瀬戸内海「犬島」で産業遺構と古い町並みを活用したアートを体感!

瀬戸内海「犬島」で産業遺構と古い町並みを活用したアートを体感!

更新日:2017/07/08 16:11

竹内 あやのプロフィール写真 竹内 あや トラベルライター
瀬戸内海には、ゆったりとした島時間が流れる素敵な島々が多く点在しています。小豆島の北西、岡山県南東部沖に浮かぶ小さな島・犬島もそのひとつ。“アートの島”としても知られ、近代化産業遺産を活用したアートスポットと古い町並みに溶け合った現代アートで、世界各国から多くの人々を惹きつけています。

瀬戸内海に浮かぶ、人口約50人のアートな島

瀬戸内海に浮かぶ、人口約50人のアートな島

写真:竹内 あや

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岡山県南東部の宝伝港から南へ約2.5q、瀬戸内海に浮かぶ犬島は面積約0.54平方km、人口約50人の小さな島。昔から良質な石の産地として知られ、この地で採掘された石は江戸城や大阪城、岡山城の石垣などにも使われてきました。明治時代後期、この小さな島にも近代産業化の波が押し寄せ、銅の精錬所が開設されますが、第1次世界大戦後の銅価格の暴落に伴い、わずか10年で閉鎖。当時は3000人以上もいたといわれる労働者は去り、朽ち果てた精錬所だけがあとに残りました。

そんな産業遺構が「犬島アートプロジェクト」の一環として、犬島精練所美術館に生まれ変わったのは、精錬所閉鎖から100年近くもの時を経た2008年のこと。さらに古い集落を再生した「家プロジェクト」が加わり、次第に“アートの島”として知られるようになりました。

現在美術を通じて島々の魅力を世界へ発信していこうと、2010年には第1回瀬戸内国際芸術祭が開催され、2013年の第2回、2016年の第3回を経て、今では近隣の直島、豊島などと共に世界各国から多くの人々を惹きつけています。

廃墟から生まれ変わった犬島精練所美術館

廃墟から生まれ変わった犬島精練所美術館

写真:竹内 あや

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フェリーが発着する犬島港を降りると、左側にモノトーンのシンプルな建物が見えてきます。観光案内所も兼ねているこのチケットセンターで、まずは犬島精練所美術館、家プロジェクトの共通チケットを購入。左手に海を眺めながら煙突に向かって歩くこと約300m、美術館へとたどり着きます。

廃墟から生まれ変わった犬島精練所美術館

写真:竹内 あや

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既存の煙突やレンガを活かしながら、太陽熱や地熱などの自然エネルギーを利用した建物は、建築家・三分一博志が手掛けたもの。敷地内には当時のままの姿を残した発電所(写真)などもあり、「カラミ煉瓦」と呼ばれる黒いレンガの遺構があちらこちらに散らばっています。ところどころ地面を覆っているのは、「スラグ」と呼ばれる銅を精錬する際に出る砂のような廃棄物。カラミ煉瓦は、これをもとに造られているのだそうです。

目の錯覚を用いた不思議な空間に、近代社会の在り方を問う作品

目の錯覚を用いた不思議な空間に、近代社会の在り方を問う作品

写真:竹内 あや

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館内(写真は美術館の外観)へ入ると、1組ずつ薄暗い通路へと案内されます。しばらく進んで行くと、どこまでも続いていると思われた通路がまっすぐではないことに気づかされます。実はところどころ45度の角度に鏡が設置されていて、実際はジグザグと曲がりながら進んでいくことに……。

ただ不思議なのは、かなり先を歩いていたはずのカップルが突如、目の前に現れたり、ときにはダブルになったりして見えること。そして、後ろを振り返ってみると曲がりながら歩いてきたはずなのに、あるのはまっすぐに続く通路のみ。さきほど入ってきた入口から、新たに入場する人々の姿も見え隠れしています。

