参詣だけじゃない、信仰を集めたこんぴらさん門前町を愉しむ

参詣だけじゃない、信仰を集めたこんぴらさん門前町を愉しむ

更新日:2017/09/22 17:46

江戸期より全国から参詣者が訪れた金刀比羅宮。“こんぴらさん”として親しまれ、現在も多くの信仰を集めています。多くの人々が訪れると、門前町は栄え、信仰にかかわるもの、人々の俗にかかわるもの、その他あらゆるものが建てられました。琴平に訪れたのなら、金刀比羅宮へ行く前に、ぜひとも訪れるべき場所がいくつかあります。今回はそのうちの5か所をご紹介します。

旅の始まりは琴平駅から

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旅の始まりはJR琴平駅。屋根は赤茶色のテラコッタ製パンタイル風で、壁面はハーフティンバー。中央には半円アーチの窓とポーチが備わる洋風建築です。JR琴平駅は明治22(1889)年開業。大正11(1922)年に3代目の駅舎が現在の場所に建設され、平成24(2012)年には国の有形文化財に登録されました。老朽化が進んだことと、観光企画にあわせて改修工事を続け、今年、平成29(2017)年の改修で大正11年の完成当時の外観に近づけました。

改修工事では、大正12(1923)年の開業当時に撮影された駅舎の写真などをもとに、屋根や壁部分の色を変更したり、照明器具を付け替えたり、駅名の看板を小さくしたりするなど細かな部分も当時の再現に努めており、大正建築の趣に触れられます。

寄進された日本一高い木造灯籠「高灯籠」

寄進された日本一高い木造灯籠「高灯籠」
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駅前からまっすぐ歩けば、金倉川に差し掛かります。かつては禊が行われた川で、橋の前にはその因縁を伝えるかのように大きな石鳥居がそびえます。ただ、この石鳥居の手前にもなぜか右方向へ誘う石鳥居が立っているのです。右の石鳥居は、多度津街道の終点に立っていたものをここに移設したもの。石鳥居の脇には、「金刀比羅宮北神苑」の石碑が立ち、その向こうに不思議な高楼があります。

寄進された日本一高い木造灯籠「高灯籠」
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高楼の正体は瀬戸内海を航海する船の指標として建てられた高灯籠。東讃岐の人々が講を結成して広く寄進を仰ぎながら6年を費やし慶応元(1865)年に完成した、地上3階建て、高さ27メートルの日本一高い木造の灯籠です。完成後は、海上から金毘羅さんを拝む目標灯となりました。

石垣は隙間のない乱積み切り込み接。初層が石垣なら、2層目は板張り。石垣同様、美しい曲線を描き、本瓦葺きの屋根を経て3層目は白漆喰、四方に華頭窓の付いた宝形造りとなります。軒丸瓦には金刀比羅宮を連想させる「金」の文字です。内部には、江戸期の人々の落書きがびっしりと刻まれているそうですが、残念ながら非公開。完成を喜ぶ人々が刻んだであろう歓喜の落書きは想像で楽しむしかなさそうです。

珍しい屋根付き木造反橋「鞘橋」

珍しい屋根付き木造反橋「鞘橋」
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高灯籠から金倉川を沿って南へ500メートルほど遡ると、かつての参道に架かっていた木橋が現れます。鞘橋です。銅板葺きの屋根付き木造反橋で、橋の名前は形が刀の鞘に似ていることに由来します。橋脚は無く、両岸から組み出す形式です。最初のものは寛永元(1624)年、参道前に架橋されたが幾度も災害に遭い、現在のものは明治2(1869)年の建造。明治38(1905)年に現在地に移築されました。

珍しい屋根付き木造反橋「鞘橋」
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屋根そのものは千鳥破風ですが、正面に立てば唐破風の妻。懸魚や束、本来は蟇股のある部分や木鼻、桁そのものにもそれぞれ木彫が施されており、やはり信仰にまつわる重要な建造物であることが窺えます。形状そのものは弧を描くようにカーブしていますが、屋根を支える柱は規則的に並んでおり、これが構造美を醸し出しています。

海のことと山を見つめる「海の科学館」

海のことと山を見つめる「海の科学館」
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金倉川を渡り、象頭山の特異な山容を背景に望みながら参道を歩くと、いよいよ金刀比羅宮名物の長い石段が現れます。しかし、石段をすぐ外れて左に折れると、海の科学館です。大きなこんぴら船の模型やその他有名な船の模型。船舶の構造を紹介する資料もあれば、操船シミュレーターやラジコン船といった遊ぶコーナーも揃います。そして、屋上の操舵室からの象頭山の眺望も必見です。

海のことと山を見つめる「海の科学館」
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象頭山はきれいな台形をした特徴的な山容です。地質学的に言うと、このような山を「メサ」と呼び、花崗岩質の山ですが、頂に風化のしにくい安山岩が載っているためにこのような形になりました。そして、特徴的な象頭山は雨の少ない讃岐平野にあって注目されて水神が祀られ、周辺を航行する際の目印にもなっていたことから海神の性格も加わり、これがのちに金刀比羅宮へと信仰の形を変えました。参詣前に象頭山の形をしっかり見ておきましょう。

日本最古の芝居小屋は琴平にあり「旧金毘羅大芝居」

日本最古の芝居小屋は琴平にあり「旧金毘羅大芝居」
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最後に海の科学館から約200メートルほど南下した場所に位置する旧金毘羅大芝居です。創建は天保6(1835)年。日本で現存最古の芝居小屋になります。明治期以降、芝居小屋は映画館となり、この使命を終えるといよいよ廃館し荒れていきましたが、戦後間もなくにこの建物の歴史的価値が評価され、昭和47(1972)年から4年の歳月をかけて金倉川付近から移築復元されました。

日本最古の芝居小屋は琴平にあり「旧金毘羅大芝居」
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芝居小屋の中に入れば、眼前に大きな松の書き割りが飛び込んできます。天井には役者の番付が知れる大きな提灯が複数ぶら下がり、客席は方形に仕切られた枡席です。観やすいように舞台に向かって緩やかな傾斜がつけられており、江戸期の芝居小屋建築の細かな配慮が感じられます。

花道や仮花道、舞台中央には床を回転させられる廻り舞台、奈落と舞台を上下できるようになっているせり、花道の頭上には役者が宙乗りするためのかけすじ、竹で編んだ格子状の天井で花吹雪を散らすことができるぶどう棚なども備わって実に多彩な工夫が施されています。

信仰が派生した姿があります

いかがだったでしょうか。信仰に関わりのある灯籠と橋。人々が集まったことによって建てられた駅と芝居小屋。そして、内陸でありながら海にゆかりのある琴平にちなんだ海の資料館。信仰から様々なものへ派生する面白さがこれらから感じられます。琴平に訪れたら、金刀比羅宮の信仰をより深く知るためにもぜひ門前をよく回りましょう。

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/08/21 訪問

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