世界に数千羽だけの珍鳥を求め、冬の東京・葛西臨海公園へ

世界に数千羽だけの珍鳥を求め、冬の東京・葛西臨海公園へ

更新日:2016/11/14 09:06

鷹野 圭のプロフィール写真 鷹野 圭 首都圏自然ライター
レッドデータブックをご存知ですか?
絶滅の危機に瀕する動植物を記したもので、有名所ではギフチョウやオオタカ等が記載されています。中でも特に危険性が高い種は「絶滅危惧T類」とされ、世界で数千、あるいは数百しか生存していない種も珍しくありません。そんな希少な鳥の一種が、実は東京の葛西臨海公園に飛来することをご存知でしょうか? その鳥は冬になると東なぎさを訪れ、毎年多くの野鳥ファンを惹き付けるのです。

その珍鳥は、橋を渡った先に現れる……

その珍鳥は、橋を渡った先に現れる……

写真:鷹野 圭

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干潟を中心とした鳥類園があり、シギ・チドリの飛来地として有名な葛西臨海公園。でも今回の目的である絶滅危惧種の“珍鳥”は、基本的にあまり鳥類園にはやってきません。珍鳥は冬場になると公園南側の離島「東なぎさ」に飛来し、普段はここで暮らしつつ、時折運河を挟んだお隣にある「西なぎさ」の方へ渡ってくるのです。東なぎさは保全区域に指定されていて、橋もなく、通常渡ることはできませんが、西なぎさ(写真参照)であれば渡ることが可能です。

冬場になると、西なぎさの東端(つまり東なぎさに一番近い区域)付近に三脚を備えたバードウォッチャーがよく集まります。ここが最も遭遇しやすいポイント。普段暮らしている東なぎさから、餌を求めて西なぎさの海岸線に飛来するのです。うるさくすると珍鳥も恐れをなして逃げてしまうので、現地に到着したら静かに待ちましょう。

ヘラ状のクチバシを有する鳥! これが噂の珍鳥なのか……?

ヘラ状のクチバシを有する鳥! これが噂の珍鳥なのか……?

写真:鷹野 圭

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西なぎさで待機していると、時折こんな鳥が飛んできます。

見た目はよく川や岸辺で見かけるシラサギのようですが、クチバシの先がしゃもじのように広がっていて、明らかに形状が違いますね。これはヘラサギといい、名前に反してサギ科ではなく、コウノトリ目トキ科に属する鳥。そう、あの絶滅してしまったトキの仲間なのです。

クチバシの形が違うために、食事の方法も普通のシラサギ(ダイサギやコサギなど)とは違います。サギたちが尖ったクチバシを銛(もり)のように使って魚を捕るのに対し、このヘラサギはクチバシを砂や泥の中に突っ込んで頭を横に振り、中にいる貝や小さな水生生物などを浚い出して食べます。さながら“どじょうすくい”のような様はなかなかユニークですよ。

さて、このヘラサギは確かに珍しい鳥で首都圏ではなかなか姿を見かけませんが、実は今回の目標はこれではありません。真の“珍鳥”の正体は、次の項目にて……。

黒い顔のヘラサギ。これこそが真の珍鳥!

黒い顔のヘラサギ。これこそが真の珍鳥!

写真:鷹野 圭

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2羽のヘラサギが干潟を歩きながら、クチバシを左右に振って食べ物を探しています。が、2羽の顔をよーく見比べてみましょう……左の方は、クチバシの付け根から目にかけて顔が黒くなっていることがわかりますでしょうか? 実は、パッと見では同じ鳥に見えるこの2羽、右側は上の写真でも登場したヘラサギなのですが、左側はクロツラヘラサギといい、実は違う種類の鳥なのです。そしてこのクロツラヘラサギこそ、(国内ではなく)世界でたった3000羽程度しか生き残っていない、とても貴重なサギなのです。

