紅葉を愛で、古都奈良の「正暦寺」と「長岳寺」の特別拝観で祈りの心に触れる旅

紅葉を愛で、古都奈良の「正暦寺」と「長岳寺」の特別拝観で祈りの心に触れる旅

更新日:2015/10/22 14:57

和山 光一のプロフィール写真 和山 光一 ブロガー
山辺の道は、記紀万葉の時代からの日本最古の官道で、奈良公園の南東、春日山の麓にはじまり、三輪山のある桜井までの青垣の山裾を結ぶ道です。沿道には今も数多くの社寺が点在し、古代歴史ロマンを感じます。

錦秋の11月、古都奈良の隠れた紅葉の名所である正暦寺と長岳寺で、それぞれ薬師如来椅像と大地獄絵の秋季特別公開があります。錦の里で紅葉を愛でながら秘宝・秘仏に手を合わせてみてはいかがでしょうか。

「錦の里」正暦寺のある聖地菩提山は釈迦修行の聖地

「錦の里」正暦寺のある聖地菩提山は釈迦修行の聖地

写真:和山 光一

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正暦寺は奈良市東南の郊外の山間、山辺の道(北エリア)沿いの、のどかな田園風景が広がる崇道天皇八島陵の東にあるお寺です。奈良市の中心から車で30分ばかりのところなのに、驚くほど山深く、ずいぶん遠くまで来てしまったように錯覚します。所に古人が“錦の里”と名づけたように、今もなお奈良では屈指の紅葉の名所があります。

正式名は菩提山真言宗大本山正暦寺といいます。菩提山は釈迦修行の聖地に因んで名付けられた霊山であり、この山を聖なる山と見立て仏教の一大拠点を築こうとしたのが、平安時代中期の一条天皇でした。正暦3年(992)、一条天皇の発願により兼俊僧正(藤原兼家の子)によって寺院が建立されました。創建当時の元号をとって正暦寺と名付けられたこのお寺は、一条天皇が、強い決意を持って創建に取り組んだことが伺えます。

日本清酒発祥の地「正暦寺」のお酒を味わう

日本清酒発祥の地「正暦寺」のお酒を味わう

写真:和山 光一

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菩提寺仙川の清流に沿う参道は、約500mにわたり、紅、黄と鮮やかに染まっています。楓は頭上よりはるかに高く、樹齢を経たものが多いせいか、大きな枝が重なり合っています。赤の“いろはもみじ”と、強い黄色が混じる“たにもみじ”が引きたて合い、燃え立つ色に包みこまれているようです。

境内に流れる菩提仙川の清水は、かつて室町時代の後期、現代の酒造りに通じる酒造法が考案された奈良酒をつくるのに使われたといわれており、日本で初めて清酒を醸造したお寺として知られています。清流から得られる水とその水で育った米、澄み渡る山の空気は清酒の醸造に適していて、このお酒は織田信長や豊臣秀吉を酔わせたといいます。酒母の原型である「菩提酛」の仕込みが毎年1月に行われ、その酒母を用いて醸造した清酒は舌にまったりとした甘味を感じ、ピリッと広がる酸味が持ち味です。

福寿院客殿から秋の絶景を見渡し、仏様に手を合わせる

福寿院客殿から秋の絶景を見渡し、仏様に手を合わせる

写真:和山 光一

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境内に入って最初に見えるのが「福寿院」で、石段を上ったところにある建物です。延宝9年(1681)に建て替えられた建物で、上壇の間を持つ数寄屋風客殿建築であり、国の重要文化財に指定されています。中の雪中柳鷺図といわれる襖絵は、京狩野3代目である狩野永納筆によって描かれ、今に伝えられています。また本尊である県指定重要文化財の孔雀明王像も拝観でき、こちらは鎌倉時代の作。孔雀に乗った仏で、孔雀の羽を光背としています。

紅葉の11月には、飛鳥時代に造られた正暦寺本尊で、鳥羽天皇の病気平癒のため宮中に移して祈祷したとの記録も残る、歴史ある秘仏「薬師如来椅像」の秋季特別公開があります。台座に腰をかけるという椅像の形の金銅仏で、足は踏割蓮華にのせています。高さは約30cm、かつては常に身の傍に置く為の念じ仏であったと考えられています。

