「出羽三山」を巡り、よみがえりを祈る神秘の旅へ

「出羽三山」を巡り、よみがえりを祈る神秘の旅へ

更新日:2016/09/03 17:53

今村 裕紀のプロフィール写真 今村 裕紀 旅先案内人
山形県のほぼ中央に位置する「羽黒山」「月山」「湯殿山」の「出羽三山」は、山岳信仰の山として知られています。三山はそれぞれに浄土を表し、「羽黒山」の「現世」、「月山」の「前世」、「湯殿山」の「来世」、この三世の浄土を繋ぎ、再生を祈ることに意味を持ちます。三界を経て甦りを果すことを「三関三渡」の旅とも言います。この巡礼を完遂させて、昨日とはちょっと違う自分への生まれ変わりを果す旅に出かけてみませんか?

出羽三山の神域で、国宝「羽黒山五重塔」との対面

出羽三山の神域で、国宝「羽黒山五重塔」との対面

写真:今村 裕紀

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JR羽越本線「鶴岡」駅前から「羽黒山頂」行きのバスで約40分、終点から4つ手前の「隋神門」で下車します。実は、バスにそのまま乗っていますと、バスの行き先が示すように、これから目指す「羽黒山頂」に到着します。そうしますと、途中の五重塔などを見ることが出来なくなってしまいます。一旦、バスで頂上まで上がり、帰路に階段を下って、五重塔を見る、という方法もありますが、今回は、「隋神門」から山頂をめざすコースをご紹介します。

「隋神門」をくぐり参道に入ると、ふと、空気が変わるような気がします。ここから内が広大な「出羽三山」の神域です。神域は遠く「月山」を越え、「湯殿山」まで広がっています。この「出羽三山」の表玄関から「継子坂」と呼ばれる石畳の道を下って行くと、いくつもの社が現れ、道は一旦、平坦になります。その間を進んで行くと、「祓川」に掛った鮮やかな朱塗りの「祓川神橋」が目を引き、その対岸に勢いよく水しぶきを上げる「須賀の滝」が現れます。

滝を後にして左に進むと、周囲10m、樹齢1,000年以上とも言われる「爺杉(じじすぎ)」が聳え、それを過ごしてさらに進むと正面に現れるのが、国宝「羽黒山五重塔」です。
杉木立のなかに単独で立つ塔は、古色蒼然としていても孤絶した力強さを放っています。
冬には雪に覆われてしまうことを思うと、あたかも時が止まった静寂のなかに毅然として佇んでいるであろう姿にいとおしく、胸打たれる思いさえして来ます。

三神を合祀する羽黒山「出羽三山神社 三神合祭殿」で現世に感謝を捧げる

三神を合祀する羽黒山「出羽三山神社 三神合祭殿」で現世に感謝を捧げる

写真:今村 裕紀

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五重塔を過ぎると、いよいよ「羽黒山」頂上に通ずる2,446段の石段が始まります。石段は一の坂、二の坂、三の坂からなり、あせらずにゆっくりと登りましょう。二の坂を登りきったところにある「二の坂茶屋」で休憩を取ることをおすすめします。三の坂を登りつめて、前方に「羽黒山頂大鳥居」が見えて来たら、頂上はもうすぐです。

頂上には、堂々とした「出羽三山神社」が鎮座します。正式名は「出羽三山神社 三神合祭殿」で、「湯殿山神社」「月山神社」「出羽山神社」が併せて祀られています。もとより、「月山神社」と「湯殿山神社」は遠く山頂や渓谷にあり、冬季の参拝や祭典を取り行うことが出来ないため、三山の行事は全て羽黒山頂の合祭殿で行われるようになったのです。厚さ2Mほどもある茅葺き屋根の重厚さもさることながら、それぞれの社殿名を掲げた「三神社号額」を仰いで見れば、梁から力士が睨みをきかして姿にも圧倒されます。

