神々の美しい指紋!タイ・バンコクの聖なるタワー「暁の寺」

神々の美しい指紋!タイ・バンコクの聖なるタワー「暁の寺」

更新日:2018/07/24 15:53

沢木 慎太郎のプロフィール写真 沢木 慎太郎 放送局ディレクター、紀行小説家
「ワット・アルン」と呼ばれる美しい寺院がタイの首都・バンコクにあるのをご存じですか?≪暁の寺≫という意味の寺院は、空高くそびえる大仏塔が特徴で、ヒンドゥー教のシヴァ神が住む聖なる山を表したもの。川を隔てた対岸からの眺めが優美で、バンコクを代表する風景となっています。塔に埋め込まれた無数の陶器や仏像の装飾は繊細でこの上もなく美しく、まるで神々が残した指紋のよう。神々しい輝きを放つ聖塔をご案内します。

天に向かって、まっすぐそびえ立つ大仏塔 バンコクを代表する風景

天に向かって、まっすぐそびえ立つ大仏塔 バンコクを代表する風景

写真:沢木 慎太郎

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バンコクを流れるチャオプラヤー川の西岸に、すっと空高くそびえる高さ約80メートルの大仏塔。これが仏教寺院「ワット・アルン」。バンコクを代表する風景で、10バーツ硬貨のデザインにもなっています。川を隔てた対岸からの姿が美しく、三島由紀夫の小説の題材にも取り上げられたほど。

18世紀の中ごろにビルマ軍の侵攻で傷ついたタイの将軍が、首都だったアユタヤの地を離れ、川を下って夜明け前にたどり着いたのが、この仏教寺院。このため、将軍が“夜明けの寺”と名づけ、その後、タイ語で≪暁の寺≫という意味の「ワット・アルン」と呼ばれることに。

もともとは小さな仏塔でしたが、その後、新しい王朝の国王が数世代にわたって増築し、現在ではご覧のようにまん中に大きな仏塔がそびえ、このまわりを4基の小さな仏塔が取り囲んでいます。では近づいてみましょう。

塔の表面には無数の陶器!後世に伝える神々の指紋

塔の表面には無数の陶器!後世に伝える神々の指紋

写真:沢木 慎太郎

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いかがでしょうか?この繊細で、複雑な装飾。これは大仏塔を見上げたもので、表面を覆っているのはすべて陶器ということがわかります。
変化に富んだ実に美しい色彩。当時、大量に輸入されていた中国製の陶器を使い、一枚一枚を手作業で張り付けていったのですね。その数は数万枚。気が遠くなるような作業です。陶器には手描きで花や植物の絵が丁寧に描かれ、その精密さにも驚嘆!

塔の表面には極彩色の陶器の破片が無数に埋め込まれていて、これが陽光に反射して神々しい輝きを放ちます。まるで神々が残した指紋のような美しさ。心が奪われてしまいます。

また、写真のやや下寄りの中ほどに、大仏塔の台座を両手で持ち上げる人形の姿が見えますが、こちらは古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に出てくる仏像の「ヤック」(鬼神)と、「モック」(猿神)。階段の手すりには蛇神のナーガも見ることができ、まるで仏像のオールスターといった感じでしょうか?

さらに、塔には無数の鐘の装飾も施され、風が吹くとカラン、カランと澄んだ軽やかな音色が響き渡り、うっとりと心地いい気持ちにさせてくれます。

世界の中心にそびえる聖塔!神々の言葉を織り込んだ美しさ

世界の中心にそびえる聖塔!神々の言葉を織り込んだ美しさ

写真:沢木 慎太郎

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この寺院の最大の特徴は、バンコク様式の大仏塔。こちらは先ほどよりも手前に引いて撮ったものですが、トウモロコシのような形をした独自のデザインが目を引きます。
大仏塔は、バラモン教や仏教、ヒンドゥー教の聖地となる『須弥山』(しゅみせん)を表したもの。これは古代インドの世界観の中心にそびえる聖なる山という意味があります。

チベット仏教によると、『須弥山』は、ヒンドゥー教のシヴァ神が住むとされているヒマラヤ山脈のカイラス山と同じもの。実にさまざまな宗教や文化が複雑に入り組んでいる様子がよくわかりますね。

大仏塔には急な階段が取り付けられていて、中段のテラスまで登ることができます。安全設備らしいものはなく、まるで遺跡の壁をよじ登っているようなスリル感。というか、かなり危険。足を踏み外すと、重大事故につながること間違いなし。階段の途中で立ちすくんでしまう外国人女性も多く見かけます。高所恐怖症の方はちょっとムリかも。

