意外なほど自然が豊か! 水鳥の訪れる冬の多摩川河口へ

意外なほど自然が豊か! 水鳥の訪れる冬の多摩川河口へ

更新日:2016/12/24 09:28

鷹野 圭のプロフィール写真 鷹野 圭 首都圏自然ライター
東京と神奈川の境目を流れる多摩川。その河口域というと、かつて工場排水などにより汚れが著しい時期もあり、あまり良いイメージを持っていない方も多いかもしれません。しかし、今では水も大分きれいになり、河原の環境も改善されてきました。実際河口に足を運んでみると、そこには巨大なヨシ原が広がり、多くの水鳥が飛来するスポットとなっているのです! 今回はそんな、あまり知られない多摩川の美しい一面を紹介しましょう。

そのヨシ原は、首都圏でも指折りの規模!

そのヨシ原は、首都圏でも指折りの規模!

写真:鷹野 圭

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こちらは神奈川県側の河口近く(最寄り駅は大師線「小島新田駅」)。東京湾が目と鼻の先というだけあり、川面が広々としています。それ以上に特筆すべきは、川の手前に広がる巨大なヨシ(葦)の群生でしょう。東京・神奈川の両サイドに広がっており、その面積は南関東エリアでもトップクラス。河川敷の土手を除けば遊歩道が存在しないため、基本的に中に入っていくことはできませんが、逆にそのおかげもあって深く豊かにヨシが茂り、健全な環境が保たれています。一部のエリアは保護区域に指定されており、その環境が重宝されていることがよくわかります。

ヨシ原は、昆虫に食料を提供し、それを目当てに小鳥たちがやってきます。さらには魚たちに産卵場所を、カニなどの小動物には隠れ場所をもたらし、これを目当てに多くの水鳥たちが訪れるのです。まさにヨシは食物連鎖の要。中に入らずとも、土手から見渡すだけで様々な生きものたちを見ることができます。

干潟に降り立つ水鳥たちをウォッチング

干潟に降り立つ水鳥たちをウォッチング

写真:鷹野 圭

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ヨシ原が非常に目立つ多摩川河口域ですが、同時に浅瀬や干潟が多いスポットでもあります。こうした環境は外敵(哺乳類など)から襲われにくく尚且つちょうどよい足場になるため、水鳥たちが羽を休めるには最適です。冬場であれば、写真のようなカモメ(ウミネコやオオセグロカモメが多め)や渡りのカモたちが訪れ、得てして寂しくなりがちな冬の自然地に“にぎわい”をもたらします。また、春と秋であればバードウォッチャーに人気の高いシギ・チドリなどの渡り鳥がやってきます。土手からだとかなり距離がありますので、双眼鏡などを携帯するといいでしょう。

水鳥たちが多く集まれば、それを狙う天敵もやってくるもの。上空にタカなどが現れることも多く、かつて“ドブ川”などと散々揶揄されていたとは思えないほど。地上・水面の水鳥たちが一斉に慌てて飛び出した時には、近くにタカがいる可能性大です。立ち止まって、ぜひ探してみてくださいね。

時に数千羽にのぼるという、スズガモの群れ

時に数千羽にのぼるという、スズガモの群れ

写真:鷹野 圭

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冬から春先にかけて多くのカモが飛来する多摩川か広域において、一際インパクトがあるのが写真のスズガモという鳥。このカモ、黒と白のツートンカラーでどちらかというと地味な鳥なのですが、特筆すべきはその数。なんと数百、時には数千にまで及ぶほどの巨大な群れを成して現れるため、非常に印象に残ります。もちろん、写真に写っているのは氷山の一角中の一角。最下流の河口によく現れますので、ぜひ一度その目で、凄まじい数の多さを確かめてみてください。

ちなみにスズガモのメスはクチバシの付け根付近が白くなっており、遠目でもそれがよく目立ちます。首都圏にはキンクロハジロという、スズガモによく似た冬のカモがいますが、この特徴から簡単に識別することができます。普段はプカプカと水面に浮いているだけですが、餌をとる時には勢いをつけて潜水し、水中にいるアサリや小動物などを捕まえて食べます。数が多い分、狩りのシーンもよく見られることでしょう。

都心なのに水鳥がたくさん集まる、その理由とは?

都心なのに水鳥がたくさん集まる、その理由とは?

写真:鷹野 圭

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鳥とて生きものなのですから、当然食べもののある場所にしか現れません。特に渡りのシギ・チドリやサギの仲間たちは、魚やカニの仲間を狙って捕まえますので、彼らが訪れるということは、そうした小動物がたくさん生息しているということ。実際、多摩川河口域にも数多くのカニが生息しています。

写真はヤマトオサガニといい、甲の幅が5センチくらいのそこそこ大きなカニ。有名なシオマネキと同じで、触角のようにツンと立った目が特徴的です。他にも、アシ(ヨシの別名)の群棲する環境を好むことから名づけられたアシハラガニ、ごつい外見がまさに武蔵坊弁慶のようなクロベンケイガニ、夏の大潮の日に集団で子を海に放つことで有名なアカテガニなど、意外なほど数・種類ともに豊富です。また、河口近くの地面をよくみると小さな砂団子が大量に積まれているのを見かけることがありますが、これはコメツキガニというカニの仕業。甲の幅1センチにも満たないミニサイズで大変かわいらしいので、砂山を見かけたら近くを探してみましょう。

ちなみに一部のカニは、人の歩いている土手近くまで上がってきてしまうこともあります。踏みつけないように気をつけましょう。

そして、春にはサクラ咲く

そして、春にはサクラ咲く

写真:鷹野 圭

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3月も末になると、河川敷のサクラ並木がいっせいに開花! 殺風景だった河口域が一気に華やぎ、お花見客なども訪れるようになります。この時期はまだ冬の水鳥たちも残っていますので、お花見とバードウォッチングを同時に楽しめることでしょう。かつては工業地帯からの排ガスでお世辞にも空気がいいとは言えない環境だった時代もありましたが、それは遠い昔の話。工場や住宅地と隣接こそしているものの、今は居心地の悪さを覚えることもありません。

土手の上を歩いていると、かたやピンクに染まったサクラ並木、かたや広々としたヨシ原が広がる河川敷……まったく異なる2つの景観を楽しめます。春のひと時だけの、特別なランドスケープをお楽しみください。

依然として問題はありますが、それだけじゃない“魅力”もたくさんです

残念ながら川の水がきれいになった今でもゴミが漂着することはありますし、まだまだ課題は山積といえるでしょう。だからこそ直接今の姿を見に行って、東京都心の水辺の、意外ときれいな“真の姿”を知っていただきたいとも思うのです。そこから、他にもあちらこちらにある“街中の自然”に気づき、身近な場所を散策する面白さに気づいていただければこれほど嬉しいことはありません。

また、集団で海にやってきて子を放つことで有名なアカテガニというカニも生息しています。夜間は照明もないので立ち入るのは危険ですが、夏場であれば昼間にもそれなりによく見られます。機会があればぜひ探してみてくださいね。

掲載内容は執筆時点のものです。 2015/12/19 訪問

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