写真:浦賀 太一郎
地図を見る安政5(1858)年。日米和親条約が締結されると、江戸幕府は東海道沿いにあって元々栄えていた神奈川宿、今のJR東神奈川駅・京急仲木戸駅付近を避け、横浜村という、当時耳慣れない小港を開港します。幕府は、異国への警戒心から、開港地をなるべく江戸から遠ざけたかったのです。
横浜港が開港すると、まず「国際港」の体裁を整えるために急ピッチで「近代化」が進みます。海路としては便利であった横浜港も、前述の通り街道からは少し離れていたので、とるものもとりあえず、まずは街道の充実を図り、吉田橋が架橋されました。
写真:浦賀 太一郎
地図を見る吉田橋をはじめ、街道の整備が進むと、次第に人々や物資の往来も増え、治安を維持していくために関門(関所)が設けられました。この関の海側を「関内」、内陸側を「関外」と呼ぶようになったのが、今を時めく横浜関内の始まりです!
現在の吉田橋関門跡は、地下化された首都高横羽線に架かる吉田橋として、姿は変えましたが橋名はそのまま残り、石碑と案内板が建てられています(冒頭の写真)。また明治2(1869)年には橋の架け替えが行われ、「日本初の鉄橋」が誕生。錦絵などに描かれ、文明開化のシンボルとなったのです。
日本初の「鉄の橋」の案内板(写真)は、吉田橋関門跡碑のすぐ近く、JR根岸線の高架下に建立されています。
写真:浦賀 太一郎
地図を見る吉田橋を渡れば、そこは関内馬車道。ほどなく地下鉄関内駅の入口が見えてくるはず。少し広い左側の歩道には、「近代街路樹発祥之地」碑があります。慶応3(1867)年。開港から10年程が経ち、横浜は一躍近代化の最先端地となっていました。
関内の主要道路であった馬車道では、人口過密な都市の景観を改善、つまり見栄えを良くするため、道々の商店がこぞって柳と松を植栽しはじめました。これが、その後日本全国に広がる日本初の近代街路樹だったのです。
写真:浦賀 太一郎
地図を見るまた、関内、特に馬車道の美観をさらに高めているのが「ガス灯」と言って良いでしょう。明治5(1872)年に馬車道や本町通りに設置され、点灯したガス灯が、日本初のガス灯であったと伝えられています。近代街路樹が立ち並ぶ夕暮れの馬車道に灯されるガス灯の燈火は、さぞかし夢幻の如き、それは幽玄な情景だったことでしょう。
柱の部分は英国から輸入し、日本の職人が灯具を製造したと言います。壁面レリーフ(写真)は、明治末期の馬車道の絵葉書を転写したもので、当時「キリシタンの魔法だ」として巷間を狼狽させたガス灯の歩みを今に伝えています。
写真:浦賀 太一郎
地図を見る「明治二年六月 馬車道通常盤町五丁目ニ於テ 町田房造ナルモノ 氷店ヲ開業ス」と碑文は語ります。近代街路樹が馬車道にて産声を上げたのと同じころ、ここで売られた氷菓子。これが「あいすくりん」と呼ばれ、大人気となって全国に広まりました。
「太陽の母子像(写真)」は、彫刻家・本郷 新(ほんごう しん)氏が、アイスクリームの原料であるミルクから連想して、母乳で子どもを育む「母」のイメージで制作したものです。この場所こそ、みんな大好き国民的おやつ「アイスクリーム」が始まったアイスの聖地なのです!
写真:浦賀 太一郎
地図を見る「日本初の写真師」下岡蓮杖(しもおか れんじょう)は日本写真の開祖と称され、ここ馬車道で写真館を開き、多くの門下生を育てました。開業当初は「写真を撮られると寿命が縮む」との迷信から、日本人客はほとんど無く、主に外国人客が和装で記念撮影する程度でしたが、次第に迷信は消え、日本人も来るようになると、店は大繁盛したと言います。
写真:浦賀 太一郎
地図を見るオブジェのてっぺんに当時のカメラが乗った個性的な「下岡蓮杖顕彰碑」のすぐそばには、写真の被写体にピッタリな「旧横浜正金銀行本店(現神奈川県立歴史博物館)」がありますので、ぜひ下岡蓮杖に習い、素敵な写真を撮ってみて下さいね!
写真:浦賀 太一郎
地図を見る世界史上稀に見る早さで近代化を推し進めた日本。その発信地であったのが、馬車道だったのです。元々は馬車の通れるほど広い道ではありませんでしたが、利便性を求める外国人たちからの要請を受けて拡張。街路樹、ガス灯も整備されました。
港から吉田橋まで、荷物や人を運ぶ馬車が通れるようになったこの道を、いつしか人々は、「馬車道」と呼ぶようになりました。日本で初めての乗合馬車(バスの起源でもあるんですよ!)が横浜〜東京間で運行開始されたのが、明治2(1869)年、吉田橋鉄橋の完成と、時期を同じくしております。
神奈川県立歴史博物館の向かいには、牛や馬の休憩所として飲み水が入っていた「牛馬飲水槽」が残されています。賑やかに車や人々が往来する馬車道にあって、まるでそこだけ時間が止まっているような、そんな不思議な空気を纏った史跡です。
日本近代化の歩みを今に伝える馬車道。約1kmの道をまっすぐ歩くだけ、営業時間なんかも気にせずに、多くの歴史に出会えます。グルメやおしゃれのスポットですが、そんな観光の味付けに、今回紹介した史跡の一つでも巡ってみて下さい。良い感じの調味料になりますよ!
<基本情報>
場所:神奈川県横浜市中区(関内・馬車道)
アクセス:JR根岸線・市営地下鉄関内駅、横浜高速鉄道みなとみらい線馬車道駅から徒歩0〜15分程度
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(2024/3/29更新)
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