写真:永澤 康太
地図を見る手作りロケットが宙に舞う奇祭「龍勢祭り」で有名な秩父市吉田地区を走る吉田川沿いの道を上流へ進むと一軒宿「かおる鉱泉」が見えてくる。山間に佇む長閑な里の宿であり、目の前が道路であるものの交通量は少なく静かに時が過ぎてゆく。また宿裏手に面する吉田川にはホタルが自生し環境の良さは折り紙つき。何処かほっとできる、そんな場所と言える。
明治時代に井戸を掘ろうとしたところ、鉱泉(正確には温泉)を掘り当てたのが始まりで、昭和になって民宿を開いた。この宿では宿泊者自身が布団を敷くのがルールで、民宿としてスタンダードなスタイルをとる。しかしIT社会の波は押し寄せていて、Wi-Fiが導入されているのはうれしい限り。
男女別の内風呂には庭から湧出する鉱泉を引いている。一見すると何の変哲もない、普通の住宅より少し広いぐらいのごくありふれた浴室に見えるが、湯舟上の「鉱泉」と書かれた札がかかる蛇口をひねってみよう。何と手が加えられていない非加熱源泉が流れ出す。
源泉は無色透明で触ると冷たい。そのかわり強いたまごの匂いがして、ただの水でないのは一目瞭然。実は秩父ではたまご臭を伴った湧き水もしくは鉱泉、温泉が各所で湧出しており、秩父七湯の「新木鉱泉」もその中の一つ。利用する人達はこれらを「たまご水」と呼んで親しんできた。
写真:永澤 康太
地図を見る写真:永澤 康太
地図を見る「かおる鉱泉」でも源泉をたまご水と呼んで使用してきた。これだけたまごの匂いがすると硫黄泉なのか、と思いきや分析表にはふっ素イオン含有量が限界値以上の為、温泉法上の温泉(温泉に該当するが療養泉に満たず、泉質名はつかないもの。規定泉とも言う。)と表記されている。更に詳しく見ていくと、驚くことに硫黄泉に該当する成分が一切含まれていない。ではこの匂いは何処から?
これ以上語ると話がややこしくなるので割愛する。とにかくミステリーを含んだ源泉なのだ。ただ匂いを楽しむのもいい。だが分析表とにらめっこをしてあれこれ考察するのも新しい発見があって面白いものである。もし記事に興味を持って来館する方は匂い、そして分析表を注視してほしい。あと、風呂からあがる時は資源保護の為、蛇口の閉め忘れに注意しよう。
写真:永澤 康太
地図を見る宿について、源泉の他にもう一つ紹介したいのが夕食。まず、料理に使われている食材の大部分は秩父のものでまかなわれており、秩父尽くしの膳となっている。炊き込みご飯、テンプラ、箸でつまめる程粘り気がある自然薯、最近流行りのジビエも出していて、舌を飽きさせない。
それから蕎麦、胡麻豆腐、さしみコンニャクは手作り。特に蕎麦は御主人自ら手打ちしたもので、宿の名物になっている。コシ良し風味良しで食事の締めとしてもってこい。「手作りできるものはなるべく作るようにしている。」と女将の談。しかしどれもこれも美味しくて食が進むこと進むこと。
写真:永澤 康太
地図を見る甘味が欲しい場合、別注文で頼めるかき氷「毘沙門氷」をどうぞ。通常のかき氷とは違い、隣の小鹿野町に湧く名水、毘沙門水で作られ、シロップは秩父産のトマト、イチゴ、ブルーベリー、カボス、ゆずを加工したフルーツテイスト5種700円と、秩父ワインを使用したロゼ、赤のワインテイスト2種600円(ノンアルコール)を用意。ちなみに練乳はどれを頼んでも付いてくる。(※2016年10月時点)
夕食で満腹の筈なのにふわっとしてとろっとした食感が、スプーンですくって口に運ぶ行動を二回、三回と呼んでしまう。ところでこのかき氷、立ち寄りでも販売してくれる。立ち寄って風呂上がりにかき氷を食べるという、体に良いかどうかはともかく、最高のコンボも可能だ。
「かおる鉱泉」は全8室の小さな宿である。その分たっぷりぎっしり魅力が詰まり、どの季節に訪ねてもその時々の良さが存在する素敵な宿でもある。記事を読んでいてピンと来るものがあった方は、秩父を旅する際、ここに足をのばす事を検討して頂きたい。
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(2024/3/19更新)
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