世界初公開!上野国立西洋美術館「カラヴァッジョ展」へ幻の名画「法悦のマグダラのマリア」を見に行こう

世界初公開!上野国立西洋美術館「カラヴァッジョ展」へ幻の名画「法悦のマグダラのマリア」を見に行こう

更新日:2016/05/23 16:37

藤井 麻未のプロフィール写真 藤井 麻未 元秘境系海外旅行添乗員
東京上野の国立西洋美術館で開催中の「カラヴァッジョ展」が終了まで一ヵ月を切りました。カラヴァッジョは「光と影の魔術師」と称され光陰を絶妙に描いた独特の作風で一時代を築いたイタリアの天才画家。今回の「カラヴァッジョ展」では彼が死ぬ間際まで携えていた幻の作品「法悦のマグダラのマリア」が世界で初めて公開されています。きっと虜になること間違いなし!今回は、その鑑賞ポイントをご紹介しましょう。

ゆっくり見るには午後遅めが狙い目!

ゆっくり見るには午後遅めが狙い目!

写真:藤井 麻未

地図を見る

人気の美術展だけあって、朝一番で並ばなければ!と思う方は多いはずです。けれど皆考えるのは同じこと。団体ツアーもほとんどが朝一番の時間帯を目がけてやってくるので、9時半の開館時には一時的に人が殺到してしまいます。

そこで狙い目なのが午後遅めの時間帯。国立西洋美術館は17時半が閉館です。カラヴァッジョ展をイヤホンガイド付きでゆっくり見て約2時間。15時半〜16時頃、比較的遅めの時間には午前中のラッシュが引き、落ち着いて見ることができます。また、金曜日のみ20時まで入館可能。仕事帰りにも急げば立ち寄れる時間帯です。

切なく美しい「ナルキッソス」

切なく美しい「ナルキッソス」

提供元:国立西洋美術館カラヴァッジョ展

http://caravaggio.jp/

ではいくつかの作品を見ながらカラヴァッジョ作品の魅力に迫ってみましょう。

まず、今回の展示作品は風俗画、静物、光、斬首などといった8つの章に分けられ、それぞれのテーマに沿って作品を紐解く形になっています。鑑賞にはイヤホンガイドを使用することをおすすめします。ガイドのナビゲーターは北村一輝さん。落ち着いたトーンのややミステリアスな語り口調はカラヴァッジョ作品とピッタリ。思わずその世界に引き込まれてしまいます。

さて、最初に「風俗画:五感」の章からは、「ナルキッソス」をご紹介しましょう。

ナルキッソスとはギリシャ神話に出てくる絶世の美少年のこと。女神ネメシスに自分の姿に恋をする魔法をかけられてしまったナルキッソスは、ある時泉に映った自分を見て恋に落ち、水の中の自分に恋い焦がれるあまりその傍から片時も離れられなくなってしまいます。やがて衰弱して息を引き取った場所からは、一輪の美しい水仙(学名:ナルキッソス)が咲いたのでした。

「ナルキッソス」は、このような切なくも美しい神話のシーンを描いた作品です。カラヴァッジョはこのようにギリシャ神話などからもインスピレーションを得て作品に取り入れました。

この作品を目の前にすると、少年ナルキッソスの艶めかしいまでの美しさにハッとさせられます。敢えて物語を想像させるような背景や物を描くことなく極限まで表現を削ぎ落としたことで、少年の美しさを引き出しているのです。暗闇に浮かび上がる美少年の唇は柔らかく開き、今にも水面に口づけをしょうとしているところ。切なさに苦しむ目線や表情からは少年の内面までも描き出しています。

背景を極力描かず主人公の情景を際立たせる手法はカラヴァッジョの得意とするところ。説明がなくとも、あの美しく切ない「ナルキッソス」の物語を想像させるとは、さすが天才画家の成せる技でしょう。

日本初公開!艶めかしい「バッカス」は神話の酒神?

日本初公開!艶めかしい「バッカス」は神話の酒神?

