こんな所にも往時の痕跡が!東大寺と双璧をなす「西大寺」の在りし日の姿を求めて

こんな所にも往時の痕跡が!東大寺と双璧をなす「西大寺」の在りし日の姿を求めて

更新日:2013/07/03 13:55

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
奈良を代表する古寺として、世界遺産・東大寺を連想する方も多いでしょう。その名のとおり、東大寺はかつて平城京の東に位置する大寺でした。では、それと対になる西の寺はあったのでしょうか。実は、その名のとおり、西大寺というお寺が、いまも残っているんです。知名度の上では東大寺に劣りますが、それだけに奈良観光において新たな発見が期待出来るお寺です。かつての西大寺がいかに栄えていたかを、今回はご紹介しましょう。

壮麗な創建当時をいまに伝える東塔跡

壮麗な創建当時をいまに伝える東塔跡

写真:乾口 達司

地図を見る

西大寺の存在は、近鉄線・大和西大寺駅の名称からもうかがえます。大和西大寺駅南口から歩いて5分。現在の西大寺は、商業施設や住宅地のなかに、ひっそりたたずんでいます。

創建は764年(天平宝字8)。恵美押勝の乱に際して、孝謙上皇(後の称徳天皇)が乱の平定を祈願して、金銅四天王の造像と寺院の建立を発願したことにはじまります。当初は広大な境内に数多くの堂塔が建ち並んでいましたが、平安時代になると、たびたび火災に見舞われます。現存する建物はすべて江戸時代に再建されたもので、その寺域も、創建当初からは大幅に縮小しています。

創建当時の隆盛をいまに伝える遺構としては、写真にあるように、本堂手前の東塔跡が残されているだけです。当初は八角七重塔として計画されましたが、後に四角五重塔に変更・縮小されました。基壇の周囲は八角形の芝生となっており、八角七重塔として計画された当初の基壇の位置を示しています。

6メートルにおよぶ大像が安置された四王堂

6メートルにおよぶ大像が安置された四王堂

写真:乾口 達司

地図を見る

四王堂には、右手に大錫杖を握り、左手に華瓶を捧げた長谷寺式の十一面観音菩薩立像が安置されています。もとは京都・法勝寺十一面堂の本尊としてまつられていましたが、十一面堂の倒壊後、亀山上皇の院宣によって、西大寺に移されました。

6メートル近い大像で、床から見上げると、その大きさには圧倒されます。周囲には、中世に作られた四天王立像が配置されています。四天王に踏みつけられている足元の邪鬼だけが創建当初のものです。

西大寺中興の祖・叡尊の巨大な五輪塔

西大寺中興の祖・叡尊の巨大な五輪塔

写真:乾口 達司

地図を見る

鎌倉時代になると、叡尊(興正菩薩)が、寺の復興に着手します。叡尊は土木事業も積極的に推進し、その結果、寺領は拡大。『西大寺与秋篠寺堺相論絵図』によると、鎌倉時代後期には、西大寺の北方にある秋篠寺とのあいだで、寺領をめぐって、裁判沙汰にまで発展したことがうかがえます。

叡尊の墓は、西大寺の西方、奥の院とも称される体性院に残されています。ご覧のとおり、巨大な五輪塔で、台座の下端から空輪のいただきまでの高さは、約3.7メートルもあります。石塔マニアの方には、ぜひご覧いただきたいスポットです。

中世の葬送儀礼を伝える貴重な骨堂

中世の葬送儀礼を伝える貴重な骨堂

写真:乾口 達司

地図を見る

体性院では、境内の西に広がる墓地にも、足を運んでください。墓地の一角に、骨堂(こつんどう)と呼ばれる建物が建っています。

鎌倉時代末期から室町時代にかけて建てられたと考えられる納骨堂で、五輪塔の形をした板塔婆などが、外壁に打ちつけられています。現在、納骨の習慣はありませんが、塔婆を打ちつける習慣だけは残っており、真新しい塔婆も見られます。現存する骨堂はきわめて珍しく、中世の葬送儀礼を考える上で、貴重な文化財です。

住宅地のなかに残された伝・称徳天皇御山荘跡

住宅地のなかに残された伝・称徳天皇御山荘跡

写真:乾口 達司

地図を見る

伏見中学校の北方、住宅地のなかに、こんもりとした森があります。なぜ、ここにだけ森が残されているかというと、西大寺境内の飛び地となっているからです。中世の絵図などで「本願天皇御山荘跡」と記されている森で、古来、西大寺を創建した「本願天皇」(称徳天皇)の山荘があったところと伝えられています。実際、茂みのなかには、園池の跡らしきものも確認出ます。発掘調査の結果、森の裏手からは、奈良時代後期に造営された宮殿風の遺構も発見されています。

いかがでしたか?
西大寺といえば、本堂や四王堂のある中心伽藍にばかり目を向けてしまいがちですが、その周辺にも、かつての西大寺の隆盛をしのぶものがいまなおいくつも残されていることが、おわかりになったのではないでしょうか。

西大寺では、叡尊の遺徳を偲び、毎年春と秋を中心に、年数回、巨大な茶碗で茶をたてる大茶盛がもよおされます。そのときに西大寺を訪れ、その周辺地域にも足を運んでみることをお勧めします。

メモ
拝観料 : 本堂・愛染堂・四王堂の三堂共通券は800円/聚宝館(宝物館)を含めた四堂共通券は1000円(聚宝館は新春・春・秋の限定公開)

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2013/05/31 訪問

- PR -

条件を指定して検索

- PR -

この記事に関するお問い合わせ

- 広告 -