横浜美術館はいつもと少し違います。壁にはオレンジ色のボート、入口の柱にはオレンジ、青、黒などの何かがたくさん付いています。階段が付いたトラック、5基のピラミッドも不思議です。美術館の正面に人目を引く作品を展示しているのです。
正面はウェイウェイ(1957年、中国生まれ)のふたつの作品です。柱に近づいてよく見ると、泥がついた救命胴衣がびっしり重なっています。シリアなどからの難民が地中海を渡ってギリシアの島にたどり着いた時に実際に着ていた救命胴衣です。救命胴衣と中央の黒いボートがセットで題名は《安全な通行》。オレンジ色のボート14隻は《Reframe》、窓枠のようにも見える場所に展示され、窓枠から枠組みを考える、難民問題を枠組みから考えなおそうというメッセージです。
写真:アイ・ウェイウェイ(艾未未)《安全な通行》《Reframe》2016 (c)Ai Weiwei Studio
なお、この記事の写真はすべて「ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景」です。
トラックはハートリー(1963年、イギリス生まれ)の《どこでもない国大使館》。2004年に北極圏で地図にない島を発見し、国家をつくるプロジェクトが始まりました。この国をよくするための提案をすると島の一部をもらえ、提案のいくつかはトラック外側の電光掲示番に上がります。提案ができるのは金〜日曜、祝日の決まった時間だけです。
写真:アレックス・ハートリー《どこでもない国大使館》2017
5基のピラミッドの上には、面を甲羅につけたカメ、人間、木があります。スライマン(1973年、マレーシア生まれ)の作品《金香木の島、シリウスの星、赤道軸の上で》です。スライマンはマレー系と中国系の血筋を引き、アイデンティティや東南アジアの複雑な歴史をテーマにしています。左端の白小石を敷き詰めたところも作品の一部です。美術館に向かって左側にも同じようにピラミッドが並びんでいます。左右を比べて見てください。館内の小倉山カフェにも関連作品があります。
写真:シュシ・スライマン《金香木の島、シリウスの星、赤道軸の上で》2017
入口を入ると目の前に立ちはだかる大きな作品は《善と悪の境界は縮れている》。アヴィアント(1976年、インドネシア生まれ)は自国の歴史や文化を考えた作品をつくります。この作品は日本の注連縄をイメージして、およそ1600本の竹を曲げたり、組み合わせたりして作りました。見る場所によっては綱や雑巾、象、女性にも見えます。あなたは何に見えますか。
写真:ジョコ・アヴィアント《善と悪の境界は縮れている》2017
後ろを振り向いて、上の階を見ると、同じような顔が88も壁に並んでいる作品《スペルミニ》。カテラン(1960年、イタリア生まれ)は命や死をテーマに社会を風刺する作品を発表しています。もうひとつの作品《無題》(2000年)を見つけて、つながりを探してみてください。
写真:マウリツィオ・カテラン《スペルミニ》1997
大きな白い壁の向こう側には3000匹の河蟹が山積みになっています。景徳鎮でつくった磁器製です。題名《河蟹(協調)》は、「河蟹」と「協調」が中国語では同じ発音で、インターネットなどでは別の意味「検閲」とも理解されることを暗示しています。美術館の正面の作品と同じ、ウェイウェイの作品で、強いメッセージを発信しています。
写真:アイ・ウェイウェイ《河蟹(協調)》2011
鮮やかな蛍光色が目に飛び込んで来ます。クマです。実物大のクマを蛍光色で染めた軽やかな鳥の羽で覆っています。ピンクのクマは何か言いたげで、黄緑と紫のクマが踊っているようにも見えます。ピヴィ(1971年、イタリア生まれ)は2006年からアラスカに住み、クマを題材にしています。クマは神話にも登場し、アラスカでは最大の動物。題名は奥から《I and I(芸術のために立ち上がらなければ)》、《私の大好きなジジ》(ともに2014年)にも自然や芸術への作家の想いが託されています。
写真:パオラ・ピヴィ《I and I(芸術のために立ち上がらねば)》など Courtesy the Artist and Perrotin
ネックレスが天井から下がり、傍らには虫眼鏡が用意されています。題名は《化石のネックレス》。パターソン(1981年、イギリス生まれ)は地質学、天文学、植物学などの専門的な情報を駆使してスケールの大きな作品をつくります。地球が生成された先カンブリア時代から人類が誕生した更新世までを、世界各地から集め、球体に加工した170種の化石でつなぎました。
