伊豆に残る名工『伊豆の長八』の足跡を探して〜賀茂郡松崎町〜

伊豆に残る名工『伊豆の長八』の足跡を探して〜賀茂郡松崎町〜

更新日:2014/12/08 14:11

漆喰と絵の画法を融合し、漆喰鏝絵を確立させた「入江長八」。卓越した職人技を駆使し、かつて浅草観音堂・目黒祐天寺など東京の名だたる寺に作品を残し「鏝絵名人伊豆の長八」と世に名が知れ渡りました。そんな長八が残した貴重な作品は、故郷の静岡県松崎町の「伊豆の長八美術館」や「国指定重要文化財 岩科学校」などで見ることができます。全国から名声を得た長八の芸術的な作品を巡る旅は如何でしょうか?

日本随一の漆喰芸術美術館

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東京から三島まで新幹線で1時間。三島から松崎まで、バスで2時間30分程の場所にある「伊豆の長八美術館」。約50点の長八の作品が展示されています。入江長八(1815〜1889年)は、この美術館がある松崎町で生まれました。

12歳の時、左官に弟子入り。19歳の時に、江戸へ出て狩野派の絵を学び、左官の技術と絵の画法を組み合わせた漆喰で描く立体の色彩画「漆喰鏝絵」を築き上げました。

東京の成田不動尊など、各地に名作を残しましたが、関東大震災などで、作品の多くは焼失。難を逃れた長八の作品は、松崎町に多く残され、伊豆の長八美術館は作品が最も多く保存されている唯一の美術館です。

精密な芸術

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こちらは「龍」の図。
躍動感溢れる龍の生き生きとした目・流れる雲・龍の小さな鱗一つ一つまで細かく描かれています。長八は、人が見逃してしまうような細かいところも手を抜かずに描くため、美術館では、そんか箇所を「じっくり見てもらおう」と虫眼鏡が用意されています。このため、美術館では、虫眼鏡を持って作品を鑑賞するのがポイント。

鏝を巧みに使って色彩をした長八の作品は、西洋のフレスコ(漆喰面と顔料溶液との化学的融合によって堅固な画面を作り出す技法)に優るとも劣らない壁画技法として芸術界で高く評価され、一見の価値あり! そもそも「漆喰鏝絵」は、仕事をさせてもらった恩返しに、家内安全・子宝繁栄など建築主の願いを聞いて描いたそうで、例えば、子孫繁栄なら「うさぎ」を施し、この技は長八が人を思う優しい気持から生れたのかもしれませんね。

昔から伊豆の温泉地で有名な修善寺。その修善寺のシンボルとも言える「独鈷の湯」から見える温泉宿に、ちょうど眺められるように設置されていた立派な「龍」の鏝絵も保管されています。そこを訪れる人々に目を楽しんでもらおうと、長八の粋な演出も伺えます。

長八の年齢ごとの作品を見比べたり、美術館は写真撮影が可能なので、お好きな作品と記念撮影してみてもいいかもしれませんね。
「美術館」と言えば、作品のほどんどが館の所蔵だと思いますが、こちらの美術館は、個人所有の作品を集めた、ちょっと変わった美術館。美術館は、長八の技法に負けないよう、全国から有能な左官技術者が集まって作られた建物で、あらゆる場所に左官の芸が「きらり」と光ります。建築界の芥川賞と言われる「吉田五十八賞」を受賞していて、美術館自体も立派な作品なので、是非、ご覧になってみて下さい。

菩提寺に代表作が!

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こちらは、先程ご紹介した美術館の前の道路を渡って近くにある「長八記念館」です。
「記念館」といってもお寺で、名前は「浄感寺」。本堂の天井一面に描かれた「八方にらみの龍」や、欄間に「飛天の像」などの長八の作品が残されていて、この寺に長八は眠っています。

八方にらみの龍は、狩野派の豪快な筆法で描かれ、力強く圧倒されてしまうほど。
龍は、火災除けや幸運をもたらする意味があるので、見れば幸せが訪れるかもしれません。

この寺は、長八が幼少の時に学問を学んだ寺で、貧しい農家に生まれた長八は、このお寺の御好意で学業を学ぶことが出来たそうです。「恩返しに」と、八方にらみの龍を描いたそうで、そんなことを思いながら見れば一味違って面白いですよ。県指定有形文化財になった、長八の代表作と言われるくらいの作品で一見の価値ありです。