階段の先には、扉のようにぽっかりと開いた入り口が見えます。この窪んだ場所には、3つの頭を持つエラワン(象神)に乗った「インドラ神」が飾られ、この独特な姿にも圧倒!インドラというのは、バラモン教やヒンドゥー教の神。漢字では“帝釈天”(たいしゃくてん)と書き、仏教にも取り入れられています。

色鮮やかな陶器のモザイクを散りばめ、神々の指紋を刻んだ大仏塔。バンコク様式という建築手法を取り入れながらも、装飾は中国美術の影響を多く受け、しかも塔の先端にシヴァ神を飾るなど、タイ仏教や中国美術、ヒンドゥー教を融合させた珍しい塔であることには間違いない。
しかし、あまりきょろきょろしていると階段から落下するので要注意。

中段のテラスから広がる、素朴で美しいバンコクの風景

中段のテラスから広がる、素朴で美しいバンコクの風景

写真:沢木 慎太郎

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さて、恐怖の急階段を登りつめると、ご覧のような風景が大仏塔の中段のテラスから広がります。たいへん眺めがよく、爽やかな風が吹き抜けるので、とても気持ちいい!
左に見える仏塔は、大仏塔のまわりを取り囲む4基の小仏塔のうちの一つ。その向こうに見えるのが、チャオプラヤー川で、たくさんの船が行き来しています。

対岸に見えるのがバンコクの中心地。黄金の巨大な仏像が横たわる大涅槃仏(だいねはんぶつ)をまつるお寺「ワット・ポー」や、タイ国民の守護仏として崇められているエメラルドの仏像を安置する王宮(ワット・プラケオ)を見渡すことができます。

対岸には観光船(チャオプラヤーエキスプレス)の船着き場(ターティエン乗り場)があり、ほとんどの観光客はこの船着き場から渡し船に乗って、ワット・アルンまで行くことに。渡し船は約10〜15分間隔で運行しています。乗船時間は約5分で、料金は3バーツ。

このほか、中段のテラスには青いシートが掛けられ、ここに多くの人々が願いごとをペンで書き綴っています。日本の神社でいえば絵馬みたいなものですね。
さて、次はとっておきの見どころを紹介!しかし、焦らず急がず。階段は降りるときの方がずっと怖いからお気をつけて!

おすすめは夕暮れ時のライトアップ!神々の指紋に聖なる輝き

おすすめは夕暮れ時のライトアップ!神々の指紋に聖なる輝き

写真:沢木 慎太郎

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巨大な仏塔がそびえるユニークな仏教寺院。≪暁の塔≫という名前の塔なので、明け方が美しいと思われるかもしれませんが、おすすめはライトアップされた夕暮れ時。
大きな塔の姿が独自のシルエットとなって夕闇に浮かび、とても美しい。ベストスポットは対岸の公園からの眺め。

この写真の手前が、さきほどのテラスから見えた対岸のターティエン船着き場。ここからチャオプラヤー川をはさんで眺める景色がひと際美しい。船着き場付近には公園があり、ライトアップされたワット・アルンを鑑賞するのに絶好の場所です。

大仏塔に飾られた神々の指紋が暖かなオレンジ色に浮かび、微かな愁いを含み、くっきりとシャープで聖なる輝きを放つ。しばし、ご鑑賞ください。
塔の建設は、現在まで続くバンコク王朝(チャクリー王朝)のラーマ2世の19世紀に始まり、ラーマ3世の時に完成。

かつてワット・アルンには、霊験あらたかな守護仏として、多くのタイ人から崇められている『エメラルドの仏像』が安置されていました。現在は、王宮の敷地内に建つ王室専用の寺院「ワット・プラケオ」に納められています。しかし、ワット・アルンは聖なる塔として、今も多くのバンコク市民から愛され続けています。
いつまでも眺めていたくなる神々の美しい指紋。ワット・アルンの夜景もゆっくりお楽しみください!

◆ワット・アルン◆
■利用時間:7時半から17時半まで
■拝観料:50バーツ
■ご注意:肌の露出が多い服装での参拝は不可

おわりに

いかがでしたでしょうか?タイ王国の首都・バンコクは、都市圏人口が約1500万人という巨大都市。
バンコクの正式名称はとても長く、国民も覚えられないので、省略して天使の都という意味の「クルンテープ」という言葉を使っています。
「バンコク」というのは外国人による呼び名で、正式にはクルンテープ(天使の都)。

どこでもない、どこかから、天使たちが舞い降り、そして帰って行く場所……そこが、神々の指紋を残す≪暁の寺≫。タイ・バンコクに観光で来られたら、天使の都の街にふさわしい聖塔「ワット・アルン」をご覧になられてはいかがでしょうか?

なお、ワット・アルン周辺の観光スポットについては別途、記事にまとめていますので、ご興味のある方はリンクからのぞいてみてください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/05/05 訪問

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