コーヒー1杯に12gから30gの豆を用いて、中または粗挽きにし、一旦沸騰させた95℃前後の湯で2〜5分で抽出する従来の珈琲の常識を打ち破り、次々と新しい創作珈琲を手掛けてきた「ザ・ミュンヒ」オーナーの田中完枝さん。
店名の由来となった世界に5台と言われる東ドイツ製のバイク、ミュンヒ1200cc。そして、世界初の2ロータリーバイク、バンビーンを所有し、それらを数ケ月交替で常設展示してきた大のバイク好きでもある。10代で詩人・中原中也に決定的な影響を受けバイクと詩作の人生一筋で今日までやってきた。
店内には中也の直筆サイン入り初版詩集(時価150万円)がさりげなく置かれ、マニアには、マイセン(旧東ドイツ製)の金塗りカップ&ソーサーとバカラグラス(フランス製)で飲ませてくれる。
営業時間、午前7時〜午前1時の1日18時間をたった1人で切り盛りする珈琲専門店をやりはじめたきっかけは、80年代前半、東京・銀座の珈琲専門店「カフェ・ド・ランブル」で飲んだ1杯のコーヒーだった。
その日以来、約8年かけて理想の味を探し当てた。しかし、「カフェ・ド・ランブル」を超える珈琲とは何かという疑問が次なる課題となったという。
田中さんが「カフェ・ド・ランブル」を超える究極のコーヒーを求めて得た答えは「時間」だった。
1キログラムの豆から100ミリリットルしか抽出できないコーヒーを、客の前で50分かけてネルドリップ方式オンリーで1杯出しするコーヒーには、体験したものでないと分からないような強烈なパンチと深い味わいがある。
その延々と続く抽出の合い間に、お客とお互いの人生のすべてを出し切って言葉と心で語り合うという。
「時間こそ思索だ」と思い至った田中さんは、1日の営業時間18時間というほぼ店主の全生活時間を、コーヒーづくりに投じて悔いはないという。
メニューはコーヒー・オンリーながらとても多彩で、一般向け1200円〜1600円。マニア向けは1600円〜2400円。
限定予約に限り、熟成樽仕込み氷温コーヒー20年物(もちろんノン・アルコール)が1カップ(40cc) 75000円。お試しコースとしてコーヒースプーン1杯1500円も用意されている。
ビンテージモーターサイクルのミュンヒやバンビーンを眺めながら、時価数百万はくだらないマイセンのカップで飲む珈琲。
客と話が弾み興が乗ってくると中原中也や自作の詩を朗読してくれるオーナーと時間を忘れて過ごす至福の時。それはまさにコーヒー好きの桃源郷というべきところだ。
もし覗いてみようと思われる方は、充分に時間の余裕をもって訪ねてほしい。
ただし、コーヒー研修として時おり、ミニカブ(展示のバイクは寄る年波には勝てず振り回されるとのこと)で日本全国を日帰りでかっ飛ばす事があるそうなので、遠方から来られる方は事前に電話を入れておくほうが賢明である。
またマイセンの器は、1杯 75000円のコーヒー、あるいは「この人なら、人生とコーヒーの味がわかる人」と店主が判断した人に限るもので、誰にでも提供されるものではありません。
この店を覗くと、茶道に闘茶があるように、究極の珈琲道もまた静かなバトルだということがおのずと納得されます。
ザ・ミュンヒ
大阪府八尾市刑部2-386
電話072-996-0300
営業時間午前7:00〜午前3時(オーダーストップ午前1時)
年中無休
近鉄大阪線 高安駅下車徒歩10分
ザ・ミュンヒのある刑部(おさかべ)にほど近いところには、大窪のドルメン古墳、大坂の玉造を起点とし十三街道を通り生駒を越えて法隆寺へと抜ける峠道のとっつきには業平伝説の伝えられる式内社の玉祖神社(たまおやじんじゃ)、そして河内の旧石器時代から歴史時代にいたるさまざまな文化財の収集保存と展示を続けてきた市立歴史民俗資料館があり。大和の歴史に匹敵する文化がこの地に花開いていたことを知る格好の場所となっている。
※写真は、生駒山麓にある玉祖神社
究極のコーヒ―専門店ザ・ミュンヒのある高安駅の一つ手前の河内山本駅からは近鉄信貴線が出ており、2駅先の信貴山口より近鉄西信貴ケーブルに乗れば高安山から信貴山頂の朝護孫寺へとあっと言う間に辿ることができる。午前中を信貴山で過ごしてから訪れれば充実した1日となること請け合いだ。
また十三峠は大阪から奈良の斑鳩へ抜ける古代よりの街道筋。コーヒーの魅力を存分に愉しんでから峠を越えて法隆寺方面へ抜けるのも面白い。他日機会があればこのルートもご紹介いたい。
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