ねはん!ラピュタのロボット兵が見守る遺跡〜タイ・アユタヤ

ねはん!ラピュタのロボット兵が見守る遺跡〜タイ・アユタヤ

更新日:2018/07/24 14:21

沢木 慎太郎のプロフィール写真 沢木 慎太郎 放送局ディレクター、紀行小説家
街全体が古代遺跡のアユタヤ。タイのバンコクに都が移るまでは、首都だった街で、かつて栄華を極めた壮大な古都の遺跡は、世界文化遺産に登録されています。遺跡もさることながら、目を奪われるのはユニークで優しいお顔立ちの仏さま。その中には、アニメに描かれた『天空の城“ラピュタ”』で、空から落ちたロボット兵のような仏さまもいらっしゃいます。苔むした仏塔。大草原に悠然と横たわる涅槃像。アユタヤ遺跡を紹介します。

なんとも楽しそう!草原に横たわる巨大な涅槃仏『ワット・ローカヤー・スッター』

なんとも楽しそう!草原に横たわる巨大な涅槃仏『ワット・ローカヤー・スッター』

写真:沢木 慎太郎

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なんともユニークで、楽しそうな仏さま。大草原に悠々と横たわるお姿は、どこか気持ちよさそうで、微笑ましいですね。青空の下でくつろぐ仏さまは「ワット・ローカヤー・スッター」。高さ5メートル、長さ28メートルもの大きさで、『涅槃仏(ねはんぶつ)』と呼ばれています。

『ねはん』というのは、仏教の言葉で、心に迷いがなく、澄み切った気持ちの状態のこと。こちらの巨大な仏さまは、まさしくそのお気持でいらっしゃるのですね。この仏さまと向きあっていると、今の自分の生き方を問われているような気がします。

遺跡の街・アユタヤは、まわりを川に囲まれた島。東西が約8キロ、南北が約4キロなので、それほど大きな街ではなく、遺跡めぐりにはレンタサイクルがおすすめです。涅槃仏は、街の北西部と、ちょっと辺ぴな場所にあるので、地元の方に尋ねながら行かれると良いでしょう。頭の後ろに手をまわし、横たわるふりをして、「ティーナイ?」(どこ)と聞けば、「ああ」といった表情で教えてくれます。

樹の根っこが絡みあう仏頭『ワット・マハータート』

樹の根っこが絡みあう仏頭『ワット・マハータート』

写真:沢木 慎太郎

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ここは必見中の必見!樹の根っこが絡みあう仏さまの頭。タイのガイドブックでご覧になられた方も多いでしょう。巨大な仏塔跡が残る「ワット・マハータート」遺跡にあります。

アニメの『天空の城“ラピュタ”』では、「バルス」という滅びのまじないの言葉を叫んだために、天空都市が突然に空中分解。破壊された街の中から巨大な樹が現れ、光り輝く巨大な宝石を根っこで抱えながら空高く昇っていくシーンが描かれました。
そのラストシーンを思い出させるように、大きな菩提樹(ぼだいじゅ)の太い樹の根っこが仏さまの頭を大切に守り、なんとも神秘的で、ぞくっとした身震いすら感じる特殊なオーラを放っています。

実は、この仏さまは戦争によって破壊され、頭部が地上に落下。菩提樹が長い年月をかけて仏さまの頭を持ちあげ、優しく力強く包み込み、今のような姿になったのです。ここはタイ人にとって神聖で特別な場所。写真を撮る時は自分の頭が、樹の根っこに取り囲まれた仏頭よりも高くならないよう、しゃがんで撮ることがマナーです。

ちなみに、「バルス」とはラピュタ語で、“閉じよ”という意味があり、外国人にもたいへん人気。ラピュタが再放送されると、主人公の少年少女が「バルス」と言う前に、世界中から「barusu」とツイートされるので、ツイッターサーバーがパンクし、たちまち世界最高記録を瞬時に樹立してしまうほど。

崩れ落ちた仏塔、まるで崩壊したラピュタ帝国のよう『ワット・マハータート』

崩れ落ちた仏塔、まるで崩壊したラピュタ帝国のよう『ワット・マハータート』

写真:沢木 慎太郎

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続いても、さきほどの「ワット・マハータート」遺跡から。こちらの仏さまも安らかで、優しいお顔。筆者がタイで出会った仏さまの中で、最も安らぎを感じる慈悲深い仏像です。圧倒的な存在感。それでいて威圧的なものは一切なく、心に優しく響き渡るものがあり、夕暮れになるまでいつまでも眺めていたくなります。