傑作が残る、国指定重要文化財

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変わって、こちらは美術館から車で5分ほどの場所にある「岩科学校」です。明治13年に建てられたこの学校は、なまこ壁と社寺風建築様式とバルコニーなど洋風を取り入れた伊豆最古の学校。建てられた当時は、最先端の技術を取り入れた学校でした。

学校の正面玄関上にある白い龍は復元ですが、長八が棟梁のノミを借りて彫ったとされる龍で、玄関から長八の作品が見られます。時の太政大臣が書いた扁額など、建築史上貴重な遺産として国の重要文化財に指定されています。教室では、当時の授業の再現がされていて「犬のおまわりさん」など、懐かしい童謡を聞きながら楽しく見学することが出来ます。

この学校の2階にある「西の間」には、長八の傑作と言われる「千羽鶴」の作品があって、ここを訪れたら絶対に見ておきたい一押しのポイント。作法や裁縫教室などに使用されていた部屋の欄間に、朝日に向かって飛び立つ、一羽一羽表情が異なった鶴が見事に描かれています。鶴が飛翔する姿は、この学校に通う子供達に置き換えて描かれたようで、長八らしい心がこもった温かい作品です。

学校の前にある休憩所「開化亭」では、長八の弟子「佐藤甚三」が制作した漆喰鏝絵が残されているので、岩科学校を訪れたら併せて見ておきたいスポット!
かつて、村役場として機能していた開化亭は、明治初期に建てられた、文明開化をいち早く取り入れた貴重な建物。そんな建物の天井に、長八より漆喰が肉厚なのが特長の、弟子の作品2つがあるのでお見逃しなく!

ここでは、長八と弟子の作品を見比べられて面白いですよ。開化亭に以前あった長八の作品は、先程ご紹介した「伊豆の長八美術館」に展示されています。

現代に蘇った長八!?

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なまこ壁が美しいこの建物は、明治時代に活躍した呉服問屋「明治商家 中瀬邸」です。
邸内は、着物や調度品・帳場など当時のままを再現されています。

中瀬邸の一角では「現代の長八」と呼ばれる「山本堪一」さんによる漆喰鏝絵の実演がされます。山本さんは、長八美術館の建築に携わり、漆喰鏝絵は20年以上の大ベテラン。鏝で細かな絵を描く様子が見学でき、実演は毎週月曜日ですが、都合により変更する場合があるので、詳しくは下記のMEMO【社団法人 松崎町振興社 明治商家 中瀬邸】よりお問い合わせ下さい。

母屋の蔵や、中瀬邸の隣にある「伊豆半島ジオパーク 松崎ビジターセンター」(写真右側)の扉など、山本さんが描いた作品が見られます。迫力ある虎・龍など、長八の作品と見間違えるくらいの素晴らしい漆喰鏝絵が施され、見所の一つでもあります。

中瀬邸は、町の中心部にあり、美術館から約10分程歩いた場所。桜や燕など色鮮やかな漆喰鏝絵がデザインされた「ときわ大橋」のたもとにあり、この橋を渡ると「なごやかな気持ちになる」と言われているので、散策しながら是非、通ってみてはいかがでしょうか?

おわりに

伊豆の長八美術館では、夏休みなどの期間中、漆喰を使った「光る泥団子(栄光球)制作体験教室」・「漆喰鏝絵制作体験教室」(各有料)などのイベントが開催されるので、詳しくは下記のMEMO【財団法人 松崎町振興社 伊豆の長八美術館】からご覧下さい。

入江長八が生れた育った松崎町を歩くと、ノスタルジックな雰囲気満点のナマコ壁の街並みや足湯などがあって、散策も楽しめます。思わず絵を書きたくなるような街並みが溢れていて、松崎は「題材となる風景を提供できる町」をスローガンに、「スケッチの町」を宣言しています。町では、松崎町スケッチコンクールも開催しているので、応募してみてもいいかもしれませんね。

毎年9月に、音楽祭や地場産品即売コーナーなど多彩なイベントが行われる「長八まつり」も行われますよ。長八の作品を見ながら過ごしたいと言う人は、温泉宿「山光荘」がお勧め。
那賀川沿いの「梅月園」では、長八の「八方にらみ龍」をイメージして和菓子があるのでお土産に最適です!!

入江長八が生み出だした漆喰鏝絵に触れて浸って、日本ならではの素晴らしい芸術で心を豊かにしてみませんか?

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/08/27−2014/09/08 訪問

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