明治の芝居小屋、秋田県小坂町「康楽館」〜日本最古級の劇場で観る東洋一の賑わい〜

明治の芝居小屋、秋田県小坂町「康楽館」〜日本最古級の劇場で観る東洋一の賑わい〜

更新日:2017/07/21 12:47

ゐさ よりこのプロフィール写真 ゐさ よりこ 舞台芸術ライター
明治時代に建てられて以来、移築も改築もせず当時のままの姿を残す、日本最古級の劇場のひとつ「康楽館」。鉱山資源で栄えた秋田県小坂町の常設劇場として、今も頻繁に芝居の上演が行われています。界隈は明治の街並みを再現した「明治百年通り」。明治時代にタイムスリップした気分でお芝居を楽しめます。

日本最古級の木造建築劇場

日本最古級の木造建築劇場

写真:ゐさ よりこ

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秋田県小坂町にある芝居小屋「康楽館」は、香川県にある「金丸座」、兵庫県の「永楽館」と並ぶ、日本最古級の劇場のひとつです。

明治時代に、鉱山の採掘によって「東洋一の鉱山」と呼ばれるほど栄えた、秋田県小坂町。街は、採掘技術を教えるためにヨーロッパからはるばるやってきた外国人や、鉱山で職を得るために家族を伴って来た日本人など、国内外から来る人で大賑わいでした。

日本最古級の木造建築劇場

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小坂鉱山があった近くに整備された「明治百年通り」は、当時の栄華を物語るような美しい洋館が建ち並ぶ遊歩道。アカシヤの並木が美しい通りのほぼ中心部に、「康楽館」は建っています。興行の開催に合わせて、色とりどりの幟(のぼり)が立てられる様も、明治時代の芝居小屋の様子を再現したものです。

明治時代の様式を遺す現役の国重要文化財

明治時代の様式を遺す現役の国重要文化財

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もとは、鉱山で働く従業員の福利厚生施設として建てられた康楽館。TVもゲームもなかった時代、このような芝居小屋は日本全国各地に建てられ、庶民は身近な場で娯楽に興じていました。康楽館もそんな、昔の日本の風景とも言えるような文化の中で造られた施設です。

戦後に鉱山が閉山したことで、康楽館を訪れる人は減り、建物自体の老朽化も進んで、一時は解体の危機に陥りました。しかし、大衆芸能を研究していた俳優・小沢昭一はじめ各方面から「遺すべき」という声があがり、小坂町の人々の努力と情熱の甲斐あって康楽館は存続することに。修復期間を経て、明治時代に開業した当時の姿をほぼそのまま残した、和洋折衷の芝居小屋として、以前のように興行が入るようになったのです。

現在では主に大衆演劇の劇団によって、年間約200公演、1日あたり2〜3回の「常打芝居(じょううちしばい)」が行われており、連日多くの人が訪れています。

明治時代の様式を遺す現役の国重要文化財

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近年では「地芝居であった原点に返って、地方の芝居小屋で歌舞伎を上演したい」という志を持つ歌舞伎役者を中心に、この康楽館で襲名披露公演などを行うことも増えています。毎年7月に開催される「康楽館歌舞伎大芝居」は、近隣だけでなく全国からも来場者がある、大人気の恒例行事です。

和洋折衷の内装は「東洋一の芝居小屋」ならでは

和洋折衷の内装は「東洋一の芝居小屋」ならでは

写真:ゐさ よりこ

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その規模や美しさ、当時としては最新の設備を採り入れたことなどから「東洋一の芝居小屋」とまで呼ばれた康楽館。木戸をくぐり、中へ入ると、土間から靴を脱いで上がるところは、いかにも日本の旧い芝居小屋らしいところ。

和洋折衷の内装は「東洋一の芝居小屋」ならでは

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客席は平場(座布団を敷いて座るスタイルの客席)と椅子席の2種類があり、平場の席の間には花道と仮花道のほかに、「渡道」と呼ぶ通路が格子状に通っています。康楽館では、劇場のスタッフがこの通路を歩きながら、コーヒーやお菓子などを販売しています。これも、昔の芝居小屋の特徴。

