写真:Naoyuki 金井
地図を見る『元湯 蓬莱館』のある西山温泉は、山梨県の南西部に位置し郡内の身延町には日蓮宗総本山の身延山久遠寺があるエリアです。中臣鎌足の息子藤原真人が705年に狩猟をしたときに発見した温泉と云われ、758年孝謙天皇が「白鳳渓谷に霊泉あり」とお告げによって逗留したとも伝えられています。
このように1300年以上の歴史を誇る西山温泉は、胃腸や婦人病に効く湯として、ずっと湯治場として栄えてきました。何と『元湯 蓬莱館』の前にある《慶雲館》は、この温泉が発見されたときに創業した"世界一古いホテル・旅館"として2011年にギネス認定されているほどです。
こうした立派で由緒ある旅館が目の前にあるにも拘わらず、隠れた人気で宿泊客の絶えない『元湯 蓬莱館』が存在しているのです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る歴史ある温泉街だからこそ、良く言えば当時の面影を残している宿と云えます。鉄筋コンクリートの建物の裏手には、明治6年に建てられた木造館があり、日本近代登山の父と云われたイギリスの登山家ウォルター・ウェストンが南アルプス登山の折に宿泊した部屋も残されています。また、永田町の怪物とも云われた金丸元副総理も宿泊に来るなど、知る人ぞ知る名物旅館なのです。
鉄筋コンクリートの本館と木造の旧館は通路でつながっており、数年前までは使われてた旧館でしたが、現在は流石に老朽化の為に使用されていません。
実際に見ると、確かに昔の湯治場の雰囲気がプンプンとむせ返るようです。まあ、廃墟一歩手前と云っても過言ではありませんが、ある意味では文化財的な趣まで醸し出しているのは、実にユニークです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る山に囲まれた自然豊かな静かな環境にある宿の前の階段を上がれば玄関です。玄関を入ってすぐ左手に受付があり、右側にロビーがあります。玄関に入っても受付には誰もいないので、黙っていても誰も来てくれません。ここでは受付から電話をかけてご主人を呼び出すシステムなのです。何といっても家族経営ですので、多大なるサービスを期待しないでください。
多大なるサービスが無い分、心のこもったホスピタリティに溢れています。料理は山菜がメインで、季節ごとに周辺の山で採れたものを使っています。それに川魚料理がつき、冬季にはイノシシや鹿のジビエ料理ができることもあります。好き嫌いによって献立を調整したり、地理的に関東の人には濃いめ、関西の方には薄めといったちょっとした工夫がなされ、ご主人の手料理に感謝の言葉も少なくないのです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るお風呂は混浴が一つと女性専用の小さな内湯の二つです。入湯前にご主人から「混浴なのでバスタオルでもなんでも巻いて入って」との軽〜い説明が微笑ましく感じてしまいます。
五葉松で作られた浴槽は三つに仕切られており、無色透明、微硫化水素臭、無味の42℃の源泉がそのままかけ流されています。42℃の温泉が、仕切られた次の浴槽に浸みわたり"ぬる湯"となり、更に三つ目の浴槽に浸みて"ぬるぬる湯"となるのです。これが湯治として長く入っていられる秘密なのです。
そして全国でも珍しい黄金色に輝く湯の花が舞っています。一時、前にある慶雲館のボーリングにより減ったことがあったのですが、現在では湯の花の量が戻って来たそう。歴史そのままの完全自噴の温泉で、珍品とも云える湯の花を目の当たりにしながら、のんびりゆっくり"ぬるぬる湯"に浸かる極上の時を過ごせることでしょう。
なお、浴用では慢性婦人病、虚弱児童、慢性皮膚病に、飲用では慢性消化器病、慢性便秘などの効能がありますので試してみてはいかがですか。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る渓谷の景観や小鳥のさえずり、ぬるぬる湯にゆったりつかり、黄金の湯の花に囲まれればこの世の天国。この湯の良さを良く知ったリピーターが多くを占めていますが、最近は秘湯ブームもあって家族連れやグループ客も多くなっています。
部屋は決して豪華ではありませんが、丁寧に清掃された湯治の歴史を感じることのできる部屋です。宿泊も1泊二食付きと自炊宿泊があるのですが、頼めば夕食は持ち込みで朝食だけなどと云った我が儘も受けてもらえることもあります。食事持ち込みの自炊泊で昔ながらの湯治気分を味わってみてはいかがでしょうか。
温泉の良さとアットホームな雰囲気の中で、時間が止まったような贅沢な体験をすることができるのが『元湯 蓬莱館』の魅力なのです。
お世辞にも「素敵な・・・」とは決して言えない温泉施設ですが、最近の綺麗な温泉宿しか知らない方には、ある意味新鮮な衝撃のある温泉宿と云えるかもしれません。家族経営だからこそできるホスピタリティで、知る人ぞ知る名湯を一度味わってみてはいかがですか。
昨今、流行りの商業的で、テーマパークのような温泉も良いのですが、本来の温泉宿の醍醐味に触れてみたい温泉好きに是非訪れていただきたい宿です。
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(2024/3/19更新)
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