300年の伝統を持つ沖縄の芸能「組踊」。国立劇場おきなわで、世界に誇る沖縄の美と粋に出逢う。

300年の伝統を持つ沖縄の芸能「組踊」。国立劇場おきなわで、世界に誇る沖縄の美と粋に出逢う。

更新日:2017/01/05 17:00

ゐさ よりこのプロフィール写真 ゐさ よりこ 舞台芸術ライター
沖縄の伝統芸能「組踊」をご存知ですか。約300年前、沖縄が「琉球王国」であった頃に生まれた、優雅な舞台芸能は、未だ多くは知られぬ沖縄の美と粋で、知る人ぞ知る沖縄の魅力のひとつです。浦添市勢理客(じっちゃく)にある「国立劇場おきなわ」は、沖縄の人達が大切に受け継いできた琉球王国からの伝統芸能を日本国内と世界に広める場。国立劇場おきなわで「芸能の宝庫」としての沖縄に触れてみませんか。

「組踊」とは???

「組踊」とは???

提供元:国立劇場おきなわ

http://www.nt-okinawa.or.jp/地図を見る

国内のリゾート・観光地として人気の沖縄。島内の至るところに民間伝承の芸能があることから、「歌と踊りの島」「芸能の宝庫」と呼ばれていることをご存じでしょうか。

沖縄の芸能と聞いて、ヤマトンチュー(沖縄のことばで「本土(沖縄県以外)の人」という意味)が思い浮かべるものは、どんなものでしょうか。

●エイサー
●「島唄」
●琉球舞踊

このあたりでしょうか。
では、このような沖縄の伝統芸能のエッセンスを凝縮した、沖縄の究極の伝統芸能とも言えるものは、ご存じですか?
それが、組踊です。
今から約300年前の沖縄、「琉球王国」というひとつの国であった時代に創作された舞台芸能です。

組踊と国立劇場おきなわ

組踊と国立劇場おきなわ

写真:ゐさ よりこ

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琉球王国は、独自で中国との国交を行っており、歴代の中国王朝は使者の「冊封使(さっぽうし)」を琉球王国の城である首里城に派遣しました。
この冊封使を首里城内で「おもてなし」するために、宴席の儀礼を取り仕切る「踊奉行(おどりぶぎょう)」であった玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)が創作した歌舞劇が、組踊です。ちなみに、このように首里城内で上演されていた芸能を「宮廷芸能」と呼びます。
玉城朝薫は、幼い頃から音楽・舞踊に秀で、能・狂言や歌舞伎などの芸能にも通じていた、現代の設定に直せば舞台の現場も分かる優秀な舞台芸術プロデューサー兼クリエイター。組踊の代表的演目とされる『執心鐘入(しゅうしんかねいり)』や『銘苅子(めかるしー)』などの5演目は、朝薫が作ったことから「朝薫五番」と呼ばれています。

組踊には、琉球の故事・説話を題材にして、「琉球音階」と呼ぶ独特の音階で奏でる沖縄の音楽や、ゆったりと舞う琉球舞踊で再現し、当時の「琉球言葉」、本土の伝統芸能である能楽や歌舞伎などのエッセンス、中国から渡来した色彩感覚も加えていながら、「これぞ沖縄」と言える、どこにも類を見ない沖縄だけの舞台芸能を創り上げました。
公式にしてみると、こんな↓↓でしょうか。

組踊=[琉球古典音楽+琉球舞踊]×琉球言葉+(本土の伝統芸能+中国の色彩感覚)

中国からの使者をおもてなしするための歌舞劇でありながら、沖縄(と日本)を思いっきり前面に出しているところに、当時の琉球王国と辣腕プロデューサー・玉城朝薫の心意気というか誇りを感じられます。

明治維新により琉球王国が解体されてからは一般の人の間で、戦火を超えて受け継がれてきた組踊は、今、国内外でその良さ、美しさ、素晴らしさが認められています。
沖縄返還の年である1972年には、国の重要無形文化財に指定され、2010年には、ユネスコの無形文化遺産リスト「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも記載されました。

……しかし、巷での知名度はいまひとつといったところ。「エイサー」「民謡」は知っていても、「組踊」は、高貴な人の間で生まれた宮廷芸能だからか?上品すぎてとっつきにくいと思われるのか?まだまだ「知る人ぞ知る」伝統芸能にとどまっています。
そんな、ひそやかなる存在である無形文化遺産・組踊はじめ、沖縄各地に伝わる伝統芸能を、世界に向けて発信する施設が、国立劇場おきなわです。

組踊と国立劇場おきなわ

写真:ゐさ よりこ

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国立劇場おきなわは、日本国内で6番目の国立劇場として開館した、最も新しい日本の National Theatre です。
国の重要無形民俗文化財「組踊」を中心に沖縄伝統芸能の公開と伝承者養成、調査研究を行うことを通して、沖縄伝統文化の保存と振興を図ることを目的とした施設……というと何やら難解に聞こえますが、つまりは、組踊など沖縄の伝統芸能を観て知り大切にする機会を多くの人に提供する公共の文化施設です。

