京都市内に謎の近代建築!?西本願寺「伝道院」

京都市内に謎の近代建築!?西本願寺「伝道院」

更新日:2023/08/03 16:15

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
西本願寺といえば、「古都京都の文化財」の一つとして、ユネスコの世界遺産に登録されている浄土真宗本願寺派の総本山。境内には、国宝の唐門を筆頭に、江戸時代以来の数々の伝統的な建造物が立ち並んでいます。しかし、そんな西本願寺に一風変わった近代建築が存在していること、ご存じですか?今回は「伝道院」と呼ばれる謎の近代建築とその魅力に迫ってみましょう。

本当にお寺の施設!?西本願寺の「伝道院」

本当にお寺の施設!?西本願寺の「伝道院」

写真:乾口 達司

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国宝・御影堂などが立ち並ぶ境内を出て、堀川通を東側に渡ると、目の前に大きな総門が立っているのをご覧いただけるでしょう。総門をくぐり、仏壇・仏具店が軒を連ねる道をさらに奥に進むと、やがて写真の光景に出くわします。

丸いドームを頭にのせた、赤いレンガ造りの建物。この風変わりな建物こそ、今回、ご紹介する「伝道院(でんどういん)」です。

本当にお寺の施設!?西本願寺の「伝道院」

写真:乾口 達司

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伝道院は、1911年(明治44)、近代の日本を代表する建築家であり、東京帝国大学の教授を務めた伊東忠太によって設計されました。施工は竹中組(現在の竹中工務店)。創建当初は信徒向けの生命保険会社として利用されていましたが、その後は銀行や事務所などに転用され、現在は西本願寺関連の研究所として利用されています(普段は内部の一般公開はなし)。

ご覧ください、この正面玄関。イギリスの建物をイメージさせる総レンガ造り風のタイル張りであり、事情を知らない人が見たら、まさか西本願寺所有の建造物であるとは思わないでしょう。

伊東忠太の「建築進化論」を反映させた意匠

伊東忠太の「建築進化論」を反映させた意匠

写真:乾口 達司

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伝道院では、赤レンガがタイルのようにはめこまれた外観以外にも、さまざまな建築様式が随所に取り入れられています。さまざまな建築様式が取り入れられている背景には、材質や様式面で従来の日本建築の革新を訴えた設計者・伊東忠太の「建築進化論」が踏まえられており、そのことが伝道院のスタイルを独特のものに仕立てています。

たとえば、写真は道路に面した北面部分を撮影したものですが、西洋建築を連想させる窓付近の意匠の上部に見られるのは、何と日本の伝統的な寺院建築で見られる「破風」(はふ/屋根の妻側に見られる造形)を石組みで表現した意匠。その上部には破風にしばしば見られる「懸魚」(げぎょ/装飾を目的とした板飾り)までとりつけられています。

伝道院が洋の東西を組み合わせた建造物であること、ここからもおわかりいただけるでしょう。

伊東忠太の「建築進化論」を反映させた意匠

写真:乾口 達司

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上部に設けられたインド・サラセン風のドームも異色です。ドームは銅板葺きで、内部の骨組みは木造です。

伊東忠太の「建築進化論」を反映させた意匠

写真:乾口 達司

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ドーム型の塔のほかにも、南東側にはご覧の塔がそびえています。こちらは六角形の形状で、窓の意匠も独特です。

こちらの塔は背面に当たる北東側からよく見えるため、お見逃しなく。

背面や通風孔の意匠

背面や通風孔の意匠

写真:乾口 達司

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正面の意匠にばかり目を奪われず、裏手にあるこちらの意匠にも目を向けましょう。通路の上のアーチがこのような形になっているのも珍しいですね。

背面や通風孔の意匠

写真:乾口 達司

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つい見落としてしまいがちですが、足元にも目を向けてください。写真はいわゆる通風孔ですが、通風孔の意匠もレトロ感満載。

細部まで手を抜かない造形には脱帽です。

車止めに居並ぶ奇怪な怪獣たち

車止めに居並ぶ奇怪な怪獣たち

写真:乾口 達司

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建物のまわりには、怪獣あるいは妖怪と思しき石造の車止めが居並んでいます。

設計者の伊東忠太は無類の妖怪好きとしても知られており、伊東の設計した兼松講堂(一橋大学)や震災祈念堂(現在の東京都慰霊堂)などにもさまざまな怪獣・妖怪の類の造形を見ることができます。

車止めに居並ぶ奇怪な怪獣たち

写真:乾口 達司

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こちらは鼻の長いゾウと思しき石像。しかし、よく見ると、翼があります。したがって、やはり怪獣の類でしょう。

車止めに居並ぶ奇怪な怪獣たち

写真:乾口 達司

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こちらは怪鳥でしょうか。その造型を一つずつ見てまわるだけでも楽しいですよ。

伝道院の不思議な魅力、ご理解いただけたでしょうか。西本願寺の境内から歩いて5分ほどのところに位置しているため、アクセスが快適なのも嬉しいですね。西本願寺を訪れたら、伝道院も忘れずに訪れてください。

伝道院の基本情報

住所:京都府京都市下京区玉本町計上196
アクセス:京都市バス「西本願寺前」よりすぐ

2023年8月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2023/05/14 訪問

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