神奈川の秘境?藤沢市・川名清水谷戸で貴重な自然に親しもう

神奈川の秘境?藤沢市・川名清水谷戸で貴重な自然に親しもう

更新日:2014/08/14 11:27

鷹野 圭のプロフィール写真 鷹野 圭 首都圏自然ライター
首都圏の公園・緑地といえば、きっちり園路が整えられ、花壇や売店、管理事務所などが設置されているようなイメージが強いことでしょう。しかしここ川名清水谷戸は、いわゆる都市公園とは一線を画したスポット。遊歩道はあるものの舗装は一切されておらず、鬱蒼とした樹林や背丈の高い草原、湿地などが広がります。そこには、近年首都圏ではあまり見かけなくなった生きものの姿も!本格的に自然散策をされたい方におススメです。

住宅地と隣接した、自然いっぱいの谷戸(やと)空間

住宅地と隣接した、自然いっぱいの谷戸(やと)空間

写真:鷹野 圭

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谷戸というのは、丘陵地が侵食されて谷間になった地形のこと。周りは森林なので薪などを採集しやすく、古くから農地として利用されてきました。こんもりと葉の繁る山に挟まれて、田畑や草地が広がる独特の空間が形成されます。いわゆる里山景観のオーソドックススタイルと言えるかもしれません。

ここ川名清水谷戸はJR藤沢駅と大船駅のちょうど中間あたり(やや藤沢寄り)に位置し、駅前から続く大きな通りやマンション街からも近いスポットです。しかし、深い森に囲まれた静かなロケーションは、首都圏にいることを一時忘れてしまうほど。面積は決してそれほど広いわけではありませんが、純度の高い自然の魅力を堪能できることでしょう。

この自然が様々な命を育み、その中には首都圏でも数の少なくなってきている希少種も含まれるのです。

ヨシ原を奥に進んだ先に、静かな泉が……

ヨシ原を奥に進んだ先に、静かな泉が……

写真:鷹野 圭

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田畑やヨシ原を横目に谷戸を奥へ進んでいくと、やがて木々に囲まれた泉が見えてきます。山間の静かな森に囲まれたこの泉は、外界からの騒音などほとんど届かない、神秘的でちょっと不思議な空間。地元の子供たちなどが時折釣りに訪れる以外は、ほとんど人の気配もありません。

年間を通じてカワセミやウグイスなどの小鳥が頻繁に観察できるほか、冬場にはノスリなどのタカが姿を現すこともあります。池の畔の樹木の上などをチェックしてみましょう。

奥まった自然景観に生きる、美しい昆虫たち

奥まった自然景観に生きる、美しい昆虫たち

写真:鷹野 圭

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写真はオオアオイトトンボ。イトトンボの中では比較的大型で、エメラルドグリーンのメタリックな体色が魅力的です。初対面時には思わず目を見張るほど。決してそこまで珍しい昆虫ではありませんが、日当たりのあまり多くない、それなりに自然の整った場所で繁殖するため、街中で見かけることはまずないでしょう。草木の間を縫ってゆっくりと飛ぶ姿は、儚げでどこか神秘的です。川名清水谷戸では真夏から秋の終盤にかけて、長期間にわたって見ることができます。

この他にも各種アゲハチョウや、定番のシオカラトンボや赤トンボ、そして林間部の清流にしか暮らさないカワトンボなどが姿を見せてくれます。昆虫観察にはピッタリですね。ただしスズメバチなど危険な生きものも発生しやすいので、その点は要注意です。

谷戸に生きる、減少著しいニホンアカガエルを探そう

谷戸に生きる、減少著しいニホンアカガエルを探そう

写真:鷹野 圭

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絶滅の心配される野生の生きものが近年増えてきていることは、皆さんもきっとご存知かと思います。そんな中でもとりわけ心配されているのが、カエルやサンショウウオなどの両生類の減少。田んぼの環境変化などが原因で、最近ではめっきり見かける機会も少なくなってしまいました。

一方でこの川名清水谷戸では、毎年あるカエルが発生しており、有志の手によって随時繁殖状況が確認されています。写真がそのカエル。ニホンアカガエルといい、山林と田んぼまたは湿地が隣接した谷戸の環境を好む種です。大きさはトノサマガエルよりもちょっと小さいくらい。季節によって林の中にいたり水辺にいたりと居場所を変えるのですが、それだけに両方の自然環境が整っていないとなかなか繁殖できないため、カエルの中でも特に激減していると危惧されています。事実、神奈川県を始め多くの自治体で絶滅危惧種に指定されています。

川名清水谷戸は森と水場が健全に保たれているため、首都圏では数少ないニホンアカガエルのユートピアとなっています。田んぼの脇の草むらや、水たまりの中をよ〜く探してみましょう。美しい自然環境だからこそ生きられる「命」を、ぜひその目で確認してみてください。

谷戸を守り続ける人々

谷戸を守り続ける人々

写真:鷹野 圭

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貴重な自然を次世代に残すために、ここでは『川名里山レンジャー隊』というボランティア団体の皆さんが保全活動を行っています。草刈りや、上記のアカガエルの発生状況の観察など、谷戸の環境を守るために多岐にわたる活動を継続中。こうした一般の人々の地道な活動があるからこそ、川名清水谷戸は健全な環境が維持されているのです。逆に言うならば、人の手が入るからこそ、谷戸の里山環境は健全な状態が維持されるということ。農業の衰退などで近年日本の里山は徐々に数を減らしつつありますが、それだけにこうした保全活動をされる有志の皆さんには頭が下がる思いです。

なお、環境保全に関心のある方でしたら、誰でも活動に参加することができます。

市街地と隣り合わせの、神秘的な自然地

秘境……と言ってしまうのは過ぎた表現かもしれませんが、少なくとも一般的な自然公園ではそうお目にかかれない深い緑と、多様な生きものの暮らすスポットであることは間違いのないところです。道さえわかれば藤沢駅から徒歩でもいけますので、休日のちょっとした自然散策や森林浴、あるいは生きものの勉強などにピッタリでしょう。生物多様性の側面から近年注目されている「里山」の姿とその魅力を、存分に体感してください。

【川名清水谷戸(かわなしみずやと)】
住所/神奈川県
アクセス/JRほか「藤沢駅」より徒歩15分

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掲載内容は執筆時点のものです。 −2014/05/31 訪問

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