写真:藤井 麻未

地図を見る

続いて「静物」の章からは今回が日本で初公開となる「バッカス」をご紹介しましょう。

こちらはパンフレットなどの表紙にもなっている有名な作品です。静物画は16世紀に確立した画法。その中心となったのが、カラヴァッジョの修行したミラノの街でした。初期のカラヴァッジョは果物や花などの静物画をよく描いたといいます。中でもこの「バッカス」、そして「果物籠を持つ少年」といった作品は捥ぎたてのような艶々とした果物と艶めかしい少年とを描き、果物が主人公なのか少年が主人公なのか、見る者に判断を迫ります。

「バッカス」は古代ギリシャ神話に出てくる酒神。それを少年に見立てて描いています。彼は古代ギリシャやローマの彫刻を学んだといわれ、この作品もギリシャ彫刻のモチーフからヒントを得たといわれています。

美しい酒器の中に継がれた葡萄酒にはよく見ると波紋が描かれ、少年の手の動きをも想像させます。酒器を差し出す表情はどこか誘惑しているような眼差しで、まるで葡萄酒と一緒に自らをも差し出そうとしているかのような、不思議な魅力に溢れた作品です。

世界初公開!幻の名画「法悦のマグダラのマリア」

世界初公開!幻の名画「法悦のマグダラのマリア」

提供元:国立西洋美術館カラヴァッジョ展

http://caravaggio.jp/

そして、「聖母と聖像の新たな図像」の章からは、世界初公開となる今回の目玉、「法悦のマグダラのマリア」をご紹介しましょう。

この作品は、彼がイタリアのポルト・エルコレで生涯を終えるその間際まで手元に携えていた3作品のうちの一つ。長らく行方不明となっていたものが2014年に発見され、これが彼の真筆だということが証明されました。

カラヴァッジョ38年の生涯は決して順風満帆なものではありませんでした。ローマで才覚を現しつつあったカラヴァッジョは、しかし同時に大都市の闇の部分とも関わりを持つようになります。

もともと血気盛んで喧嘩早かったカラヴァッジョはついに殺人事件を起こし、その後ナポリやシチリア、マルタなどを転々とすることになります。ついぞ一所に安住することのなかったカラヴァッジョですが、放浪生活の間にも珠玉の作品を残しました。展覧会ではその頃の素晴らしい作品が数多く展示されています。この「法悦のマグダラのマリア」もそのひとつ。

当時、カトリックでは聖書の物語や人物を絵画の題材として描くことで人々の信仰心を掻き立てようとしました。したがって、この頃の画家たちはそういった題材を多く扱っています。中でも娼婦から改心した信者のひとり「マグダラのマリア」は「懺悔」の象徴として好んで描かれたのです。

この作品は、マグダラのマリアが今までの人生を悔い改め、まさに信仰心が最高潮に達した瞬間の恍惚とした表情を描き出しています。カラヴァッジョの持ち味である光と影の使い方は秀逸で、どこからかスポットライトが当たっているかのように白く透き通るような身体を暗闇に浮き上がらせているのです。

目から涙を流し、失神寸前のようなその表情からは鬼気迫るものさえ感じます。自らの粗暴な性格を制御することができず、作品を描き上げては逃亡する生活を繰り返していたカラヴァッジョ。描かれた涙や鬼気迫る表情には、カラヴァッジョ自身の苦悩が重ねて感じさせられます。

おわりに

さて、「法悦のマグダラのマリア」を中心にカラヴァッジョ作品の見所をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

今回の「カラヴァッジョ展」では全50作品のうちカラヴァッジョ本人による作品は11点。現在、カラヴァッジョ作品を収蔵する美術館で世界最多数を誇るのがローマ、ボルゲーゼ美術館の6点です。したがって、これだけの数のカラヴァッジョ作品を一度に鑑賞できるのは世界中で今しかありません。「法悦のマグダラのマリア」については、この日本が世界に先駆けて初公開の場に選ばれました。

その他、カラヴァッジョを熱烈に支持した「カラヴァジェスキ」と呼ばれる同時代、次世代の画家たちの作品も展示されており、これらもなかなかの見応えです。ダヴィンチやミケランジェロを支持したフォロワーたちと比べても、格段にレベルの高いカラヴァジェスキたちの作品を見て、本人のものと見比べてみるのも面白いでしょう。

カラヴァッジョのファン、そしてこれまで彼のことを知らなかったという方々も虜になること間違いなしの「カラヴァッジョ展」、開催期間は残りわずかです。また、国立西洋美術館は7月にもユネスコ世界文化遺産に正式決定する見通しとなりました。この機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。

- PR -

条件を指定して検索

- PR -

この記事に関するお問い合わせ

- 広告 -