この遺跡は、14世紀を代表するアユタヤ朝の代表的な仏教寺院。仏教を始めた釈迦(しゃか=ブッダ)のお骨を納めるために造られました。
背後にある赤茶色の建物は、高さ44メートルの仏塔があったのですが、戦争で破壊されたため、塔の土台だけが残されています。

アユタヤ王朝は1350年に開かれ、実に400年以上にわたって栄華を極めましたが、1767年にビルマ軍によって徹底的に破壊されました。仏像のほとんどは頭を壊され、仏塔(チェーディー)は崩れ落ち、まるで「バルス」という滅びのまじないで崩壊したラピュタ帝国のようです。

今、目にすることができるのは樹の根に取り込まれた仏さまの頭や、苔むした仏塔の残骸、地面に落ちた無数の仏頭だけ。アユタヤの遺跡は、≪あの日≫から今も静かに時を止めたままです。

空から落ちてきたラピュタのロボット兵!?『ワット・ラーチャブーラナ』

空から落ちてきたラピュタのロボット兵!?『ワット・ラーチャブーラナ』

写真:沢木 慎太郎

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続いても、筆者が好きな仏像を。クメール様式の寺院「ワット・ラーチャブーラナ」の遺跡にある仏さまです。鍛えあげた逞しい胸に、太くて長い両腕。ラピュタに出てきたロボット兵に似ているとは思いませんか?

アニメの『天空の城“ラピュタ”』では、廃墟となった聖都ラピュタを一人で守り続ける心優しいロボット兵が登場します。
街や人々は遥か昔に滅びてしまったのに、ロボット兵だけが死者に花を捧げ、廃墟を守り続けている。

古代遺跡のアユタヤで出会った仏像。戦争で頭や両手を切り落とされた無残な姿を見た時、ラピュタのロボット兵を思い出しました。廃墟の中にたたずむこの仏像は、おそらく戦争の惨劇を見たはず。
悲鳴、絶叫。剣に倒れゆく人々を、なすすべもなく、ただじっと見ているだけだったアユタヤの仏像。やがて長い時が静かに流れ、惨劇は人々の記憶から消えていきました。聖都はバンコクに移り、著しい経済成長を続けます。

しかし、この仏さまはアユタヤを離れようとはしません。非力な自分の罪を償うかのように、高い誇りを持ちながら、今も一人、かつての聖都を守り続けています。

アユタヤ観光のドキドキ体験!ゾウに乗ってみよう!

アユタヤ観光のドキドキ体験!ゾウに乗ってみよう!

写真:沢木 慎太郎

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さて、アユタヤに来られたら、ゾウに乗りませんか?
遺跡をめぐっていると、街のあちこちでゾウを見かけます。信号待ちでもないのに大型観光バスがゾウの前でストップし、ゾウが立ち去るのをじっと待っている光景はアユタヤならではの風景。大きな像が一列に並んで、街を練り歩く姿は圧巻です。

そんなゾウの行列を見ているだけでも楽しいのですが、「エレファント・ライド」といってゾウに乗って散歩することもできるのです。
ゾウ乗り体験ができる場所は、歴代のアユタヤ王朝の3人の遺骨が納められている3基の仏塔で有名な遺跡「ワット・プラ・シー・サンペット」の近く。

ゾウの背中は高く、建物の2階から風景を眺めている気分。ノッシノッシと歩くゾウに揺られ、意外なスリルを楽しむことができます。ゾウの背中に乗って眺める遺跡は最高!ゾウはおとなしくて、とても可愛い。筆者は高校時代に馬に乗る仕事をしていましたが、今は密かに象使いになろうとも思っています。

ゾウ乗り体験はコースや内容によりますが、1500円ほどで乗ることが可能。キャンプ一周であれば600円ほどです。安い!この機会にぜひゾウに乗ってみてはいかがでしょう?

おわりに

以上、お楽しみいただけたでしょうか?
アユタヤは、バンコクから北へ約80キロ。戦勝記念塔のロータリーや北バスターミナルからバスが出ていて、1時間30分ほどで着くことができます。
日帰りも可能ですが、1500円もあれば日本のビジネスホテルの2倍以上もの広いゲストハウスに泊まることができるので、泊まりがけで観光されることをおすすめします。

また、破壊されたとはいえ、アユタヤの遺跡は神聖な場所。仏塔や仏像の台、壁には登らないこと。頭のない仏像に自分の頭を乗せて写真を撮ることなどはNGです。
遺跡では夜にライトアップされることもあるので、こちらも必見!当時の栄華を思い描きながら、歴史散歩を楽しみませんか?

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/05/01 訪問

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