頑張って2,446段の階段をおよそ1時間かけて登りきって辿り着いた「出羽三山神社」で、いまあることの「現世」に感謝の念を捧げましょう。

「月山神社本宮」を目指して、「月山」頂上へ

「月山神社本宮」を目指して、「月山」頂上へ

写真:今村 裕紀

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「月山神社本宮」は1,984Mの「月山」の頂上にあります。八合目まではバスや車で入ることが出来ます。そこからは、およそ3時間の登山です。

スタートは、「弥陀ヶ原」という湿原から始まります。その湿原のほぼ中央を突っ切って登山道が延びます。比較的なだらかな道を約1時間登り続けると9合目にあたる場所にある「仏生池小屋」に到着です。ここでひと休みして、全行程で唯一の難所である「行者返し」に備えましょう。名前が表すように、急登が数か所続きます。伝説によれば、昔、役行者が山頂を目指したときに、開山者である蜂子皇子に仕える除魔童子と金剛童子が現れて、修行が未熟であるからと押し戻されたと伝えられている場所です。ここを過ぎると、再び、緩やかな山道が続きます。

「月山神社本宮」で死後の世界からの甦りを祈る

「月山神社本宮」で死後の世界からの甦りを祈る

写真:今村 裕紀

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八合目を出発して、約3時間、「月山」頂上に到着です。山頂に鎮座する「月山神社本宮」には、守護神「月読命(つくよみ)」が祀られています。月を象徴する神として、夜、海、魂や死後の命の再生とよみがえりを司っています。ここで「前世」の自分と出会い、「現世」への甦りと再生を祈りましょう。開山期間(7月1日から9月下旬)は、山頂に駐在する宮司さんにお祓いを受けてからの参拝になります。

出羽三山の奥宮「湯殿山神社」で再生を祈る

出羽三山の奥宮「湯殿山神社」で再生を祈る

写真:今村 裕紀

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「鶴岡」駅前からバスで約1時間20分。写真の「湯殿山神社本宮」の大鳥居の前に到着です。駐車場と売店、さらにこの鳥居の左奥には、宿泊施設も兼ねた「湯殿山参籠所」があります。でも、ここが「湯殿山神社」ではありません。正確にはここは「仙人沢駐車場」で、「湯殿山神社本宮」は、ここから「湯殿山神社本宮参拝バス」でさらに上がったところにあります。ここから先、一般車両は通行出来ません。バスで5分程度ですが、登りが結構きついので、行きはバスをおすすめします。

参拝バスの終点から「撮影禁止」の立札が続きます。古代より「出羽三山」の奥宮とされた「湯殿山」は、「語るなかれ」「聞くなかれ」と戒められた別世界なのです。

「湯殿山神社本宮」への参拝は、まず、履物を脱いで素足になり、受付で、お守りと人形(ひとがた)をいただき、御祓いを受け、人形に身体の穢れを移して水へ流します。ここには、授与所の建物や左手奥に境内社はありますが、もとより「湯殿山神社」に「社殿」はありません。しかも御神体は、お湯の湧き出る茶褐色の巨大な岩なのです。この巨石を登ってお参りします。ここで、「来世」への甦りを祈りましょう。御神体である巨石の上を素足で歩いていることの不思議な感覚。とは言え、巨石に流れているお湯が、裸足にちょっと心地よいです。

まとめ

国宝の五重塔と2,446段の石段を配する「羽黒山神社」。山頂本宮までおよそ3時間の本格的な登山を要する「月山神社」。神聖であるがゆえに人工物が許されず「社殿」がない「湯殿山神社」。三山にはそれぞれに魅力ある大きな特徴があり、それぞれが大自然のなかに佇む神秘のサンクチュアリです。

三世の浄土を結ぶ三山詣で興味深いのは、三山では、「現在」、「過去(死後)、「未来(再生)」と流れ、通常の過去(生前)、現在、未来(死後)という秩序とは異なる時空で展開することです。それは現世での「輪廻」「再生」を果す旅であるからです。「西の伊勢参り」に対し「東の奥参り」と言われた出羽三山を繋ぐ旅に出かけて、ささやかな生まれ変わりを願いつつ、出羽山岳信仰の神秘に触れてみてはいかがですか?

掲載内容は執筆時点のものです。 2015/09/20−2016/06/15 訪問

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