写真：乾口 達司
地図を見る奈良公園の南端に、鷺池と呼ばれる池があります。池の中央には、浮見堂と呼ばれる建物が設けられています。創建は大正時代。春は桜、秋は紅葉が水面に映え、奈良公園のなかにあって、もっとも風光明媚なスポットです。そのたたずまいは格好の被写体であり、カメラ好きの方には、ぜひ撮影していただきたい建物です。ちなみに、浮見堂の背後、はるか彼方に見えるのは、毎年8月15日におこなわれる「大文字」で知られる高円山です。
写真：乾口 達司
地図を見る浮見堂の北方には、写真のような不思議な建物があります。四方の壁面に楕円形の穴＝窓が設けられたこの建物は、その姿にちなみ、円窓亭と呼ばれ、国の重要文化財に指定されています。もとは鎌倉時代に建造された春日大社の経庫でしたが、明治時代に当地に移設されました。付近は片岡梅林と呼ばれる梅林となっており、早春には梅の香りが漂います。
写真：乾口 達司
地図を見る『続日本紀』和銅5年(712)のくだりに「壬辰。廢河内國高安烽。始置高見烽。及大倭國春日烽。以通平城也」という記述が見られ、この年、現在の奈良公園およびその周辺地域を指す「春日」の地に「烽」(のろし)が設置されたことがわかります。その推定地の一つが、飛火野(とびひの)です。「飛火野」という文字からも「烽」が置かれたところであったことが十分に考えられますね。木々が生い茂る奈良公園にあって、飛火野だけが一面の芝生状となっており、若草山をはじめとする山々を一望することも出来ます。ホルンの音色に誘われて鹿が集まって来る「鹿寄せ」のイベントがおこなわれるのも、この飛火野です。もちろん、「鹿寄せ」のときに限らず、ご覧のように、いつも鹿が群れをなして遊んでいます。
写真：乾口 達司
地図を見る飛火野を訪れたら、春日大社の社叢と接する奥の方まで歩いてみましょう。すると、ちょっとした盛り上がりがいくつも並んでいるのが、おわかりになるでしょう。実は、これは御料園(春日山)古墳群と呼ばれる古墳群なのです。計14基の円墳からなり、6世紀から7世紀にかけて作られたと推定されています。奈良公園には、こういった古代の痕跡が、いまなお、ひっそり残されているのです。
写真：乾口 達司
地図を見る奈良国立博物館の北東、東大寺へと続く交差点の一角に、門がぽつんと立っています。これは、明治の文豪・森鴎外ゆかりの門なのです。1917年(大正6)、帝室博物館の総長に任命された鴎外は、翌年から1921年(大正10)にかけて、毎年秋になると、正倉院の開封に立ち会うために奈良を訪れました。当時、鴎外が滞在していた宿舎はすでに取り壊されていますが、鴎外の来訪を記念して、現在、門だけが当地に残されています。鴎外には『寧楽訪古禄』や『奈良五十首』といった作品もあり、奈良とは意外にも深い関わりを持っているのです。
奈良公園の見どころが鹿だけではないことが、おわかりになったのではないでしょうか。今回、紹介したように、奈良公園に残る名所旧跡を訪ねて、それぞれの名所旧跡にちなんだ歴史を学ぶのも、旅の良い想い出となることでしょう。もちろん、美しい景色のなか、お弁当を広げてのんびりすることも、お勧めします。ただし、お弁当を広げたまま油断をしていると、鹿に食べられてしまいますので、ご注意ください。
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(2024/4/16更新)
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