大阪「天王寺七坂」小説の舞台を歩く。しょうみの街

大阪「天王寺七坂」小説の舞台を歩く。しょうみの街

更新日:2020/03/10 14:20

潮 佳澄のプロフィール写真 潮 佳澄 司書
ネオン街、お笑い、B級グルメ…そんなイメージが強い大阪ですが、大阪市内に寺社が密集する緑豊かな街があります。上町台地の西側、天王寺区に位置する「天王寺七坂」は、真言坂・源聖寺坂・口縄坂・愛染坂・清水坂・天神坂・逢坂の七つの坂を指し、大阪を舞台とした物語の中に登場します。ゆっくりとした不思議な時間が流れる七坂の中でも魅力的な四つの坂を紹介します。

天王寺七坂の魅力と歩き方

天王寺七坂の魅力と歩き方

写真:潮 佳澄

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天王寺七坂は数多くの小説に登場する、大阪の風情を残す数少ない場所です。寺の密集度では日本一ともされる下寺町界隈は、緑も多く、それぞれの坂に特徴があります。谷崎潤一郎、司馬遼太郎、田辺聖子…縁の作品を挙げだすとキリがないほど。2017年には「第5回 大阪ほんま本大賞」を受賞した有栖川有栖著『幻坂』の舞台ともなりました。それぞれの坂道が人を惹きつけるしょうみ(本物)の大阪を教えてくれます。

中でも、オダサクの愛称で親しまれる織田作之助は、生玉神社のすぐ近く生玉町で幼少期を過ごし、作品『木の都』の中で「大阪は木のない都だといはれてゐるが、しかし私の幼時の記憶は不思議に木と結びついてゐる。」と記しています。訪れる前に読むか、片手に持って歩きたいうちの1冊です。

坂巡りをしてみると、景色もさることながら、猫たちの数にも驚きます。愛想のいい猫たちに「そない急がんとゆっくりしてきぃや」と言われているようで、日常から離れたのんびりとした気持ちになります。

天王寺七坂の魅力と歩き方

提供元:てんのうじ観光ボランティアガイド協議会

https://www.osakacommunity.jp/tennoji/kanbora/kanb…

天王寺七坂は大阪市営地下鉄谷町線「谷町九丁目」から地下鉄堺筋線「恵美須町」付近までの南北にかけて東西に横並びで並んでいます。直線距離にすれば駅と駅の間は徒歩で30分ほどですが、すべての坂を登ったり下ったりするには、少なくとも2時間、寺社を散策しながら歩けば3、4時間はかかります。

坂は北から順に生國魂神社(いくたまさん,生玉さん)の北門に続く真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂、となっており、おすすめのルートは谷町九丁目をスタートに北から順に周るルートです。生玉さんの拝殿横、授与所で七坂のスタンプラリー台紙(100円)もいただくことができます。台紙は、天王寺区民センターと愛染堂以外の11寺社でも購入できるので、事前に確認を。天神坂からほど近く、真田幸村終焉の地とされる安居神社の拝観時間が7時〜16時までなので、歩き始める時間には注意しましょう。ゴール地点とも言える逢坂、一心寺の参拝時間は午前5時〜午後6時までです。

別世界に迷い込む「源聖寺坂」

別世界に迷い込む「源聖寺坂」

写真:潮 佳澄

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七坂の中でも、趣を感じさせる源聖寺坂。坂下のお寺が源聖寺であることに由来しています。石畳の道からまっすぐに石段が続いてるように見えますが、途中で右手に大きくカーブしているので、階段先が見えず、どこへ続くのか、不思議な感覚を覚えます。

昭和初期まで、坂にはコンニャク好きの狸、コンニャク八兵衛が祀られた源九郎稲荷があったとされます。コンニャクを買って坂を登っていると、買い物カゴが軽くなり、たぬきにコンニャクを盗まれたのだとか…。現在、坂に神社はありませんが、別世界と隣り合わせのような、不思議な雰囲気を漂わせる坂道です。

猫も集まる気持ちのいい小道「口縄坂」

猫も集まる気持ちのいい小道「口縄坂」

写真:潮 佳澄

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木陰がつくる日だまりと石階段が印象的な口縄坂。寺に囲まれた細い小道に続く石段は居心地がいいのか、猫と出くわすことが多い場所です。桜の咲く春、新緑の夏、秋と冬には枯れ木と石段が哀愁を漂わせ、四季折々の姿を見せてくれます。

猫も集まる気持ちのいい小道「口縄坂」

写真:潮 佳澄

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登った右手には織田作之助の文学碑があり、刻まれた『木の都』の文字通り、夏には目の前に豊かな木々が広がります。七坂巡りの中でも後半、日が落ち始めた頃合いに通ると、陰が大きく、土壁とのコントラストがきれいに映えます。

夕日の中を歩きたい「愛染坂・大江神社」「逢坂」

夕日の中を歩きたい「愛染坂・大江神社」「逢坂」

写真:潮 佳澄

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愛染坂には2つのルートがあります。広く開けた愛染坂を通る道とすぐ隣にある大江神社境内にある「百歳の階段」を通る道。「百歳の階段」は百一段あり、人生の区切り百歳よりあともう一歩、心も身体も健康でありますように、という願いが込められています。坂上にはえんむすび、夫婦和合、商売繁盛の神様である「愛染堂 勝鬘院」があるので、合わせてお参りもしたいところ。
口縄坂の坂上から谷町筋を抜け、愛染堂の坂上に着き、愛染堂・大江神社をお参りし、「百歳の階段」を下り、愛染坂を登るようにすると、清水坂へと抜けやすくなります。夏から秋にかけて、夕暮れに訪れると、ちょうど坂上から町に沈む夕日を眺めることができます。

夕日の中を歩きたい「愛染坂・大江神社」「逢坂」

写真:潮 佳澄

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同じく夕日と一緒に眺めたいのが逢坂から望む通天閣。四車線の国道25号が走り、七坂巡りの終着にもふさわしく思えるもっとも現代的な坂道ですが、江戸時代から、四天王寺参詣と天王寺村から大阪市中に出る要路でした。坂上には、法然上人の「日想観」(西に沈む夕陽を心に止め、極楽浄土を見る修行の一部)のご遺跡で有名な一心寺があります。

街並みは変わっても見晴るかす空に変わりなく、大阪で夕日を望むには随一の場所と言えます。

大阪”坂道”散歩。天王寺七坂。

七坂の中でも絶対訪れたい、四つの坂を特に取り上げて紹介しました。小説の世界に入り込む表情豊かで個性的な風景。「コテコテ」もいいけれど、大阪人さえ忘れかけている歴史深い「しょうみ(本物)の大阪」に触れる旅は人とは違う、あなただけの不思議な出会いがあるはずです。

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/09/18 訪問

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