山口の瀟洒な要港の町で近代建築探訪を愉しむ〜下関〜

山口の瀟洒な要港の町で近代建築探訪を愉しむ〜下関〜

更新日:2017/04/28 13:17

関門海峡に臨む本州最西端の都市、下関。戦前戦後の関門トンネル開通まで本州と九州を結び、現在も本州とアジアを結ぶ“西の玄関口”としての機能を果たしてきた海上交通の要衝です。この立地のために港町として興隆し、多くの西洋を模した近代建築が建てられました。

現在の下関は最盛期に比べて要衝としての機能は薄れましたが、往時を物語る建造物が今もなお残ります。今回は下関の隆盛を偲びつつそんな建築群のご紹介です。

いかにも英国風な「旧下関英国領事館」

いかにも英国風な「旧下関英国領事館」
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唐戸市場から西へ100メートルほど。桟瓦葺きの寄棟屋根を乗せた2階建てのアシンメトリーなレンガ造りです。「英国」の領事館だけに、レンガは小口だけの列と長手だけの列を交互に積んだイギリス積み。窓枠やベランダの柱、屋根下などに見られる白い石材がレンガの赤と良いコントラストを生み出しています。

明治39(1906)年に建てられました。建築はクイーン・アン様式。内装には優美さがあります。1階は領事室、海軍監督官室、書記官室、文書室及び待合室の4室で構成された領事の業務のための空間で、2階は海軍監督官の住居となっていました。現在、1階は自由に見学ができ、2階はレストランになっています。

この建物には附属屋もあり、ギャラリーとして利用されています。こちらも覗いてみると良いでしょう。

屋上庭園を擁する和洋折衷「旧秋田商会ビル」

屋上庭園を擁する和洋折衷「旧秋田商会ビル」
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旧下関英国領事館からすぐ西、西日本で最初の鉄筋コンクリート造の事務所建築とされるビルがあります。それが旧秋田商会ビルです。竣工は大正4(1915)年、木材取引等の商社的活動と海運業を営む秋田商会のビルで地上3階、地下1階のドーム型屋根を有する塔屋付きです。

外観は褐色のタイルと幾何学模様の入ったピラスター、縦長で小さなバルコニーを備えたフランス窓があり、ルネサンス様式を基調としたデザインであることが窺えます。内部は1階の事務所スペースが洋風、2階と3階の居住スペースが和風の書院造りの和洋折衷です。屋上(見学不可)には日本庭園と茶室を設け、当時としては非常に先進的な構造をしていました。

最古の現役郵便局「下関南部町郵便局」

最古の現役郵便局「下関南部町郵便局」
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旧秋田商会ビルに隣接して“日本最古の現役郵便局舎”もあります。それが下関南部(なべ)町郵便局です。明治33(1900)年に建てられたもので、下関の洋風建築物の中でも最古を誇ります。

外壁はモルタル横目地仕上げですが、桟瓦葺きレンガ造りの2階建てです。窓は1階が半円アーチ、2階は長方形で三角のペディメントが付いています。全体的なデザインは古典主義を簡素化した具合になっており、細かな装飾もあまり見られません。豪奢な雰囲気を避けた、公共施設らしい造りと言えるでしょう。

中に入れば、どこの町でも見られるような郵便局の業務が行われているのですが、半円アーチの窓から光が差し込み、見上げてみれば白亜の天井に控えめながらも瀟洒なローゼットの装飾が見られるこの趣は、確かに洋風建築物のものなのです。郵便局の奥ではカフェも営業しています。こちらで寛ぎながら下関最古の洋風建築にいる感慨にふけるのも一興でしょう。

どっしりとした重厚感「旧山口銀行」

どっしりとした重厚感「旧山口銀行」
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唐戸市場から500メートル程度南西には山口銀行旧本店が現在もどっしりと鎮座しています。大正9(1920)年にレンガと鉄筋コンクリートで建設された2階建て、地下1階の方形の建物で、外壁を花崗岩で覆い装飾を施した重厚感ある大正期らしい銀行建築と呼べるでしょう。

外壁の装飾を見てみましょう。外壁の色は花崗岩のグレー一色。2階に及ぶ縦長の窓と、それを挟むピラスターが印象的です。窓の上のアーチにはキーストーンが配され、さらにその上部には牛頭や花の彫刻です。ピラスターは縦溝が入り、渦巻模様とアンカサスの葉の柱頭を持つコンポジット式を模しています。屋上には緩いアーチを描いた巨大なペディメントも見られます。

外観は古典主義の建築様式をふんだんに取り入れたものになっています。これが威風堂々とした佇まいにしているのです。

どっしりとした重厚感「旧山口銀行」
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中に入ると、目の前にはカウンター。床には亀甲模様のタイルが張られ、2階は吹き抜けで歩廊が廻り、天井は漆喰塗りの格天井になっています。天井蛇腹、格縁、付け柱の柱頭部などにも古典主義的なモチーフが石膏彫刻で施されており、贅を尽くした装いです。

また、緩やかで優美なカーブを描くケヤキ造り螺旋階段の南階段と塩地(しおじ、モクセイ科トネリコ属の落葉広葉樹)造り折り返し階段の北階段、金庫室等もみどころ。現在の正しい名称は「やまぎん史料館」。それだけに、山口銀行の歩み、山口県とともに歩んできたことから県内の伝統工芸品なども展示して紹介しています。入館無料なのもありがたいです。

ユニークさが光る「旧逓信省下関電信局電話課庁舎」

ユニークさが光る「旧逓信省下関電信局電話課庁舎」
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唐戸市場の北西、大正13(1924)年に旧逓信省下関電信局電話課庁舎として竣工した建物があります。現在は「下関市立近代先人顕彰館田中絹代ぶんか館」として開館しています。

この建物の特徴は、縦溝の入った柱のように高さを強調する直線と、塔屋や窓に見られる曲線によって構成されているところにあります。シンプルかつモダンないわゆるモダニズム建築です。当時の逓信省営繕課により設計され、ヨーロッパの新建築運動に影響を受けつつも建築に美やオリジナリティを持つべきだと主張する若手建築家たちによる「分離派建築会」の建築の要素を持っています。

大正末期から昭和初期にかけて全国に建てられた電話局舎は、ほとんどが同様の特徴をもっていましたが、今はこの下関の建物が現存する唯一の建物となっています。

ユニークさが光る「旧逓信省下関電信局電話課庁舎」
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階段では転落防止柵が見られます。昭和期に取り付けられたと思われ、デザインは時折見られる丸がリズミカルな印象を与えています。また、波型の装飾の見られる柱頭飾りや幾何学模様の換気口、ローゼット等も館内で見られます。ぜひ、探してみましょう。

建築からは街の特性も見られます

いかがだったでしょうか。これらが下関で主な近代建築として挙げられる5棟です。明治後期から大正期の建築になり、この頃が下関の最も興隆した時代だったことが判ります。領事館、海運業、銀行の本店といったラインナップから下関が確かに要衝だったことが窺え、最古の郵便局があったこと、電信局のデザインがユニークさから往時の街の雰囲気として進取の気性があったことも想像できます。

いずれも徒歩で回りきれる圏内にあります。ゆったりと下関の街を回りながら近代の港町の面影に触れる。上質な休日になること請け合いです。

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/04/21 訪問

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