あらゆる境界線は、実は存在するようで存在しないのかもしれない……。そんなことを考えさせられるような不思議な空間です。

レンガが敷き詰められた床と壁の間を、ヒューヒューと吹き抜ける風の音。しばらくするとぼんやりとした光が現れ、やがて真っ青な瀬戸内海が広がる外界へと抜け出します。

これは、アーティスト・柳幸典による映像、鏡、すりガラス、音響、自然光などを利用した空間作品「イカロス・セル」。館内にはほか5つの作品があり、総じて「ヒーロー乾電池」と名付けられています。

ほか5作品は、工場の廃材に小説家・三島由紀夫が1937〜50年まで暮らしていた東京都渋谷区松濤の家の部材を組み合わせたもの。扉や窓枠などが空中に浮かぶ「ソーラー・ロック」や「イカロス・タワー」、鏡に映し出された何重にも連なる空間に、三島文学が滴る血のように流れ出す「ミラー・ノート」など、どれも衝撃的で印象的。日本の近代化に警鐘を鳴らした小説家を、その象徴ともいえる精錬所に重ね合わせることで、今後の日本の在り方について問いかけているのだそうです。

古い町並みに溶け込むアート作品の数々

古い町並みに溶け込むアート作品の数々

写真:竹内 あや

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集落で展開する「家プロジェクト」は、アーティスティックディレクター・長谷川祐子、建築家・妹島和世が手掛ける集落再生プロジェクト。もともとその地にあった民家の瓦屋根や木材などにアクリルやアルミなどの現代的部材を組み合わせることで、集落一体に彩りを添えています(写真はI邸と呼ばれる建物)。

古い町並みに溶け込むアート作品の数々

写真:竹内 あや

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集落には、アーティスト5人による作品が点在。曲線を描く透明アクリルの壁が連なる「S邸」には、サイズや焦点が異なる無数のレンズが吊り下がっています。「コンタクトレンズ」と名付けられたこの作品は、アーティスト・荒神明香によるもの。一つひとつのレンズに映し出された光景は、見る角度によっても異なり、“見る人によって見える世界は多様”であることを表しているのだそうです。

古い町並みに溶け込むアート作品の数々

写真:竹内 あや

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ほかにも建物内を無数の水糸の“光線”で張り巡らせた下平千夏作の「エーテル」や、石職人の家跡に数々の動植物が描かれた淺井裕介作の「太古の声を聞くように、昨日の声を聴く」(写真)など、古い町並みに溶け込むようにいくつものアート作品が点在しています。

ひと巡りした後には、名物の「たこ飯」をいただこう!

ひと巡りした後には、名物の「たこ飯」をいただこう!

写真:竹内 あや

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昔ながらの古民家が建ち並ぶ集落をひと巡りしたら、チケットセンターへ。一角には、かつて民宿だった建物を改装したという畳座敷のカフェがあり、瀬戸内海を目の前にゆったりとした時間を過ごせます。

ランチ時であれば、瀬戸内海の郷土料理「たこ飯」はいかが? 伝統レシピをもとに生タコの仕込みからていねいに作り上げた一品で、プリプリのタコの感触が楽しめます。ほかにも、ひと昔前まで犬島の子どもたちがおやつとして食べていたという、小豆汁のなかにカボチャとそうめんが入った「犬島ぜんざい」、暑い日にうれしい「犬島ジンジャー」など、地域の人々と共同で開発したというオリジナルメニューをいただけます。

古い町並みに現代アートが点在する島へ!

小さな犬島は、徒歩で十分に巡れる広さ。古い町並みを足の赴くままに散策したり、民家の屋根越しに広がる瀬戸内海を見つめたり……。のどかな時間が流れる島を舞台に、自然と産業、過去と現在、伝統家屋に映える現代アートなど、さまざまなものが交錯する不思議な空間へと足を運んでみませんか――。

■アクセス■
犬島へのフェリーが発着する岡山県岡山市の宝伝港へは、JR岡山駅から電車とバスで約1時間15分。そこから犬島までフェリーで約10分。

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/07/02−2017/07/03 訪問

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