法隆寺で中世建築を見よう!世界最古の木造建造物だけじゃない法隆寺建造物の魅力

法隆寺で中世建築を見よう!世界最古の木造建造物だけじゃない法隆寺建造物の魅力

更新日:2013/11/27 11:33

法隆寺というと世界最古の木造建造物で有名ですが、これらの建造物群が残された背景として、長期にわたって厚い信仰が寄せられていたことがあります。そのため、中世以降の比較的新しい建造物も多くあり、国宝建造物18件のうち5件は鎌倉時代から室町時代までのものです。世界最古の木造建築を見るつもりで行くと見過ごしがちですが、それぞれが優品。素通りするにはもったいない法隆寺の中世建築の見どころを紹介します。

鎌倉時代に大改造された夢殿

鎌倉時代に大改造された夢殿
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まずは東院の夢殿。東院というのは聖徳太子の造営した斑鳩宮の跡に建てられた法隆寺の一画ですが、その中心となるのがこの建物。東院伽藍の最初の造営が天平11 (739)年で、夢殿もそのときのものとされています。鎌倉時代以降に建てられた中世建築の紹介記事ですが、この建物はもっと古い建物で、中世建築ではないですね。実はこの建物、鎌倉時代の寛喜2 (1230)年に大規模な改造をうけているんです。そのときに軒の出を大きくして、屋根の勾配も急にしています。この改造の際に「桔木」(はねぎ)が入れられたのが非常に重要なことなんです。

桔木は日本独自の技術で、テコの原理を応用して軒の出を支える部材です。そして桔木の使用した現存最古の例がこの夢殿。日本の寺院建築は大陸から伝わったものですが、雨の多い風土にあわせて軒を大きく出すように進化しています。これが技術的になかなか難しいことで、桔木を採用することで解決します。桔木自体は見えないところにある部材ですが、屋根の反りや傾き、大きく外に出た軒先などを見て、昔の工人の工夫に思いを馳せていただきたいと思います。

ちなみに屋上の宝珠露盤も鎌倉時代のものです。これも美しい意匠でよくできています。

袴腰付鐘楼として最古の東院鐘楼

袴腰付鐘楼として最古の東院鐘楼
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夢殿等の東院伽藍の復興には慶政(けいせい)という天台系のお坊さんが関わっていて、慶政が関わった鎌倉時代の建築がよく残っています。中でも夢殿のまわりの回廊(重要文化財)・舎利殿及び絵殿(重要文化財)・礼堂(重要文化財)は全て鎌倉期のもの。鎌倉時代の雰囲気を堪能できます。東院の回廊の外側には、国宝建築が2件あります。1つは写真中央の鐘楼で、もう1つはその右奥に少し写っている東院の講堂にあたる伝法堂という建物。伝法堂は天平の築で貴重なものですが、それはさておき鐘楼について。記録では応保3 (1163)年のものとあるんですが、様式的には鎌倉時代のものです。下層はスカートのように下が広がっていますが、これを「袴腰」(はかまごし)といいます。この鐘楼は最古の袴腰付鐘楼として非常に貴重な建築なんです。全体的な造形も均整がとれていて美しいです。

西円堂 〜 もうひとつの八角円堂

西円堂 〜 もうひとつの八角円堂
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夢殿は平面が八角形の八角円堂の形式ですが、もう1つ八角円堂があります。西円堂とよばれる建物で、建長2 (1250)年建立の鎌倉時代の建築です。もともとは天平期に建てられていますが、11世紀中頃に破損し、しばらくしてから再建されたものです。規模はほぼ天平創建時のままで、礎石を引き継いでいたり、外観を鎌倉以前の様式の和様で整えていたり、復古的に造られた面もありますが、鎌倉時代らしい端正な雰囲気もあります。

西円堂があるのは法隆寺境内の北西隅の高台です。境内の端にあるので、国宝建築でありながら観光客が比較的少なく落ち着いて見学できます。また、このあたりは五重塔などの西院伽藍の絶好の展望スポットです。午前中は逆光になってしまいますが、夕方の閉門前なら西日があたった美しい五重塔の写真が撮れるかも。西円堂前の階段を下りて左側にある「三経院及び西室」も国宝の中世建築です。

聖霊院 〜 天平期の僧房に連なる鎌倉期の仏堂

聖霊院 〜 天平期の僧房に連なる鎌倉期の仏堂
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聖霊院(しょうりょういん)は弘安7 (1284)年の建立。北側には国宝の東室が連なっています。東室は天平期につくられた僧房なのですが、聖霊院は平安時代にこの東室の南端部分を仏堂としたものです。鎌倉時代に全面的に改造されて現在に至ります。仏堂ではあるんですが住宅建築のようでもあります。どこにも現存していない寝殿造の対屋がこのような建物だったといわれ、平安末期から鎌倉時代の住宅建築を知るための貴重な建築です。蔀戸や格子戸なども鎌倉時代のものが残っていますが、実はこれも珍しいんです。内部は前後を内陣と外陣に分けています。内陣正面には唐破風がついていますが、これは最古の唐破風として貴重なものです。緩やかな曲線が美しい唐破風です。

南大門 〜 法隆寺で最も新しい国宝建築

南大門 〜 法隆寺で最も新しい国宝建築
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最後に南大門。法隆寺を訪れるとき多くの人はここから境内に入ることになると思います。永享10 (1438)年の建立で、法隆寺の国宝建築では最も新しい室町時代の建築です。とはいえ、新しいからといって価値が低いわけではありません。この時代の特色がよくでていて、時代を代表する建造物として貴重な建築なんです。中門などよりずっと小さい門でありながら、堂々としていて小ささを感じさせません。細部の意匠も優れていて、華やかさもあります。特に、柱上の組物の間にある花肘木(はなひじき)とよばれる装飾材の細工は美しいです。法隆寺の他の国宝建築ではこの花肘木のような装飾材は見られません。新しい建築だからこその美しい建築です。

撮影は閉門後の観光客のいない時間にしてみました。外側は閉門後も見ることができます。

最後に

法隆寺には建造物や仏像等の貴重な文化財がたくさんあるんですが、中世建築に絞って紹介してみました(夢殿は中世建築とすべきでないかもしれませんが)。古建築鑑賞はそれなりの知識が必要になりますが、いろいろ比較してみることが楽しむコツのひとつです。法隆寺にはいろんな時代の建築があるので、時代ごとの建物の特徴を感じとってみて下さい。

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2013/10/13−2013/10/14 訪問

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