クロツラヘラサギは日本のレッドデータブックでは「絶滅危惧T類」とされており、絶滅寸前の最も危険度が高いカテゴリに属しています。夏場は寒い地域に暮らしていますが、冬になるとこの東なぎさ〜西なぎさに飛来するのですが、日本全土でも飛来する箇所は数える程度。それとて、毎年必ずやってくるというわけではなく、まさに“幻の鳥”といっていいでしょう。餌となる水生小動物が多い干潟環境を好みますが、近年日本のみならず世界中でそうした環境は減少しつつあり、それゆえに数が激減してしまったそうです……。

葛西臨海公園の管理をしている東京都公園協会でも、この鳥が飛来するとよくWebサイト上で告知が行われます。本種が比較的コンスタントに見られるということは、生物多様性に優れた干潟環境が今なお維持されている稀有な環境であることの証! 末永くこの環境が守られていくことを祈るばかりです。

せっかくなので鳥類園もチェック!

せっかくなので鳥類園もチェック!

写真:鷹野 圭

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ここまで東西のなぎさを紹介してまいりましたが、基本的に葛西臨海公園でバードウォッチングするなら、水族園に隣接した園内東側の鳥類園を歩くのが定番です。中央のウォッチングセンターを軸に干潟とヨシ原ヶ広がっており、年間を通じて様々な水鳥が飛来します。特に冬場は木々が葉を落として見通しがよくなり、鳥を探すにはベストなシーズンです。

写真は、鳥類園の西側に当たる「上の池」。ここは冬になるとホシハジロというカモが大群をなして飛来することで有名です。ホシハジロは頭部が茶色、胸部が黒、背中が灰色ときれいに三色に分かれたカモで、目が真っ赤なことが特徴。葛西臨海公園の飛来数は時に1万羽を越すとも言われ、その様は圧巻です。また、時にこれらのカモを狙って、オオタカやチュウヒなどのタカの仲間たちも飛来します。なお、チュウヒもまた絶滅危惧T類にカテゴリされる希少な鳥です。

ほか、冬場でなければ渡りのシギ・チドリやアカテガ二などのカニの仲間も見所。名前に反して鳥に限らず、とにかく多彩な生きものがここに暮らしています。都会に残された奇跡の自然空間をご堪能ください。

早春には、ならではの花景観も楽しめます!

早春には、ならではの花景観も楽しめます!

写真:鷹野 圭

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展望ハウス「クリスタルビュー」前の芝生広場を始めとして、葛西臨海公園では早春期になると菜の花が咲き、鮮やかな黄色が園内を華やかに彩ります。これだけの規模の“お花畑”としては、1年の中で最も早い時期に見られるもの。それに併せて、冬越ししていたタテハチョウやミツバチたちが目を覚まします。春はもう間もなく……季節の変遷を体感できることでしょう。

写真は、菜の花畑にやってきたモズ。“モズのはやにえ”で有名ですね。色だけならスズメによく似ていますが、“小さな猛禽類”とも呼ばれる肉食性の鳥です。全国的には決して珍しい鳥ではないですが、食べ物がなければ生きていけないのはクロツラヘラサギと同じ。彼らの食料となる虫やトカゲなどが、この公園にたくさん暮らしていることの証といえるでしょう。

珍鳥の飛来情報は、Webなどで要チェック!

クロツラヘラサギは冬に飛来する鳥ですが、そこはやはり絶滅危惧種の珍鳥、そう簡単に出合えるものでもありません。今回ご紹介した観察ポイント以外でも、鳥類園の方に移動するかもしれませんし、運が悪ければ立入禁止の東なぎさから出てこないこともあります。そして酷な話ですが……個体数が限られているだけに、いずれは飛来しなくなってしまう可能性も低くはありません。

貴重な鳥である分、飛来したという情報は公園のWebページなどに載ることもありますし、検索サイトでもタイムリーな情報が結構ヒットします。観察に出かける前にチェックしておくといいでしょう。

最後になりましたが、海際で風を遮るものがほぼないため、防寒着だけは忘れずに!


【アクセス】
JR京葉線「葛西臨海公園駅」より徒歩1分(目の前)

掲載内容は執筆時点のものです。 2016/03/13 訪問

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