おおよそ三万二千社あるといわれる稲荷分社の元締めである総社となるのが、ここ京都は伏見にある「伏見稲荷大社」である。
まず、正面で迎えてくれるのは、ジャパニーズレッドと呼ばれる朱色も目に鮮やかな、フレームに収まりきらないほどの大鳥居。また、その向こうに聳え立つ「楼門」である。1589年に豊臣秀吉によって造営されたこの門は神社の楼門としては最大規模のものであるという。
現代の我々ですら圧倒されるその迫力は、創建当時の人々がいかに度肝を抜かれたか、想像するに余りある。
門をくぐると姿を現すのが、桃山時代からの姿を今に伝える重要文化財の本殿である。浄水で手と口を清め御挨拶をし、さあいよいよ入山だ。
そう、他の神社はいざ知らず、ここ「伏見稲荷大社」は、本殿の後ろにそびえる緑深き「稲荷山」そのものが御神体。本殿はいわばその玄関というわけだ。
朱と緑に囲まれて、いざ「お稲荷さん」の奥ぶところへ。
京の冬は、どこも凛とした空気が満ちている。ましてや西暦711年の昔から神が降臨し、以来1300年以上もの時を聖地として保ってきたこの地においてはなおのこと。
本殿を過ぎるころには神韻渺渺(しんいんびょうびょう)たる気配が深まる。
間もなく千本鳥居に至ると、もうそこは異空間。神の国へのラビリンスが待ち受ける。二つに分かれる鳥居のトンネル。どちらを選んで、どんな景色に出会うか。
もしも一人でお出かけでないのなら、二つの道に別れて進むのがおすすめ。いずれ会えると分かっていても「もしかして」の思いがふとよぎる。あちらはどんな景色に出会っているのかと想像してみるのもまた楽しい。鳥居の隙間に相手の姿が見え隠れするのがもどかしい。
二つの道が、また一つに重なるころには、お互いの近親感がより深くなることだろう。
ちなみにこれらの鳥居であるが、どなたでも奉納することができる。
来訪当時では、最もお手頃もので17万5千円だとか。奉納する場所と大きさにより値段が変わる。
この価格を安いとするか高く感じるか。あなたのおココロザシとフトコロ具合に相談して、ひとつ奉納してみては?
また参道沿いに点在するお社前には、奉納するミニ鳥居や餅、酒、意匠も多様なお守り、絵馬などの品々や、甘酒、しょうが湯などを扱うお店があるので、そこの方に色々話を伺ってみるのもいいかもしれない。
お稲荷さんと言えば「狐」がつきものだし、狐と言えば「お揚げ」を忘れるわけにはいかない。しかし、間違っていけないのは、お狐様はあくまでも神様の「眷属」であって神様そのものではないということだ。
たとえば、同じく京都の「北野天満宮」では、祀られているのはあくまでも菅原道真であって、撫でられツルツルになった牛ではない。それと同様に、伏見稲荷の狐も神の使いではあっても、神様そのものではない。
伏見稲荷大社は、穀物をつかさどる「宇迦之御霊神(うがのみたまのかみ)」を主神とする、五体の神様を中心に祀られている。
だがそのキャラクターのユニークさによって、ややもすれば神様よりも知名度が高く、庶民に愛されているのも事実である。
また穀物の神様のお使いなので、探してみると稲穂などを咥えている姿なども見つけることができる。
無数のお狐様の中から、お気に入りを探し出すのも一興。
また「おもかる石」という、願い事をしつつ持ち上げ、それが思ったよりも軽ければ願いがかなうという運だめしの石があるのでぜひお試しを。
途中にあるいくつかの茶屋で、お揚げグルメに舌鼓を打つのも楽しみの一つ。
ただし、山内にある食事のできる茶屋は、ほとんどがAM11時以降の開店なので、早朝参拝される方はしばしお待ちを。
とにかく、この山内にはお楽しみがあふれている。行ける所まで行ってみよう!
稲荷大社の最奥にして、最も高いところにあるのが「一ノ峰社」である。
達成感に満たされ、しばし体を休めたら、そのまま進み、また下界に向かっていこう。同じルートに合流しても、登りとは違った景色がひろがる。
参道沿いにいくつかあるお社は、それぞれ御利益が異なっている。
商売繁盛はもちろん、五穀豊穣、交通安全、恋愛成就、家内安全、人気上昇などなど。あらゆる御利益が満載だ。
目の健康専門の「眼力社」では、宝珠を頭に頂いた「逆さ狐」もお出迎え。
ご自分の願いに合わせ、また全ての御利益を頂くべく、難路を顧みず一ノ峰社まで辿り着いていただきたい。
ここにはいにしえより、人が望む多くの願いを受け入れてきた懐の深さと歴史がある。
あらゆる御利益はもちろん、おみくじなどの占いや、その軽重によって願いの成就の不可をはかる運だめし。参拝そのものはトレッキングを兼ねているし、参道には食欲・味覚を満たす茶店も点在する。お守りもその意匠は様々で、どれにしようか悩ませる。
また駅までの通りには数多くの店舗が立ち並び、あふれんばかりのお狐様グッズが目白押し。
お面にフィギュアにストラップ、キーホルダー。自分好みのお狐様をじっくり探してみてはいかがだろう。
お腹が空けば、かの秀吉が名付けたという茶店「祢ざめや」をはじめとする食事処に立ち寄って、参拝で疲れた体を休めつつ、名物の稲荷ずし、きつねうどんをはじめ、うずらや雀の焼き鳥、サバずしなどを存分に召し上がれ
神のいまし給うワンダーランドを拠点とし、レジャー・アトラクション・グルメ・ショッピングと様々な顔を持つ「伏見稲荷大社」は、神と人とが長い歴史の中で創り上げたアミューズメントパークと言っても過言ではない。
「御稲荷さま」にドップリひたり、その御利益を頂こう。
ただ、「一ノ峰社」までを極めようと思うなら、履物などの装備には気をつけて。高低差はかなりあるし、石段なども不安定なので。
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