緞帳の絵は、小坂町出身の画家・福田豊四郎の作品。西陣織で仕立てた高級品です。歌舞伎を上演するときは、この緞帳の外側に3色の定式幕が引かれます。

和洋折衷の内装は「東洋一の芝居小屋」ならでは

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この劇場の大きな特徴のひとつが、天井。八角形の枠組みの中央に、チューリップ型の電灯が輝きます。この電灯も、明治時代からの姿そのままに使われているもの。東北地方にまだ電気が引かれていなかった明治時代に、小坂町では鉱山に日本で2番目の水力発電所を持っており、電気が使えました。電灯が点る芝居小屋は他になく、当時では最先端の設備を持った芝居小屋だったのです。

天井は最先端、でも舞台はすっぽんの付いた花道とお囃子さんの部屋がある、江戸時代の芝居小屋様式。和と洋、新旧が一つの空間に、見事に溶け合って存在するこの劇場は、建築史の観点から見ても価値の高いものです。

舞台下も建築当時のまま

舞台下も建築当時のまま

写真:ゐさ よりこ

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歌舞伎公演など一部の期間を除き、劇場内部を見学できます。見どころは、舞台下。いわゆる「奈落」です。明治時代に建てられた頃からの舞台装置が、今も現役で使われているのです。

舞台下も建築当時のまま

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歌舞伎の舞台装置につきものの、花道の途中にある「七三(しちさん、役者がせり上がる部分)」。ロープと滑車を使って、二人がかりで操作するこの装置も、明治時代に造られた当時のものを使っています。舞台装置は電化されておらず、動力は人手なのです。

同じく、建設当時のままの「回り舞台」は、直径9メートル以上もの仕掛け。4人がかりで回す様は圧巻!

豪華列車の味に舌鼓を打ちながら観劇

豪華列車の味に舌鼓を打ちながら観劇

写真:ゐさ よりこ

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お芝居見物には、食が付きもの。人によってはお酒も?康楽館のロビーには、そばとうどんを出す簡単な食堂があるほか、売店でコーヒーやソフトクリーム、おにぎりなどの軽食と、小坂町の名産品を販売しています。実は小坂町は、アカシアの花から採取した蜂蜜や、山ぶどうで醸したワインなど、地場産品の多い街なのです。

売店に並ぶワインの中で、ひときわ目を惹く存在が、小坂町産の山ぶどう「ヤマ・ソービニオン」で醸した辛口赤ワイン「鴇(ときと)」。JR東日本が運行する豪華クルーズ列車「TRAIN SUITE 四季島」のダイニングで提供されるワインが、この「鴇」なのです。東北地方の「粋」を集めた豪華列車に採用されたワインを、康楽館に入った記念としてもおひとついかが?

豪華列車の味に舌鼓を打ちながら観劇

写真:ゐさ よりこ

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終演後は、観たお芝居の感想を、隣にあるカフェで語りましょう。「明治百年通り」には、康楽館のほか、明治時代の建物をそのまま活かしたカフェ「赤煉瓦倶楽部」もあります。康楽館と同じ、貴重な木造煉瓦造の建物は、高い天井にクラシカルな照明が淡く灯り、優雅な雰囲気にあふれています。

時代を超えたような空間で、小坂町産のワインをグラスで味わい、お土産を選びながら、お芝居の余韻に明治時代の空気ごと浸りましょう。

劇場で明治時代へタイムスリップ

康楽館へのアクセスは、公共交通機関を利用する場合は「十和田南」駅から路線バスに乗り、「小学校前」で下車します。盛岡駅から来る場合は「鹿角花輪」駅で下車して路線バスに乗ることも出来ます。山と田畑が広がる田園風景の中に、突如として、石畳で造られた明治の街並みと、賑々しく幟を掲げる和洋折衷の建物が現れます。そこが、小坂鉱山のかつての栄華を伝える一帯で、現役・最古級の芝居小屋がある地です。

舞台芸能大国・日本には、全国各地に、地元の人々が生活の合間に娯楽としてお芝居を楽しむ場である大小の「芝居小屋」が全国各地に存在します。康楽館は、大俳優が「遺すべき」と進言したほどの貴重な存在。明治時代の風情漂う芝居小屋の中で、当時の人々の気分になりきって、庶民の舞台芸術を楽しんでみませんか。

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掲載内容は執筆時点のものです。 2017/07/08 訪問

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