写真:野水 綾乃
地図を見る「鹿の湯松屋」があるのは、茨城県の最北端、福島県いわき市と接する北茨城市。市の東は太平洋に面していて、日本近代美術の父と言われた岡倉天心や、画家の横山大観が愛した風光明媚な五浦海岸があります。
鹿の湯松屋は、海岸線を走る国道6号から3キロほど田園風景の中を進んだ先にある湯の網温泉の一軒宿。五浦温泉、磯原温泉などともに、北茨城温泉郷を形成しています。海からそう離れていないのに、周囲はのどかな里山が広がっていて、本当に静か。空気も清々しく感じれられます。
写真:野水 綾乃
地図を見る玄関に向かう途中、宿の由来を記した碑が目に入ります。開湯は今から500年以上前の、戦国時代の文明年間。傷ついた鹿が霊泉に浸かって傷を癒しているのを里人たちが見て、その効能に驚き、鹿の湯と名付けたのが始まり、とか。
長野県の鹿教湯温泉をはじめ、鹿がそのありかを教えたとの伝説が残る温泉は全国各地にあります。鹿の湯松屋もそうですが、そのどこか神秘的で謎めいた霊泉の存在と豊かな効能を求めて、いずれも古くから湯治場として親しまれてきた温泉地です。
写真:野水 綾乃
地図を見る館内を進むと、「鹿乃湯」と書かれた内湯があります。温泉はこのひとつの内湯を入れ替え制で入ります。
入口に「男」「女」の札があり、随時札をかけて入ります。たとえば、女性の札がかかっている場合、男性はロビーなどで待つことになります。また、「男」「女」両方の札をかけ、貸し切り利用も可能です(ただし、長時間の利用はご遠慮いただきたいとのこと)。
写真:野水 綾乃
地図を見る写真:野水 綾乃
地図を見る脱衣所の扉を開けると、思わずため息が漏れてしまいます。ステンドグラス、木の窓枠がレトロなガラス窓から光が差し込む浴室は、ここだけ時が止まったかのような錯覚を起こさせます。開湯伝説にちなんだ、鹿のタイル絵もキュート。
思ったよりも広い浴室のその一角に、淡い緑色のポリタブ浴槽があり、トマトジュースを思わせるような赤茶色の湯が満たされています。
写真:野水 綾乃
地図を見るバスタブの底が見えないほど濃い赤茶色をしています。色は天候により多少白っぽくなったり、黒っぽくなったりするようですが、温泉に含まれる鉄分が酸化して赤茶色に変化します。鉄の含有量が多いほどよく温まり、冷え性や月経障害など女性に見られがちな症状に効果的と言われます。
温泉の匂いを嗅いでみると鉄の匂いに混じって、ほのかに海藻のような潮の香りが感じられます。肌触りは少しキシキシとした感じ。じんわりと芯から温まり、湯から上がってからもポカポカとしてくるような、力を感じさせる湯です。
写真:野水 綾乃
地図を見る天井と窓枠の淡いブルーがなんともかわいらしい印象の浴室内。ひし形をあしらった窓のデザインも大正時代の洋館に見るようなデザインで素敵です。摺りガラスの向こうは外ではなく廊下ですが、たっぷりと光が注ぎ込む明るい雰囲気です。
写真:野水 綾乃
地図を見る壁に掲げられていた効能書きも時代を感じさせるもの。最初に「脳」とありますが、温泉で脳が良くなるの?と一瞬思ってしまいますよね。
宿の方に話を聞くと、精神的な頭の疲れに良いとされているのだそう。以前は、精神が不安定になっても頼れる施設が今ほど確立しておらず、こちらのように落ち着いた自然環境に囲まれた施設で過ごすことが対処法としてとられていたそうなのです。現在でも不眠で悩んでいた方がぐっすり眠れるようになった、そんな声が聞かれるそうです。
写真:野水 綾乃
地図を見る玄関を入ってすぐのロビーです。親戚の家の応接間に遊びに来たような、なんとも言えない懐かしさが蘇ります。
日帰り入浴の場合、湯上がりに女将さんがこちらにお茶とお菓子の用意してくれています。日帰りでも宿泊でも変わることなく、ひとり一人にゆっくりしていって欲しい、そんな気持ちが伝わるもてなし。温泉で体が温まり、素朴なもてなしに心が温まる宿です。
日帰り入浴の際は前もって連絡を入れてから訪ねるようにしましょう。1回入浴は500円(別途、消費税と入湯税がかかります)。
宿泊料金もリーズナブルで、1泊2食7000円〜9500円(諸税・サービス料別)。車でわずか7分のところに大津港や平潟港がありますので、料理は新鮮な海の幸が自慢です。どのプランにも名物のキンキの塩焼きがひとり一匹付くという嬉しさ。ゆっくり宿泊で、静かな里山の夜を感じるのもいいでしょう。
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(2024/3/29更新)
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