蒲郡クラシックホテルは、お城の天守閣のような帝冠式建築、背後の山並み、静かな三河湾に浮かぶ竹島、夕暮れなど、絶景地に建つホテルです。池波正太郎『よい匂いのする一夜』の蒲郡紹介の一節です。
「・・何しろ、海辺の丘の上と下にホテルと旅館があり、工場だの鉄道だの、町なみなどは、みんな丘の背中になっている。見えるのは、竹島と青い海のみなのだ。(中略)ホテルのほうは昭和九年の創業だと聞いて、なるほど、はじめて私が泊まったときの蒲郡ホテルには新築の匂いが濃厚にただよっていたことを、いま、おもい出した。」
鉄道唱歌30番に蒲郡が歌われています。
「豊橋おりて乗る汽車は これぞ豊川稲荷道 東海道にてすぐれたる 海のながめは蒲郡」
現在、蒲郡クラシックホテルの真下に「海辺の文学記念館」(写真右下)があり、ここに池波正太郎が「旅館」と書いた「常盤館」が建っていました。常盤館の開業が明治45年(1912年)、「蒲郡ホテル」の完成が昭和9年(1934年)です。ホテルは「蒲郡プリンスホテル」を経て、現在の蒲郡クラシックホテルへ、人気の「蒲プリ(がまぷり)」とも呼ばれた時代も。
「常盤館」と「蒲郡ホテル」を完成させたのは、名古屋の繊維問屋の滝信四郎です。
チェックインすると、部屋に案内されますが、スタッフはとても丁寧な説明をします。カバン類は少し後で運ばれ、贅沢な感じです。部屋はシンプルでスッキリしており、照明はヨーロッパ、米国並の少し暗めですが、落ちつける明るさです。
建物は帝冠様式のつくり。名古屋市役所や愛知県庁、門司港駅がこのような形式です。まるで銅葺きの贅沢さを誇った名古屋城天守閣のようにどっしりとした外観です。
館内を歩くと、何人かのスタッフが「赤く染まる景色をお楽しみください」。と声をかけてくれます。
蒲郡クラシックホテルは、ハート型の三河湾の右側上部ふくらみに位置し、海側の部屋から正面左手に豊橋、そこから右(西)方向へ渥美半島が伸びて行きます。手前右から西浦半島が突き出し、夕日が三河湾を赤く染め西浦半島の平野部に沈みます(写真)。日没前にチェックインすれば、夕食前に赤く染まる三河湾の景色が楽しめます。静かな三河湾の夕焼けはおススメです!
西浦半島のはるか後方に知多半島が伸びているのですが、見えるのでしょうか? 川端康成の『旅への誘い』にはこんな一節でこの風景が描かれています。
「しかし、幼い早苗のことで、そのような案内には、あまり興味がないらしく、幾度も振り返って眺めるのは、観光ホテルであった。丘の頂のホテルは、北方の五井の山々より高くそべいて見えた。新しい城のような、都会風の人工に、子供は心をひかれるのだろう。
四百五十米ばかりの、その五井山の向うを、御油から岡崎へ、古い東海道が通っている。
『知多半島は見えないの?』
と、上杉は聞いてみた。
『見えません。ちょうど、西浦の御前崎の裏にかくれとります。ホテルの展望室にお上がりになりますと、遠く鳥羽が見えます。』」
三河湾の夕焼けを堪能したら、ディナー。メインダイニング(写真)の他、プランにより、離れの「六角堂」の鉄板焼き、「竹島」では日本庭園を眺めながらお箸で洋食が楽しめます。
「期待を超えるサービスとホスピタリティでお迎えする」が、ホテルのキャッチフレーズ。部屋数わずか27の当ホテルでは、チェックイン後、館内を歩く間にスタッフから何回もあいさつされます。ディナーテーブルに座るころには顔なじみです。名前で呼ばれ、バトラーからサービスを受けているように感じることでしょう。
ディナーはフレンチのフルコースで、使用されるお皿、カトラリー、食材、サービスなどどれも期待を上回ります。サラダに出る小指の先の大きさのマイクロトマト。蒲郡発祥で生産シェア95%を誇ります。
ぜひ試してほしいのがグラスワイン。一杯¥1,600と少し高いですが、ソムリエが有名銘柄のワインを選び、飲み頃の温度で提供します。建物基礎部にあるワインセラーと合わせ、100種類以上のワインを保管。ここにワインを預け、試飲会をするグループもあるほどです。
メインダイニングから三河湾が一望できますが、海側にせりだした特別なテラス席が3テーブルだけあります。三河湾眺望のおススメ席です。特に南西角のテーブルは2方向が見渡せる絶景。予約はできず早い者勝ち。ディナーは少し早めに行くとよいでしょう。朝食は、テーブルが空きそうな時間をスタッフに確認すると親切にアドバイスしてくれます。
メインダイニングの隣はロビーからの吹き抜け。吹き抜けの隣にラウンジ・バー・アゼリア。吹き抜け横、窓側にソファーがあるほか、ここからベランダデッキ(写真)に出ることもできます。ベランダデッキの隣が、メインダイニングのテラス席。
ラウンジでは朝食前からコーヒーが準備されており、セルフサービスで、竹島と三河湾を眺めながらコーヒーや紅茶を楽しめます。ラウンジの朝のコーヒーや紅茶は無料です。贅沢な時間をお楽しみください。それはこの建物を完成させ、蒲郡の風景を楽しんだ豪商と同じ贅沢です。菊池寛の『火華』の中で、この海と建物を以下のように著しています。
「御油、蒲郡の海! それは東京からも大阪からも、遠いために、逗子や舞子のように有名でない。須磨や葉山のように人に知られていない。が一度でもこの海を訪ねた人は、物静かな穏かな清い風光を、いつ迄も、忘れはしないであろう。」
「海は遠浅で、潮は瀬戸内海に見るように美しい。冬でも、海岸に立つと泳ぎたいような誘惑を感ずるだろう。」
「それは名古屋の某富豪が、蒲郡の風光を愛するために、道楽半分に建て、道楽半分に経営している旅館である。」
四季折々の色彩が溢れる広大な庭園を歩いてみてはいかがでしょう。
帝冠式のホテルを見あげる庭園はまるで大名屋敷を思わせる風情を堪能できます。
蒲郡クラシックホテルから見る三河湾の夕焼けはいかがでしたか。一泊二食付きなどのプランで宿泊するとコスパがとても高いことに驚くでしょう。
ぜひ、楽しんでいただきたいのが、11,000坪ある敷地内の散策。部屋の前庭からたくさんのつつじが植えられ、広大な敷地内に、もみじや松、離れのレストラン、茶室などがあり、30分ほどで楽しめます。竹島側から見た一枚目写真のホテル下は、ほぼ蒲郡クラシックホテル敷地です。
昭和天皇、今上天皇のご宿泊もある伝統やサービスの質の高さは経営や名称が変わっても継承されています。蒲郡や三河湾ではクルーズ船や自動車運搬船など大型船がすべるように通過し、文豪たちが称賛した風景を楽しむことができます。
愛知、蒲郡クラシックホテルへの旅はいかがでしょう。
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(2024/4/20更新)
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