チンチン電車(阪堺電車)で行く利休が生んだ茶の湯と和スイーツの旅

チンチン電車(阪堺電車)で行く利休が生んだ茶の湯と和スイーツの旅

更新日:2018/01/08 19:53

和山 光一のプロフィール写真 和山 光一 ブロガー
大阪には天王寺から堺をつなぐ阪堺電車という開通100周年を超す歴史ある路面電車(通称チンチン電車)が走っています。茶の湯を大成させた千利休が生まれ育った堺はかつて16世紀、南蛮貿易の拠点として栄えた国際都市でした。この沿線にはその時代から続く異国の文化が取り入れられた、何とも魅力的な和菓子のお店がたくさんあります。そんな堺の町を、街中をのんびり走る路面電車に揺られて巡る小さな旅に出てみませんか。

チンチン電車、天王寺駅前からいざ出発進行!

チンチン電車、天王寺駅前からいざ出発進行!

写真:和山 光一

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始発駅の天王寺駅前駅から阪堺電車に乗ると、どこまで乗っても一回210円ですが、「てくてくきっぷ」なら全線1日乗り放題で600円です。路面を走る電車は最新型車両から、黄色と赤、赤と黒といった2色のラッピング車両等、いろんな種類の車体があり見ているだけでも楽しいものです。時には道路を車や道行く人々とともに、時には大和川の鉄橋をのんびりと、ほのぼのとした雰囲気で走っていきます。

チンチン電車、天王寺駅前からいざ出発進行!

写真:和山 光一

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写真は阪堺電車初の超低床車両の「堺トラム」で、2017年度のグッドデザイン賞を受賞した車両です。沿線の堺の魅力である和のイメージ演出するため、外観は側面下部に堺にゆかりの千利休の“わび”をイメージした白茶で、先頭部と側面最上部にアクセントとしてシャンパンメタリック、堺の伝統産業である“堺刃物”をイメージした黒のラインをレイアウトしています。側面上部の色で、1001号車が阪堺線のイメージカラー緑を使った「茶ちゃ」、1002号車(写真)が堺出身の与謝野晶子が好んだ紫で「紫おん」、1003号車が堺市の市旗の色である青を用いた「青らん」という呼称がついています。

チンチン電車、天王寺駅前からいざ出発進行!

写真:和山 光一

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大和川を渡ると堺市に。「綾野町」駅から「御稜前」駅の区間は、旧紀州街道にあたる「大道筋」の愛称が与えられている幅員約50m、片側3車線の幹線道路で、その中央をローカル色豊かに路面電車が走り抜けていきます。この区間は、千利休のお膝元とあって茶の湯に欠かせない見どころや和菓子の老舗が点在。チンチン電車を乗り降りして巡りましょう。

「御陵前」から千利休も修行した茶禅一味の南宗寺へ

「御陵前」から千利休も修行した茶禅一味の南宗寺へ

写真:和山 光一

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利休ゆかりの町巡りは、チンチン電車を「御陵前」で降り、まずは千家一族の墓がある「南宗寺」から始めます。今も昔ながらの禅宗寺院の面影が色濃く残り、周囲を土塀で囲まれた静かな境内に佇めば、結界を超え仏の世界へ踏み入ったような感覚に。臨済宗大徳寺派の寺院で弘治3年(1557)、堺の戦国大名・三好長慶が父・元長の菩提寺として建立し、大阪夏の陣で焼失後、元和5年(1619)沢庵和尚によって再建されたお寺です。

「御陵前」から千利休も修行した茶禅一味の南宗寺へ

写真:和山 光一

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国指定重要文化財である写真の正保4年(1647)第十三世住職清巌宗渭により造営された甘露門(山門)や唐門・仏殿など、みどころが多くあります。利休が参禅した方丈の縁からは、国の名勝枯山水の石庭が眺められ、承応元年(1652)建立の禅宗建築の仏殿の天井には、狩野信政筆の八方睨の龍が見られます。