写真:ケイティ・パターソン《化石のネックレス》2013
よく見ると、色、透明度、模様の違いがわかります。
エリアソン(1967年、デンマーク生まれ)は、光や風、水などを使った自然現象を体験させる作品を発表してきました。今回は移民、難民などを考える講座を開き、ワークショップを行う《Green light−アーティスティック・ワークショップ》です。「グリーンライト」は難民や移民の希望の光となるもの。ワークショップでは参加者が協力して、木材や糸で「グリーンライト」を組み立てます。その「グリーンライト」をつなげた作品が社会から孤立している人と社会とつなぎます。
写真:オラファー・エリアソン「Green light─アーティスティック・ワークショップ」 2017
《プロジェクト・タクラマカン》は砂漠で冷えたビールを飲もうというプロジェクト。実際に使った冷蔵庫、電線の束、記録を映す9つ画面が展示されています。200kmも電線を担いで運ぶのはこっけいに感じますが、シルクロードの歴史や作家ザオ(1982年、中国生まれ)の出身地ウイグル地区の現状を考える重いテーマでもあります。
写真:ザオ・ザオ 《プロジェクト・タクラマカン》2016
畠山(1958年、岩手県生まれ)は自然と人間の関わりをテーマに写真作品を発表してきました。2011年3月11日、東日本大震災以降は故郷の岩手県陸前高田市を撮影し続けています。写真、左《陸前高田市高田町 2012年6月23日 #1》、ほか《陸前高田》9点のなかには作家の実家があった場所の写真も展示しています。
写真:畠山直哉《陸前高田市高田町 2012年6月23日 #1》など
瀬尾(1988年、東京都生まれ)は東日本大震災の被災地にボランティアで出かけ、2012年から陸前高田市に転居。さまざまな想いを抱えた人たちに会い、その体験から、被災地の人たちの記憶を絵と言葉で伝える活動を始めました。作品は30点の《風景から歌|海のあるまち》から一部を紹介。しばらく立ち止まって、読んでいる来場者も。
写真:瀬尾夏美《風景から歌|海のあるまち》2017 など
木下(1947年、富山県生まれ)は孤独を受け入れながら尊厳を失わない人に魅せられ、10Hから10Bの鉛筆の濃淡を生かし、皺を生きてきた軌跡であると克明に描いて存在感のある人物を浮き上がらせます。永年のテーマ、合掌した手《合掌図・懺悔》は高さ4m、東日本大震災への祈りでもあります。
写真:木下晋《合掌図・懺悔》2015 など
現代アートは難しいと思っている方には、「ギャラリーツアー」をお勧めします。30分程で作品を何点か紹介され、作品との向き合い方のヒントを聞くことができます。
横浜美術館から別会場の横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館に行くには、会場間無料(チケットが必要)のバスをご利用ください。また、天候がよければ、横浜らしい風景を見ながら歩くと横浜とアートの思い出がつながります。
基本情報
ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」
2017年8月4日(金)〜11月5 日(日)
休館日:第2・4木曜日(10/12、10/26)
会 場:横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館地下ほか
開場時間:10:00〜18:00(最終入場17:30)[10/27(金)、10/28(土)、10/29(日)、11/2(木)、11/3(金・祝)、11/4(土)は20:30まで開場(最終入場20:00)]
横浜美術館の基本情報
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい 3-4-1
電話番号:045-221-0300
アクセス:みなとみらい線「みなとみらい駅」3番出口から徒歩3分
JR線および横浜市営地下鉄線「桜木町駅」から
<動く歩道>利用 徒歩10分
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(2024/4/26更新)
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