尾道石工の心意気!映画『転校生』の舞台・御袖天満宮の石造美

尾道石工の心意気!映画『転校生』の舞台・御袖天満宮の石造美

更新日:2015/04/09 11:58

村井 マヤのプロフィール写真 村井 マヤ 中国・九州文化的街並探検家
広島県尾道市は、大林宣彦監督の映画作品の舞台としても有名な町です。特に有名なのは、尾道三部作と言われる『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』でしょう。映画を見て尾道観光に行かれて、ロケ地巡りをされる方もいらっしゃいます。今回は、映画のロケ地でもあり、尾道石造文化も堪能できる「御袖天満宮」をご紹介します。尾道は知る人ぞ知る「石造文化の宝庫」。石の町という視点で、尾道を楽しんでみませんか♪

映画『転校生』で主人公の二人が入れ替わる「天神さんの55段」

映画『転校生』で主人公の二人が入れ替わる「天神さんの55段」

写真:村井 マヤ

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映画『転校生』をご覧になった方はご存知かと思いますが、このお話は、中学生の男女の身体が入れ替わり様々な問題に直面する青春映画です。主演は、尾美としのりさんと小林聡美さんのお二人。まだ若々しいお二人の好演が微笑ましい映画です。

さて、写真は映画『転校生』で主人公の二人が転げ落ちて、男女が入れ替わった御袖天満宮の55段の石段です。

一本石を使った尾道石工の技量と心意気を感じさせる美しい石段は見事!53段と最上段の55段だけは、一本石ではなく継がれています。元尾道大学教授の児玉康兵先生は、55段目の継ぎ方について「直線と曲線を用い石工の人間的な意図を感じる一カ所である。」と述べており、特に注目されています。ここも見逃せないポイントですよね。

芸術的な石垣の構造・・美しい造形美

芸術的な石垣の構造・・美しい造形美

写真:村井 マヤ

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写真は、美しい29度の勾配が見事な石段の左側(石段を上って西側)の天満宮側の石垣。ちなみに石段を上がって右側は大山寺(御袖天満宮の別当寺)になります。

55段の石段の両脇の石積みのデザインが違います。これは、築造の時代が違うことを物語っています。どちらも完成度の高い美しい作品、これはじっくり見たいですよね!

そもそも、尾道はなぜこんなに石造技術の高い物が多いのでしょう・・?実は尾道だけではなくこの瀬戸内自体が、良質な花崗岩(みかげ石)の産地で、三原の久井の岩海(国の天然記念物。花崗岩が風化分解され累積分布してできた帯状の地帯)や、因島などの島々には数多くの石造物があります。そんな中でも、古より栄えた港町で、力を持った商人も多かった尾道には、数多くの石造物があり、前述した児玉先生の言葉を借りればまさに「歴史的石造文化都市尾道」なのです。

写真の石垣の特徴は、まずは美しい反りが見事で、力強く豪放な石積みが特徴です。写真と反対側の大山寺側もそうですが、両側とも上に行くほど巨石を積み上げている点については、現代の機械力をもっても不可能な石積みなんだとか。写真でご紹介していない反対側の石垣については、是非直にご覧いただきたいものです。

石造の牛の最高傑作?!

石造の牛の最高傑作?!

写真:村井 マヤ

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写真は、御袖天満宮境内にある臥牛の石造です。作は、天保10(1839)年で3人の石工の名前が刻まれています。台座には、この臥牛を再建した尾道を代表する豪商の名前などが刻まれています。

この石牛なんだか、可愛らしい顔をしていますね。全体的に柔らかい印象を受けるかと思います。また、台座石より牛の首がせり出して首を左に振り、本殿正面に向けてある点も注目してみましょう。思わず撫でてしまいそうな可愛い石牛に是非会いに行って下さいね。

石の道標が、江戸時代の隆盛極めた町の歴史を物語る

石の道標が、江戸時代の隆盛極めた町の歴史を物語る

写真:村井 マヤ

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写真の道標は、「左いづも往来、右天満宮道、安政6年」と書いてあります。

ここは、前述してきた御袖天満宮と旧長江通りが接する角にあります。これは、尾道と出雲、尾道と石見銀山を結ぶ街道があったことを示しています。いわゆる銀山街道のことで、江戸時代に天領石見大森銀山の銀を尾道に運ぶために設けられた街道です。

このことからも、江戸時代における尾道という港町の重要性がわかりますよね。時代が下ると、笠岡港(岡山県笠岡市)へ抜ける街道も整備され、瀬戸内海の銀の積出港として共に栄えました。

この道標付近は、古くから人が住み尾道の中心的役割を果たしてきた地域です。また、この地域は、江戸から明治にかけ持てはやされた備後表(畳表の最上級品)の問屋や土蔵群が軒を並べていました。よく見ると古い町並みの面影が見いだせますので、ゆっくり歩いてみて下さい。

情緒たっぷり!美意識も感じられる石燈籠

情緒たっぷり!美意識も感じられる石燈籠

写真:村井 マヤ

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小路の先には、石燈籠が見えます。なかなか粋な演出がなされています。前述した道標は、写真にはありませんが、位置的に写真左下あたりにあります。つまり、この小路が御袖天満宮へといざなってくれる参道の役割。

このような景観づくりこそ尾道の美意識なのではないでしょうか?尾道という町が素敵なのは、狭いながらも粋な工夫があるからでしょう・・。
この石燈籠自体も素晴らしい意匠が凝らしてあります。
特に注目は、燈籠下部の美しい石積みです。単調にならないように工夫され、丁寧にノミ切りされて、柔らかい感じさえあります。

石垣や石積みに興味がない方でも、尾道の石造物の多さにはきっと気付くはずです。その石造物が、何気なく現代の生活に溶け込んでいて不思議と違和感なくマッチしているのも尾道らしさ♡

尾道は、何度訪れても楽しめる町です。毎回新しい発見があるのも魅力の1つ。そんな尾道の石文化に触れてみませんか?なかなか通な尾道散策になりますよ♪

いくつもの引き出しを持った町・尾道

尾道をこよなく愛する地元の方でも、尾道の魅力を再発見することが多いとか。尾道は、確かにそんな町です。どんな散策の仕方をされても素敵でしょうが、今回のように「石文化」にテーマを絞って町歩きをすると、また新しい尾道感が生まれちゃいます♪

是非、『転校生』の舞台・御袖天満宮で、石の町としてのもう一つの魅力も感じて欲しいもの。尾道リピーターの方も初めての方も尾道散策の参考にしてみて下さいね。

*参考文献:児玉康兵「尾道の石造文化(1)〜江戸期の尾道石工を中心に〜」(『尾道大学地域総合センター叢書』4巻、2010年11月)

掲載内容は執筆時点のものです。 2015/04/02 訪問

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