樋口一葉の足跡を訪ねて〜ゆかりの地・台東区散策〜

樋口一葉の足跡を訪ねて〜ゆかりの地・台東区散策〜

更新日:2017/02/26 19:07

藍色 しっぽのプロフィール写真 藍色 しっぽ
「にごりえ」「たけくらべ」で知られる、明治の女流作家樋口一葉。森鴎外などの著名な作家から高い評価を受けながらも、肺結核によってわずか24歳で短い生涯を閉じました。2004年に5千円札の肖像に採用されたことで、その業績に再び注目が集まっています。東京都台東区は一葉が暮らしたことでも知られる街。「一葉記念館」をはじめとする記念館周辺の一葉ゆかりのスポットについて、じっくりとご紹介します。

一葉の文学の原点、茶屋町通り旧居跡

一葉の文学の原点、茶屋町通り旧居跡

写真:藍色 しっぽ

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17歳にして父を亡くした一葉。それまでの幸せな生活から一転して生活苦を強いられるようになり、一葉は母と妹のために執筆活動で生計を立てることを決意します。男尊女卑の色濃い封建社会の中、一葉は竜泉寺町の荒物駄菓子店を営みながら小説を執筆し、家族を養いました。

転居前の居住地であった静かな本郷菊坂とは違い、にぎやかな竜泉寺町は繊細な一葉にとって不安を掻き立てられるものであったようで、越した日の一葉の日記には人力車の喧騒や悪天候を憂う言葉がつづられています。

しかし、ここでの生活は一葉の作品に大きな影響を与えることになり、特に『たけくらべ』においてはここ竜泉寺町を舞台とした詩情豊かな恋心が描かれています。かつて一葉が荒物駄菓子店を営んでいた場所には石碑が建っており、一葉記念館への経路を示す案内板には「鶉なく声もきこえて花すすき まねく野末の夕べさびしも」という、ここ竜泉寺界隈を詠んだ歌が記されています。

樋口一葉について知りたいならここ!一葉記念館

樋口一葉について知りたいならここ!一葉記念館

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所在地である竜泉寺町の有志の協力を受け、1961年に開設した一葉記念館。国内初の女性作家の単独文学館である本館は、樋口一葉の五千円札の肖像の採用を機に老朽化した建物の改築が行われました。

樋口一葉について知りたいならここ!一葉記念館

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建物は地下一階、地上三階建ての構造となっており、地上三階に資料や関連著作などが置かれています。二階にある二部屋の展示室では一葉直筆の原稿や書簡、生前に使用していた道具や遺品などの資料が展示されており、一葉がどのような生涯を送ったかについて詳しく知ることができます。

樋口一葉について知りたいならここ!一葉記念館

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三階にある展示室では一葉の没後称えられた功績の紹介や、季節や催事に合わせたテーマに沿った資料の展示などが行われています。さらに一階にはライブラリースペースやグッズコーナーが。一葉の代表作である作品の数々を読むことができ、また来館の記念にちょっとしたお土産を購入することもできます。

一葉の功績を今なお伝え守る、一葉記念公園

一葉の功績を今なお伝え守る、一葉記念公園

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太平洋戦争による被害を大きく受けて様変わりしたものの、竜泉寺では一葉の暮らした証とも言える石碑やゆかりの場所が大切に残されており、作品の舞台となった明治の下町に思いをはせることができます。一葉記念館に面する一葉記念公園も、その一つです。

こちらの公園には二つの記念碑があります。一つは、「一葉女史たけくらべ記念碑」。昭和26年に建てられた碑文には、一葉の旧友でもあった佐佐木信綱の歌二首が刻まれています。

もう一つは、公園前にある小さな記念碑。こちらには菊池寛の一葉を称える撰文が刻まれています。もともとは昭和11年7月に地元の有志により建てられたのですが、戦災で破損したために昭和24年に再建されました。

「有志一葉のために悲しみ再び碑を建つ。愛せらるる事かくの如き、作家としての面目これに過ぎたるはなからむ」という碑文からは、菊池寛をはじめとした一葉を慕う文豪たちの並々ならぬ熱意をうかがい知ることができます。

物語の世界観を再現!木目込人形工房、一葉堂

物語の世界観を再現!木目込人形工房、一葉堂

写真:藍色 しっぽ

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記念館周辺を散策していると、「木目込人形」というのぼりのたった小さなお店に気がつく方もいるのではないでしょうか。こちらのお店は「一葉堂」という木目込人形工房で、江戸時代に京都から伝わった制作技法を継承している工房です。

物語の世界観を再現!木目込人形工房、一葉堂

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木目込人形とは、木製の人形の型に筋彫りを入れ、そこに接着剤と布地を埋め込んで衣裳を着せて作る人形のことを指します。こちらのお店では、ひな人形や五月人形など季節の日本人形を製作・販売しているだけでなく、店内で「にごりえ」「たけくらべ」などの樋口一葉の作品世界をテーマにした日本人形を観ることができます。作品の一部は一葉記念館にも展示されています。

物語の世界観を再現!木目込人形工房、一葉堂

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一つ一つ、すべて手作業で作成されたという作品の数々からは、日本人形ならではの繊細な表現を垣間見ることができ、物語への興味関心を一層掻き立ててくれることでしょう。また時々人形製作のワークショップを行なっているとのことですので、運が良ければ人形を製作したり、出来上がる過程を見学したりすることができるかもしれません。

作家として、女性として…文豪樋口一葉を育てた町、竜泉寺

「南総里見八犬伝」を三日で読了、小学高等科第四級を首席で修了など、一葉の才能を物語るエピソードには枚挙にいとまがありません。しかしその一方で、貧しい暮らしや女性であることに対する偏見、想い人であった師半井桃水との師弟関係の解消など、抱えなければならなかった苦労と葛藤は相当なものでした。

荒物駄菓子店の経営破綻もあり一家はわずか一年にして竜泉寺を離れることとなりますが、「たけくらべ」に記される自伝的とも言える主人公の成長の様子から、竜泉寺という地が一葉に非常に大きな影響を与えたことは間違いありません。記念館に残された資料から下町の風情から、一葉の才気と人となりが偲ばれることでしょう。

掲載内容は執筆時点のものです。

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