組踊は民間の人が立方(たちかた:演者のこと)と地謡(じうたい:組踊の演奏者、日本舞踊の「地方(じかた)」に相当)を担当する、地芝居に近い性質の芸能なので、普段は地域のお祭りなどで上演されるのみですが、国立劇場おきなわでは「自主公演」として、定期的に組踊などの伝統芸能を通年で上演しています。沖縄専門の国立劇場、ですね。
沖縄伝統芸能のほかに、本土からの招へい公演なども行われています。
組踊を全く知らない、これから知りたい、という人は、とても分かりやすく解説しながら、実際の組踊を一巻上演する「組踊鑑賞教室」をまずは御覧になることをオススメします。

国立劇場おきなわで見る沖縄

国立劇場おきなわで見る沖縄

提供元:国立劇場おきなわ

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外観から内部まで、国立劇場おきなわはすべてが「おきなわー!」です。
外の芝生広場に建つ石碑は、こけら落とし公演の『執心鐘入』を御覧になられた天皇皇后両陛下が、観劇後にお詠みになった琉歌を刻んだ歌碑です。
格子状の外壁は、琉球王国時代の建物に見られる建築様式をモチーフにしたもの。沖縄では今もこの、格子状の窓を頻繁に見かけます。

国立劇場おきなわで見る沖縄

写真:ゐさ よりこ

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正面入口を入ると、ロビー。その右手側にチケット売場と、劇場になくてはならない飲食施設「カフェこくりつ劇場」があります。観劇前後と幕間に、コーヒーやスイーツなどの定番のほかに、よもぎそばやもずくそば、ぜんざいなどの沖縄料理が食べられます。タイミングが合えば、舞台で見た立方さんが食事を摂っている姿を見られるかも!?
ロビーの奥は、資料展示室。沖縄伝統芸能に関する展示などが随時開かれています。舞台芸能を理解するには実際に観ることに尽きますが、事前にアタマで知っておくと、もっと理解が深まりますよ。

国立劇場おきなわで見る沖縄

写真:ゐさ よりこ

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メインの大劇場は、資料室の隣で、カフェの反対側。劇場の係員の方がにこやかに出迎えてくださいます。制服が「かりゆしウェア」!
大劇場は約600席と中規模なので、どの席を取っても舞台がよく見えます。組踊の舞台は、奥に地謡の方々がおり、手前で立方が舞う組踊に合わせて、張り出し舞台(凸字型)になっています。歌舞伎で舞台に「花道」を付けておくのと似た趣向ですね。
大劇場のほかには小劇場と稽古場があり、いずれも一般の方に貸し出したりしているほか、国立劇場おきなわのもうひとつの大切な事業である、次世代を育成する場としても使われています。

沖縄の「美」と「粋」、組踊に出逢える場

沖縄の「美」と「粋」、組踊に出逢える場

写真:ゐさ よりこ

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組踊は「観る」ものではなく「聴く」ものと言われます。それは、地謡の歌が劇中で重要な役割を担うことが多いためです。主人公の心境や状況説明などは、立方の台詞よりも地謡の音楽で表現されることが多く、この様子は文楽にも共通するものがあります。
実際に「聴く」と、沖縄の古語で述べる台詞が8・8・8・6調の30音を特徴とする琉歌で構成され、そこに「ドミファソシド」の音階が特徴の琉球音楽が合わさって、非常に優美な響きが流れます。そこに加わる、華やかな色使いの衣装と化粧、腰を落としてゆったりと琉球舞踊を舞う立方。沖縄の王宮が目の前で再現されているような気分になります。時折、クスッと笑ってしまうような台詞と場面が入り(小学生もしっかり笑える!)、劇中を盛り上げるアクセントに。
歌舞伎とも能・狂言とも、現代演劇とも全く違うもので、まさに沖縄だけの「美」と「粋」が感じられる、動く琉球絵巻です。

国立劇場おきなわへのアクセスは路線バスを使うことをおすすめします。時間帯が合えば「結の街(国立劇場おきなわ)」が最も近いバス停です。国道沿いにある「勢理客(じっちゃく)」バス停なら、本数が多いので便利です。どちらのバス停も、那覇駅前のバスターミナルから乗れば、20分弱で到着します。沖縄のバスは系統がたくさんあるので迷いそうですが、那覇空港や那覇バスターミナルなど主要地へ行くバスは、大概とまります。
勿論、那覇空港に着いたら直行!ということもできますよ(空港からも車で概ね20分程度)。劇場内には手荷物を預ける場所もあります。

東京都千代田区にある国立劇場でも、組踊が上演されることがありますが、組踊はぜひ現地、発祥の地である国立劇場おきなわで御覧になっていただきたいと思います。
ロケーションから幕間、終演後まで、沖縄が世界に誇る伝統芸能を、沖縄らしさごと堪能できる場所は、ここだけです。

沖縄が世界に誇る伝統芸能「組踊」を、国立劇場おきなわで

海、エイサー、三線。どれも、沖縄の魅力。それらの基とも言える伝統芸能が、沖縄にはあるのです。それが、組踊。沖縄のはるか昔の歴史も、現在の方言のもとにもなっている美しい古語も、琉球舞踊や琉球古典音楽特有の芸能も、すべて組踊にはあります。
国立劇場おきなわは、その組踊および沖縄伝統芸能を最良の姿で観られる、世界でただひとつの施設です。沖縄のまだ知られていない美に、出逢いに来てください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2016/11/16−2016/11/17 訪問

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