金沢城に武家屋敷、兼六園だけじゃない金沢の名庭たち

金沢城に武家屋敷、兼六園だけじゃない金沢の名庭たち

更新日:2016/11/24 10:56

“加賀百万石”の加賀藩の中心都市として知られる金沢は日本三名園の一つ、兼六園があることで知られますが、金沢城や周辺の武家屋敷などにも趣深い庭園が残ります。しかも、いずれも個性的な庭園ばかりです。そこで、今回は誰もが知る兼六園ではなく、こうした周辺の庭園群に焦点を当て紹介していきたいと思います。

加賀藩らしいユニークさ「金沢城玉泉院丸庭園」

加賀藩らしいユニークさ「金沢城玉泉院丸庭園」
地図を見る

玉泉院丸庭園は、加賀藩3代藩主・前田利常が寛永11(1634)年に作庭を始め、その後5代・綱紀や13代・斉泰などの歴代の藩主により手を加えられながら、廃藩時まで金沢城内玉泉院丸に存在していた庭園です。外交など公用の庭園としての性格が強かった兼六園に対し、こちらは藩主の内庭としての性格が強い庭園だったと考えられています。

城内より辰巳用水で引いてきた水を使用した池泉回遊式の庭園ですが、復元された現在の庭は中まで入れないようになっており、実質は玉泉庵という休憩スペースから眺める観賞式の庭園です。

池底を底としたすり鉢状の地形で、景物として取り込まれた石垣の最上段までの高低差が22メートルにもなる立体的な庭園です。そして、石垣にもパステルカラーのような色彩をした火山岩の一種である戸室石を用いて色紙短冊積みというテトリスのように石垣を積んだ意匠性の高い石垣も見られ、唯一無二の非常に独創的な庭園になっています。

庭園は明治期以降、面影が失われていましたが、平成20(2008)年から発掘調査等を行い、かつての庭園の姿を確かめ、平成27(2015)年にようやく再現されました。芸術に重きを置く加賀藩らしいユニークな庭園は必見です。

水墨画的風景の「玉泉園」

水墨画的風景の「玉泉園」
地図を見る

兼六園の北にあるのは、池泉回遊式庭園の玉泉園です。加賀藩士の屋敷の庭園で、敷地に入るとさっそく清々しい緑に囲まれます。カエデやアカマツ、ツツジなどそれぞれに個性の異なる木々が適度に配置され、その間を縫うように飛び石や石燈籠も置かれており、これらも程よく庭園の景色に溶け込んでいます。

本庭は敷地内の崖地を活かした玉澗式庭園。築山の頂上部から石橋、立石、春日灯籠、景石、雪見灯籠、切石橋、そして滝口に石を配し、滝の注がれる先に中島の石を配します。玉澗式とは狭い敷地に遠近法を用いながら雄大な水墨画的風景を生み出そうとした様式でいくつかの型があり、その一つがこの玉泉園に当てはまるのです。

作庭は江戸初期より約100年間という壮大なもの。池泉の水は兼六園の曲水より辰巳用水によって引かれており、藩主との親交の深さを示しています。崖地の上には、裏千家家元・仙叟宗室が指導して造らせた灑雪亭(さいせつてい)という金沢最古の茶室もあります。

柔らかな緑と枯れ池の庭「寺島蔵人邸」

柔らかな緑と枯れ池の庭「寺島蔵人邸」
地図を見る

兼六園の北、住宅街の中に佇むのは禄高450石の中級武士・寺島蔵人邸です。建物は18世紀後半の中頃に建てられ、2階建ては当時としては珍しいようです。受付から玄関の間と次の間らしい部屋を経て13畳半の広々とした座敷に至ります。1間半の床、竿縁天井は黒く艶っぽい光沢が走ります。

この座敷から庭園も望めます。カエデやツツジなど落葉樹が多彩に植わっており、明るい緑に包まれた景色は実に爽やかです。緑の隙間から石塔が少し顔を覗かせ、庭の奥に向かって打たれた飛び石の先には枯れ池も見つけられます。

寺島蔵人邸には展示室もあります。画家としても知られた蔵人の山水図の他、蔵人と親交があった浦上玉堂の書や絵画、京焼の発展に寄与した尾形乾山の焼き物なども展示されており、これらも興味深いです。

斬新な構成と多彩な要素からなる庭「野村家跡」

斬新な構成と多彩な要素からなる庭「野村家跡」
地図を見る

金沢城の西、長町武家屋敷群のハイライトでもある野村家跡。家禄は1200石で立派な上級武士です。庭園は野村家のものですが、建物は野村家の武家屋敷ではなく、大聖寺橋立の北前船で栄えた豪商の家屋の一部を昭和初期に移築したものになっています。

玄関を出て、廊下右手の控の間や奥の間、謁見の間には大聖寺藩士で剣術にも絵画にも長けていたと言われる山口梅園による精緻な花鳥図や白牡丹が描かれています。謁見の間の先にある上段の間は大聖寺藩主を迎えるための部屋で、総檜造りの折り上げ格天井、加賀藩のお抱え絵師で狩野派の佐々木泉景による山水画が描かれた襖、庭に面した障子にはギヤマンを嵌め込んだ当時としては珍しく見逃せません。

庭園は上段の間の先にある濡れ縁から鑑賞するのが良いでしょう。池泉が濡れ縁の下すぐにまで迫り、その池泉には飛び石を打つ独特な意匠が見られます。池泉そのものも位置が高く浅いものと深く造られたものとで2段構成にして表現し、かなり豪快です。

木々は多く、樹齢400年余りのヤマモモやシイの古木、カエデ、マツなど庭木が密に植えられており、多彩な草花の間に様々な庭石や、蹲踞、趣の異なる春日灯籠、雪見灯籠を据え、大小の石橋も架けています。あらゆるものが過密気味に配されていますが、ああしてはどうか、こうしてはどうかと楽しみながら作庭した姿を想像できて面白い庭園です。

日本庭園の表現の奥深さを感じられます

いかがだったでしょうか。加賀藩主の公用の庭園・兼六園に対する私庭の玉泉院丸庭園には石垣を景物として組み込んでしまう斬新さがあり、玉泉園には玉澗式庭園としての特徴があります。寺島蔵人邸は落葉樹と枯れ池が印象的で、野村家の庭園は斬新な意匠に挑戦しながら要素を凝縮させた感がありました。

「庭園として優れているか」という見方をすれば賛否両論あるかと思いますが、いずれの庭園も個性を持ち、現代的なデザインを取り込むだけではない、日本庭園の表現や意匠の幅の広さを教えてくれています。金沢をよく歩けばこれ以外にも様々な庭園に出合うことでしょう。金沢で庭園美に癒されながら、日本庭園の奥深さを味わってみるのも面白いはずです。

掲載内容は執筆時点のものです。

- PR -

条件を指定して検索

- PR -

この記事に関するお問い合わせ

- 広告 -