人の手で生み出された至高の緑地 ―東京・明治神宮御苑―

人の手で生み出された至高の緑地 ―東京・明治神宮御苑―

更新日:2016/05/26 12:57

鷹野 圭のプロフィール写真 鷹野 圭 首都圏自然ライター
明治神宮は神社であると同時に、23区とは思えぬほど豊かな緑を有する都会のオアシスという側面も持っています。とりわけ渋谷と代々木の間に位置する御苑には『明治神宮の森』と呼ばれる一際濃密な森が広がり、哺乳類から昆虫まで多様な生きものが暮らしています。それでいて実はこの森、ほんの約100年前に人の手で作り出された森であることをご存知でしょうか? 今回は御苑を散策し、その自然度を一緒に体感してみましょう。

深い森の中にツツジが咲き、小川が流れる和風自然庭園

深い森の中にツツジが咲き、小川が流れる和風自然庭園

写真:鷹野 圭

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その名の通り明治天皇と昭憲皇太后を祀る明治神宮。その周囲を囲う深い森は元々からここにあったわけではなく、100年以上も前に全国から樹木が献上・植栽され、成長して今のような姿になりました。元々は荒地であり、今の姿からは到底想像できないほどの殺風景だったそうです。そのような昔の植林工事でありながら、植生遷移(年を追うごとによる植物の種類の移り変わり)を考慮に入れ、さらに単一ではなく多彩な植物が植栽されたと記録されており、最近よく耳にする“生物多様性”を逸早く取り入れた森づくりであったとされています。

この森は植物相の保全のために通常立ち入ることはできませんが、御苑(明治神宮御苑/入苑料500円)を歩くことでその森の豊かさを体感できることでしょう。ここは旧大名邸の庭園であった場所で、日本庭園としての様を呈していながら、多くの動植物が命を繋いでいる自然公園としての側面も持っています。春から初夏にかけてはツツジが最盛期を迎え、木々の間を縫う園路を鮮やかに染め上げます。人の身長を超えるほどの大きな株も見られ、和の情緒が共存する落ち着いた華やかさが楽しめることでしょう。

静かな森に囲まれる、和の情緒に満ちた花景観を

静かな森に囲まれる、和の情緒に満ちた花景観を

写真:鷹野 圭

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かつて明治天皇が皇太后様のために植えられたという御苑のハナショウブは、王道の紫色から淡い桃色、そして純白に至るまでと多様な色で私たちの目を楽しませてくれます。丁寧に育てられているためか花の形もよく、落ち着いた雰囲気と同時に華やかさもまた漂わせています。最盛期は6月。ツツジ並木にならんで御苑でも屈指の華やかな空間であり、とりわけ来苑者を惹きつけるスポットです。写真に収めるもよし。風景画のモチーフにするもよし。雑音のない静かな環境の中で思い思いの形でお楽しみください。

カワセミも姿を現す南池。時に思わぬ“大物”も?

カワセミも姿を現す南池。時に思わぬ“大物”も?

写真:鷹野 圭

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スイレンやコウホネの花が咲く「南池」は、畔の林の中を遊歩道が通っており、御苑でも最も自然の豊かさを実感できるスポットです。トンボを中心とした多くの昆虫が訪れることはもちろん、美しいカワセミが飛来することもしばしばあります。また、冬場であればまれにオシドリが見られることもあります。恥ずかしがり屋であまり表に出てくることがなく、池に迫り出した木の葉の陰などに隠れていることが多いので、よ〜く探してみましょう。

また、水面に目を向けるとコイやカメなどの大きな生きものが通り過ぎることがあります。中でも驚かされるのが、あの高級食材としても知られるスッポンが暮らしているということ。一般的によく見られるカメより一回りも二回りも大きく、特徴的な外見は一度見たら忘れることはありません。“月とスッポン”などと言うことわざがあるとおり醜い容姿とされることが多いですが、短い脚を一生懸命に動かして泳いでいる姿は、実際に見てみるとなかなか愛嬌が感じられます。ある意味ではカワセミにも勝る、ここのアイドルと言えるかも?(笑)

ミョーに人懐っこい小鳥が……

ミョーに人懐っこい小鳥が……

写真:鷹野 圭

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写真の鳥はヤマガラ。東京都内でも留鳥としてシーズンを問わずよく見られる(冬場の方が確率は高いですが)小鳥で、自然豊かな明治神宮御苑では至ってポピュラーな存在です。実はこの鳥、とても人に懐きやすく、入苑口のカウンターにとまったり、場合によっては写真のように係員さんの手にとまってしまうこともあります。非常に身近な鳥でありながら、ここまで“近く”にやってくるとむしろ新鮮。より自然を身近に感じることができるでしょう。

「ツィー、ツィー」という独特の鳴き声を上げるので、聞こえたら近くの木の枝などを探してみましょう。特に木の実が好きなので、実のなる樹木があったらチェックしてみてください。

時には、思いがけない出会いも!

時には、思いがけない出会いも!

写真:鷹野 圭

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お分かりになりますでしょうか? これはホンドタヌキ。信じられないかもしれませんが実はこの御苑にも暮らしているのです。野生の哺乳類の中でも、近年タヌキは都会の暮らしに適応しつつあり、夜中などにまれに街中で遭遇することもあるらしいですが、安心して定着するためにはやはり棲み家となる環境が必要。そういう意味では、鬱蒼とした深い森を有するこの御苑は正にうってつけだったのでしょう。ドングリなどの食糧も豊富ですしね。

さすがにいつでも見られるものではありませんが、都会暮らしのためか人間にはかなり慣れているらしく、いざ人前に出てきた時にはご覧のようにリラックスした姿を見せてくれることも! 写真の個体は兄弟なのでしょうか? 何人もの来苑者がすぐ近くで見学し、写メを向けているにもかかわらず、まるで気にしていない様子でお互いの毛づくろいをしていました。その仕草は可愛らしいことこの上ありません。

無論、野生動物ゆえにいつでもリラックスしているとは限りませんし、狙って会いに行くのは難しいです。しかしどこに現れても不思議ではありませんので、苑内を巡る時にはできるだけ周囲に気を配ることをおススメします。もし道端からガサッと音がしたら要注意。立ち止まって、少しその場で待ってみるのもいいでしょう。

人の暮らす街・東京に、人が生み出した“自然”

元々何もなかった荒れ地に、数十年後まで見越して様々な種の苗木を植え、植樹を施し、約100年の年月を経てようやく今の明治神宮の森ができあがりました。通常立ち入ることのできないこの森を最も身近に感じることができる御苑は、緑あり、花あり、水あり、史跡あり……四季を通じて見所に満ち溢れたスポットです。中でも暮らしている生きものの数・種類は東京都内でも屈指。観察や撮影を楽しみつつ、「人の手で造り出した森でも、これほど多くの生きものを呼び戻すことができるんだ!」ということを体感していただきたく思います。近年よく耳にする“生物多様性”というものに対し、見方がガラリと変わることでしょう。

【アクセスほか】
JR山手線「原宿駅」より徒歩2分
御苑入苑料/500円(御苑維持協力金)
開苑時間/9:00〜16:30(3〜10月)
9:00〜16:00(11〜翌2月)
8:00〜17:00(6月中、土・日は18:00まで)

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掲載内容は執筆時点のものです。 2015/05/24 訪問

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