の一行

写真:乾口 達司

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阿弥陀如来も一行の後に続きます。そして、お堂に到着すると、一連の法要は終了です。

復路における来迎の一行

写真:乾口 達司

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こちらは、法要の終了後、一列に居並んだ一行。被写体となって静止してくださっているので、写真も撮りやすいですよ。

この機会にそのお姿を撮影してみてください。

あわせて拝観しよう!寺宝の数々

あわせて拝観しよう!寺宝の数々

写真:乾口 達司

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弘法寺では、この日にあわせて寺宝の特別公開がおこなわれます。写真は遍明院の裏手にある宝物館。こちらも一般に公開されるため、あわせて入館しましょう。

あわせて拝観しよう!寺宝の数々

写真:乾口 達司

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館内では、国の重要文化財となっている5駆の木造五智如来坐像も拝観できます。木造五智如来坐像は遍明院の所蔵で、五仏が現存しているのは、珍しいことです。

あわせて拝観しよう!寺宝の数々

写真:乾口 達司

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こちらは常行堂の本尊・阿弥陀如来坐像。普段は常行堂の外側から拝観しますが、この日ばかりは堂内に入って拝観させていただけます。

ほかにも、もう一つの塔頭である東壽院には、鎌倉時代を代表する名仏師・快慶の真作である阿弥陀如来立像が安置されており、仏像好きにはたまらない一日となるでしょう。

弘法寺の踟供養を拝観しよう!

弘法寺の踟供養が実に神秘的で衝撃的な仏教行事であること、ご理解いただけたでしょうか。当日は地域を挙げての法会といった盛りあがりを見せるため、ゴールデンウィークの一日、弘法寺を訪れ、中世以来の伝統を持つ踟供養をぜひご覧ください。

2024年4月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2023/05/05 訪問

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