写真:毎川 直也
地図を見る北海道の玄関口、函館は、1859年に海外貿易がスタートして以来、欧米、ロシア文化の影響を受けました。函館市は当時の様子を色濃く残している建物を「景観形成指定建築物」に指定し、文化の継承をおこなっています。
今回ご紹介する大正湯は、おそらく日本唯一の洋風の銭湯ということで、函館市の景観形成指定建築物に認定されています。
写真:毎川 直也
地図を見る函館駅から路面電車に乗り、終点の「函館どつぐ前駅」で下車。函館山へ続く坂道を5分ほど登っていくと、ピンクの外観が印象的な大正湯が見えてきます。建物は昭和3年竣工、外装の塗り直しはしているものの建て替えはせず、当時のままの雰囲気を維持しています。
船大工をしていた初代は木造船のメンテナンスをするため同乗し、ロシアに行く機会が多かったのだそう。初代が見た当時のロシアの景色を再現しています。
写真:毎川 直也
地図を見る歴史を感じる右読みの屋号。その下の入り口は雪国ならでは、二重になっています。外側の戸は、玄関の雪囲いをするということから「囲い戸」と呼び、囲い戸と玄関の間の空間を「玄関フード」もしくは「囲い」と呼ぶのだそう。
そしてこれまた雪国ならではと感じるのは「暖簾の位置」です。屋外に出さず、玄関フードの中にあります。引き戸を開けて店内にはいると、靴を脱ぐ前に入り口が男女別になっています。扉を開くとすぐに脱衣所です。
写真:毎川 直也
地図を見る店内にはいると、横に長く高さが低い下足箱がお出迎え。一般的な銭湯ではあまり見かけません。また、靴の着脱スペースは広くとってあります。長靴、スノーブーツのお客さんが多い土地柄を感じます。写真左手、藤籠の隣にある丸い金属製のものは傘立てです。現在はほとんど見かけることがない貴重なものです。
写真:毎川 直也
地図を見る入浴料金は番台で支払います。実はこの番台、船大工をしていた初代の手作り。釘を使っていません。この技術と年季の入った木の風合いが、愛着を持ってメンテナンスされ続けてきたことを感じさせてくれます。
写真:毎川 直也
地図を見るこちらは脱衣場です。写真右手のトイレの壁面についている鏡に注目してください。この鏡は開店時の昭和3年からずっと使われ続けています。当時日本にはこのような大きな鏡をつくる技術がなかったため、舶来の大変高価な品と言われています。
写真:毎川 直也
地図を見る格子状になっている天井は銭湯建築の代表「格天井」。これはお店が建った当時のものを使っています。格天井はメンテナンスが大変と言われますが、大正湯は脱衣場が乾燥しているため、湿気でダメージを受けることがほとんどないのだとか。船大工の初代が湿気を逃がす技術を、設計の段階で組み込んでいたのかもしれませんね。
写真:毎川 直也
地図を見る脱衣場に見覚えのある女性の写真が。大正湯は映画『パコダテ人』の撮影に使われ、ひかる役・宮崎あおいさんの家として登場しています。営業が始まる前の午前中や定休日に撮影をおこない、その間も店の営業は続けていました。
写真:毎川 直也
地図を見る大正湯の湯船は2つ。ジェットとバイブラの大変シンプルな装備です。函館には湯の川温泉という温泉地がありますが、大正湯のある場所には温泉が湧いておらず、地下水も出ないため、水道水を沸かしています。
そう言うと家の風呂と同じように感じるかもしれません。ただ雪国で水道水を沸かすのは大変な量の燃料が必要になります。大正湯では重油を燃料として使っており、その燃料費は関東以南の地域とは比べ物になりません。水道水ではあっても、大変貴重なのです。
写真:毎川 直也
地図を見る湯船のお湯を冷ます「埋め水」は、2つの湯船を仕切るところに設置してあります。これは注水口の向きを動かすことで、両方の湯船に水を注ぐことができる珍しいタイプ。綺麗に改装された浴室内で、レトロさを感じられるアイテムです。
写真:毎川 直也
地図を見る洗い場から窓を見てみると、両端のステンドグラスに光が注がれ、どこか神々しい雰囲気。ロシア正教の建築物が多く残る函館。その雰囲気を湯船に浸かりながら函館らしさを感じることができます。
ちなみに函館の観光名所の一つ「函館ハリストス正教会」は大正湯から徒歩約20分。教会から歩いてきて汗を流すにもちょうどいい位置です。
写真:毎川 直也
地図を見る現在お店を切り盛りするのは初代の孫にあたる女将さん、小武典子さん。なんと銭湯の仕事を1人でこなしています。銭湯の仕事とは、お湯の仕込みから風呂、店内の掃除、店番です。どれも拘束時間があり、肉体的にも負担がかかるもの、それを1人で、休みの日以外ずっと繰り返す――大正湯の建物が現在でも維持されているのは、この日々の仕事を積み重ねてきたことにあるのです。
函館が漁業の町として興隆を極めた時代の船大工の技術、豪華な建具を取り入れた大正湯は建築物として大変貴重です。その建築を現役の銭湯として私達が見られるのは、現代まで水道水を沸かして、地域のために営業を続ける、女将さんの思いがあってこそです。
外観を見て歴史を感じるだけでは大正湯を理解したとは言えません。湯船に浸かって函館の歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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(2024/3/28更新)
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