写真:宮坂 大智
地図を見る緑島は、台東から飛行機で15分、船で1時間の場所にある面積わずか15平方キロ、人口4,000人足らずの小さな島です。ほとんどの日本人向けのガイドブックには小さく『ダイビングが楽しめる島』とだけ紹介されており、それだけを読むと、緑島はまるで南の島のリゾートのようです。たしかに、緑島にはダイビングショップがたくさん有り、ダイビング目的でやってくるお客さんがほとんどです。
しかし、緑島がそんなリゾートに変貌したのはごく最近のこと。緑島はかつては『監獄の島』だったのです。実は台湾では1949年から1987年までの38年もの間、戒厳令が敷かれていました。戒厳令とは、戦時中の治安維持のために憲法や法律の一部の効力を止め、行政権や司法権を軍のもとに置く緊急的な措置のことです。この時はもちろん第二次世界大戦は終わっています。そのような状態で緊急措置であるはずの戒厳令が38年も続くというのは異常なことでした。
この時代の台湾は国民党による監視社会であったと言え、少しでも国民党の都合に悪いと思われた者は政治犯や思想犯として捕まってしまいました。彼らは犯罪を犯したわけではありませんが、犯罪者として緑島に連れてこられ強制労働と洗脳教育を受けさせられたのです。こうした恐怖社会のことを「白色テロ」と呼びます。当時から台湾は民主国家をうたっていましたが、この史実を考えると本当の民主国家になったのは、白色テロが終わったわずか30年前のことだと言えます。
写真:宮坂 大智
地図を見るつい最近まで、この白色テロ時代は台湾人にとっては、無かったことにしたい・忘れたい暗黒の時代でした。しかし民主国家として成熟した台湾では、ついにこのタブーを学ぶことができるようになりました。その中心となっているのが緑島の「人権文化園区」です。
緑島に送られた人々は「新生」と呼ばれ、彼らが最初にさせられたことは自分たちが閉じ込められる収容所を建築することでした。緑島にあった収容所は大きく分けて2つあり、1つは強制労働や洗脳教育を受けさせられる「新生訓導処」で、もう1つは「緑州山荘」という監獄です。新生訓導処は施設の内外で働くので割と体の自由がありましたが、緑州山荘の方は完全な牢獄でした。
写真:宮坂 大智
地図を見る新生訓導処は3棟建てられましたが、全て緑島の厳しい自然環境によって壊れてしまいました。現在は3つ目の棟が2008年に修復されて「新生訓導処時期第三隊展示区」になっています。この展示区は4つの部屋に分けられており、当時の新生の寝室や強制労働の場面をろう人形で再現した展示室や、実際に収容されていた人々のリアルなエピソードをパネルやビデオで知ることができるコーナーがあります。
特に新生の寝室の展示は必見です。ここでは就寝前のわずかな自由時間に彼らがどのように過ごしていたのかを知ることができるのですが、その様子がとてもリアルに再現されています。しかも当時と同じ暗さの電灯をつけているというこだわりようで、苦しみながらも自分たちの思想を守っていたのかと感動すること間違いなしです。
写真:宮坂 大智
地図を見るまた、展示区の隣には「新生訓導処時期全区模型展示区」があり、ここでは1950年代の収容所を再現した模型や、新生の一日がよく分かる展示があります。模型を見ると新生たちがいかに広大な敷地に建設をさせられたのか、そしてどれほど大勢の人々が収容されていたのかが理解でき、当時の様子を想像することができます。
写真:宮坂 大智
地図を見る新生訓導処時期第三隊展示区を出て、道路を左に曲がって歩いた場所には緑州山荘があります。こちらは当時の建物がそのまま残っており、実際の牢獄を見るともできます。先ほどの展示区よりも広く2階建てになっているので資料はさらに豊富です。緑州山荘はパネル展示がメインで、全ての解説を読もうとすると半日くらいは必要ですので、興味のある方は人権文化園区全体を見学するのに丸一日見積もっても良いくらいです。
残念ながら、今回ご紹介した3つの資料館には日本語による解説がありません。ですが、パンフレットは日本語のものが用意されているので、パンフレットを見ながら資料を見ると理解が深まるでしょう。また、一部の展示には英語での解説もあります。なお、入館料は無料です。
緑島は小さな島ですが、そこには白色テロという台湾が負った深い傷の歴史が詰まっています。緑島に行くのであれば、人権文化園区は絶対に外せないスポットです。もちろん、離島なので美しい景色や物語がそこかしこにあります。暗い面ばかりではなく、ぜひ島らしい雰囲気も味わってください。
なお、緑島に行くには、飛行機と船の2つの交通手段があります。飛行機は台東空港から15分で、船だと台東の富岡港から約1時間です。飛行機はネットから予約ができますが、1便につき4人分しか予約を受け付けていません。ネットでの予約が満員になっていた場合は電話で予約ができますが、いずれにせよ早めの行動が必要です。予約は出発日の2ヶ月前からできますので、旅行が決まり次第すぐに準備することをおすすめします。
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(2024/3/29更新)
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