江戸時代後期の文人・鈴木牧之は明和7(1770)年、越後国魚沼郡塩沢に生まれ、当時のベストセラー「北越雪譜」を著し、文政11(1828)年秋山郷取材の旅に出、「秋山紀行」で初めて世に「秋山郷」を紹介しました。秋山郷は古くから平家落人の谷であるとも語られてきており、文治年間(1185〜89)、源頼朝に敗れた平勝秀が草津から逃れてきて屋敷村に住みついたというものです。
「桃源を尋ぬる心地して秋山に尋ね入りぬ」と、鈴木牧之は「秋山紀行」に書いています。
写真:和山 光一
地図を見る千曲川が信濃川へと呼び名が変わる、栄村と新潟県津南町の県境を南へ向かい、志久見川沿いから北野天満宮の谷を目指します。戦国時代、武田と上杉が対峙した要衡の谷に、994年開基とされている菅原道真公を祀る北野天満宮が鎮座しています。温泉の名をここからとった「北野天満温泉」の開業は1997年12月。地下700Mから温泉が噴き出した敷地内には菅原公を祀った八角堂や毎分6トンの水を噴出する信州の名水・秘水15選に入っている湧水堂などがあります。
男女それぞれ、内風呂と露天風呂が一つずつあります。内風呂は細長い浴槽に加え、外に面した一面のガラス張りが、広々としてリラックスできる空間を作りあげています。内風呂はその名も「学問の湯」。合格祈願のついでに立ち寄る受験生らは、湯で体を温めながら、ここでも道真公にあやかろうと願うのかもしれません。泉質はナトリウム-塩化物泉で、神経痛や筋肉痛にほか慢性婦人病などに効果があります。
写真:和山 光一
地図を見る赤い湯「小赤沢温泉 楽養館」は、秘境秋山郷に点在する集落の一つ、小赤沢の苗場山裾に開かれた温泉で、宿はなく、日帰りの療養施設が一軒あるのみです。源泉は苗場山の登山口近くの地下800Mから湧出し、赤茶けた炭酸鉄泉がゴーゴーと咆哮を上げながら噴出しています。一般療養泉基準の倍以上という高濃度を誇る赤い湯が特長で泉質は含鉄(II)・ナトリウム・カルシウム-塩化物泉である。秋山郷にわく温泉は無色透明なものばかりですが、鉄分が多い小赤沢だけが赤褐色なのです。断続的にボコボコと噴き出すお湯は透明に近いですが、空気に触れると30分ほどで色が変わります。湯の表面には白い湯の花が浮かび、湯に足を沈めると、底に沈殿していた成分が浮かび上がり、湯の赤さが増します。
建物は木造の山小屋風で、見ているだけで暖かみが伝わってきます。浴室も丸太組みで、同じように湯船も木製のはずなのですが、温泉の析出物のためにがちがちに固まり石のようです。約200M先にある46.2度の源泉をかけ流すため、湯はぬるめで長く浸かっていられますが、肩から下は見えないほどの濃い成分のためか、すぐに温まってきます。露天風呂はありませんが、大きなガラス張りの窓からは、そびえ立つ鳥甲山が視界に広がり、開放感たっぷりです。
写真:和山 光一
地図を見る上野原温泉「のよさの里・牧之の宿」は、鈴木牧之に因んで当時の秋山郷の暮らしと文化を再現した宿で、本家(本館・フロント・食堂・座敷)と渡り廊下で結ばれた7戸の分家で構成されています。分家は1軒ずつ独立して離れた宿泊棟で、周囲を気にせずゆっくり滞在できます。
温泉は男女別の内湯と露天があり、特に石造りの広大な露天風呂が自慢です。日本二百名山のひとつ鳥甲山の険しくそそり立つ屏風のような岩壁は、第二の谷川岳と言われほどです。その荒々しい迫力のある姿を仰ぎ見ながら湯に浸かれるのは、温泉好きにとっては至福の一時です。ここの泉質はナトリウム・カルシウム塩化物硫酸塩泉なのですが、塩味は感じません。
写真:和山 光一
地図を見るところによっては曲がりくねった細い山道となる国道405号を抜けると、そこは秋山郷最奥の秘湯、「切明温泉」です。信州でも珍しい河原の露天風呂が楽しめる温泉で、中津川の支流魚野川と雑魚川の合流点にあたるこの場所は、スコップで少し掘るだけで熱い湯が川床からにじみ出てきます。三つある温泉施設一つ、村営の「雄川閣」でスコップを借りて、天然のオリジナル浴槽を造ってみてください、河原の露天風呂の醍醐味が味わえます。
そんな苦労はまっぴら御免という方には、雄川閣にある石造りの混浴露天風呂がいいです。浴槽がそのまま河原に続いているかのような開放感があります。泉質はカルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉で、神経痛や関節痛、五十肩などに効果があります。
栄村の秋山郷には今回紹介した以外にも、中条温泉「トマトの国」、百合居温泉、屋敷温泉、和山温泉、また越後秋山郷の津南町には、逆巻温泉、結東温泉と個性的な名湯が充実しています。きっとお気に入りの温泉が見つかることでしょう。
秋山郷に入るルートは2つ。国道117号で津南町から入るコースと志賀高原から秋山林道を走り、「切明温泉」から国道405号に入る道とがあります。特に志賀高原から県道奥志賀公園栄線、途中から雑魚川沿いに雑魚川渓谷を走る秋山林道は、「北信州もみじわかばライン」とも呼ばれ、紅葉時期と若葉の頃は絶好のドライブコースです。(冬季閉鎖)
奥信濃の秘境を是非温泉とともに味わってみて下さい。
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(2024/3/29更新)
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