肥薩おれんじ鉄道「日奈久温泉」駅より南へ、かつての薩摩街道を下ってゆくと、なまこ壁が特徴的な建物が現れます。村津家住宅です。
文久2(1862)年に建てられた町屋で、母屋、北倉、西倉からなる土蔵造りの町屋です。壁面は白漆喰となまこ壁からなり、とりわけなまこ壁は目地漆喰がしっかりと塗られて平瓦が六角形に表れたユニークなものです。なまこ壁が多く残る日奈久地区にあって、当時のままの姿を残す貴重なものでもあります。
村津家住宅からさらに南下すると、店舗が並ぶようになり、日帰り入浴が楽しめる日奈久温泉センターが現れます。この温泉センターが熊本藩主専用の御殿湯だった場所です。そして、この場所より北、八代海に向かって延びる道が温泉街のメインルートになります。
通りには、名物の日奈久焼ちくわを売る店や竹細工を売る店、飲食店がひしめき、一つ道を外れると明治期、大正期、昭和初期創建の風格ある温泉宿が見えてきます。ノスタルジーの漂う町並みは歩くだけでも楽しいです。
温泉街のメインルートを東へ、山の方に向かってゆくと鳥居があります。この先にあるみどころが温泉神社です。応永26(1419)年の創建で、開湯伝説に関わる市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)を祀ります。
参拝の際に注目したいのが本殿の木彫です。正面の欄間には「雲に龍」、左側に「桐に鳳凰」、右側に「雲に麒麟」、背後に「波頭」、そして木鼻に獅子と獏があります。拝殿の脇から回り込んでどうにか見られるの左右と木鼻の彫刻で、写真は左側のものです。いずれも流麗に彫られています。一見の価値があります。また、境内は高台にあり、日奈久温泉を一望する見晴らしも見逃せません。
創業が古く趣深い宿の多く残る日奈久温泉にあって、その代表格となるのが明治43(1910)年創業の金波楼です。現存の旅館建築の中でも最大規模を誇り、銘木を用いた数寄屋造りの意匠が国登録有形文化財になっています。
磨かれ黒光りした廊下や階段は秀逸で、各部屋でも明治期の凝った意匠が楽しめます。また、温泉も優れており、塩分を含んだ弱アルカリ性単純泉がやわらかく肌になじみます。日帰り入浴も可能です。日奈久温泉に訪れた際は、金波楼で建築と温泉を味わうことをおすすめします。
古湯・日奈久温泉には歴史の古い工芸も存在します。それが高田(こうだ)焼です。独自の陶土の配合により陶器でありながら青磁のような色合いを持ち、長石を材料にした白土を埋め込んだ象嵌技法も施されています。これは朝鮮の高麗時代に発達した技法であり、これを「青磁象嵌」と呼びます。
日本ではこの朝鮮からもたらされた技法を高田焼が唯一守っており、非常に貴重な焼き物です。凝った技法が用いられていますが、模様は実用にかなったシンプルなもので上質な美しさがあります。窯は前述した村津家住宅の北。一見の価値はあります。
熊本には、全国的な知名度を誇る黒川温泉や雄大な自然とともに温泉を味わえる阿蘇内牧温泉などの阿蘇山周辺の温泉、川下りが楽しめる人吉温泉など多彩な温泉があります。しかし、熊本で日奈久温泉ほど温泉地のひなびた風情が味わえる温泉地は無いでしょう。
庶民的な共同浴場も残り、日帰り入浴のできる宿も多数。良質な湯とじっくり対峙することのできる魅力も有しています。古社や伝統工芸、味わい深い名産品とともに純然な温泉地の魅力をここ日奈久温泉で味わってみてはいかがでしょうか。
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(2024/4/26更新)
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