古来“錦の里”と称えられる山内では、約3000本のカエデが燃えるような朱に染まり、ケヤキやオウバクの黄と共演しています。福寿院客殿の緋毛繊の上に座り、その風光明媚な山の紅葉を借景とした庭園を眺めれば、吹き抜ける風、川のせせらぎが心地よく、疲れも消えていくように心が安らいでいきます。

日本の紅葉百選「長岳寺」で地獄に会う

日本の紅葉百選「長岳寺」で地獄に会う

写真:和山 光一

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山辺の道(南エリア)に残る高野山真言宗 釜ノ口山長岳寺は、天長元年(824)、淳和天皇の勅願で弘法大師・空海によって大和神社の神宮寺として創建されたと伝わる古刹です。俗に釜口のお大師さんと呼び親しまれています。大門をくぐり両側に平戸つつじの生垣が続く玉砂利の参道を行くと、我が国最古の美しい鐘楼門があり、この平安時代の端正な鐘楼門は唯一の創建当初の遺構なのです。

12000坪の広くて静かな境内の中で、放生池越しに見る紅葉の本堂は「日本の紅葉百選」に選ばれていて、池に鏡のように紅葉が映り込む景色に心が奪われます。

紅葉の時期ご開帳されるのが、江戸時代初期の作で、狩野山楽筆とされる「大地獄絵」です。九幅の絵からなり、全てを合わせると高さ3.5m幅11mにおよぶ大作です。三途の河、八大地獄、十王裁判図などが画面いっぱいに描かれ、圧巻です。絵解き説法といって、この絵を使って長岳寺の僧侶は人々に説法をおこなっていたのです。

寄り道しても見ておきたい「かくれ里」円照寺

寄り道しても見ておきたい「かくれ里」円照寺

写真:和山 光一

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円照寺は、奈良から少し南へ下った帯解の山中、奈良市山町にある臨済宗妙心寺派の尼寺で山号は普門山といいます。華道の山村御流の家元でもあり、俗に山村御殿と呼ばれています。

黒い山門から端正な敷石が真直ぐ玄関までつづいていて、いかにも尼寺らしい清浄な空気に包まれています。茅葺き屋根の本堂のたたずまいといい、後背の山里と合いまった景色は、山村御殿の名にそむかず、美しいお寺なのですが、残念ながら拝観はできません。開山は後水尾天皇の皇女文智内親王で、寛文9年(1669)、現在の地に移された、佐保路の法華寺・斑鳩の中宮寺と並ぶ大和三門跡と呼ばれる門跡寺院のひとつです。

三島由紀夫の小説「豊饒の海」に再三登場する月修寺のモデルといわれ、清らかな参道や付近の小道には別格の趣が漂っています。

アクセス方法ですが

正暦寺は奈良市南東部の山間にあり、バスや電車等公共機関の便の多少悪いところにあり、普段は車かタクシーでの来山になるのですが、秋の紅葉シーズンは、JR・近鉄奈良駅から正暦寺行臨時バスがでています。

長岳寺へは、正暦寺から三輪山へ向かって下ること約12Km、山辺の道は天理市に入り、石上神宮を後にして田畑の間を縫うように歩きます。時間的にちょっという方は、JR奈良駅より桜井線(万葉まほろば線)に乗り替え、柳本駅で下車し、徒歩20分の距離です。

円照寺までは正暦寺から「奈良奥山ハイキングコース」で約2Km、竜王池の向いの竹林を抜けること歩いて30分程度です。参道を下れば門柱のすぐ前が「円照寺バス停」です。

古都奈良で、古より聖地とされた二つ山である春日山から三輪山を結ぶ山辺の道のコース上には落ち着いた雰囲気の寺院が他にも点在しています。是非秋の古都奈良を特別拝観とともに満喫して下さい。

秋季特別公開の日程
正暦寺:2015年11月3日〜12月6日
長岳寺:2015年10月23日〜11月30日

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/11/30 訪問

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