龍興山 南宗寺の基本情報
住所:大阪府堺市堺区南旅籠町東3-1-2
電話番号:072-232-1654
アクセス:阪堺電車御陵前駅より徒歩5分

「御陵前」から千利休も修行した茶禅一味の南宗寺へ

写真:和山 光一

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また偉大な茶人が修行し、茶と禅を結びつけた拠点でもあり、茶の湯の発展は南宗寺ぬきには語れません。中でも千利休の師である武野紹鷗は開山・大林宗套に参禅して「茶禅一味」の言葉をもらい、わび茶を深め、千利休も第二世笑嶺宗訢和尚に参禅して禅に開眼、禅の心を茶の湯に昇華させたといわれています。境内には、利休の師である武野紹鷗や千家一門の供養塔、奥には利休好みの茶室「実相庵」(写真)を有する利休ゆかりのお寺としても有名です。

「寺地町」の「かん袋」で千利休も食べたとされるくるみ餅を食す

「寺地町」の「かん袋」で千利休も食べたとされるくるみ餅を食す

写真:和山 光一

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目指す「かん袋」は、南宗寺からは徒歩5分、寺地町駅近くにある鎌倉時代末期の元徳元年(1329)に和泉屋徳兵衛が和泉屋という商号で餅屋として創業したお店です。かん袋という名は、徳左衛門時代に豊臣秀吉が、伏見桃山城の天守閣の瓦葺きで、徳左衛門が瓦を天守まで放り上げる様に「かん袋が散る様に似たり」と、その腕の強さをたたえ、「以後かん袋と名付けよ」と命じ、それより「かん袋」が和泉屋の商号となったといいます。

「寺地町」の「かん袋」で千利休も食べたとされるくるみ餅を食す

写真:和山 光一

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現在のくるみ餅の原型ができたのが、5代目・和泉屋忠兵衛の室町時代で、当時の餡は塩を用いていて、その3代後にルソンから砂糖が輸入されたことにより、甘い餡になったとのこと。材料、製法とも門外不出とのことですが、きれいな緑色は砂糖を使うことによって出るらしいのです。くるみ餅といっても胡桃が入っているのではなく、白い餅をうぐいす色の餡で「くるんで」いるところから、この名前が付けられました。

もっちりとした食べやすいサイズのまんまるの餅に、コクのあるまったりと甘いうぐいす餡が贅沢にからむとなんともいえず、そして最後にほのかな苦みがふっと走り味を引き締めます。基本はやわらかな餅の食感を楽しむために、やはりイートインがお勧めです。

「寺地町」の「かん袋」で千利休も食べたとされるくるみ餅を食す

写真:和山 光一

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夏季はなんといっても『氷くるみ』です。うぐいす色の餡の上に氷が被さっているだけの違いですが、夏の暑い日には冷たさと甘さが嬉しく、そして最後の仄かな渋さを氷が洗いながしてくれる逸品です。冬季でも食べれますが、冬はちょっと寒いのが難点かも。『氷くるみ』も『氷なし』どちらも一人前360円です。

かん袋の基本情報
住所:大阪府堺市堺区新在家町東1-2−1
電話番号:072-233-1218
アクセス:阪堺電車寺地町駅より徒歩3分

「宿院」で茶聖の屋敷跡を見学しましょう

「宿院」で茶聖の屋敷跡を見学しましょう

写真:和山 光一

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「宿院」駅すぐに、平成27年3月20日にオープンした堺の新名所で、2018年1月公開映画『嘘八百』のロケ地でもある「さかい利晶の社」があります。1Fにある「千利休茶の湯館」で利休の人生や茶の湯文化を中世・堺の国際的な繁栄とあわせて勉強し、「茶の湯体験施設」で気軽に茶の湯体験を味わってみてください。千利休の系譜である三千家の茶室が並ぶのは、一般に見学できる施設としては日本初ですよ。

さかい利晶の社の基本情報
住所:大阪府堺市堺区宿院町西2-1-1
電話番号:072-260-4386
アクセス:阪堺電車宿院駅より徒歩1分

「宿院」で茶聖の屋敷跡を見学しましょう

写真:和山 光一

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「宿院」駅付近には、千利休の師である武野紹鷗屋敷跡、その斜め向かいには「天下三宗匠」の一人今井宗久屋敷跡、そして「千利休屋敷跡」があります。茶道は室町時代に利休が「茶の湯の開山」と呼ぶ、村田珠光によって基礎が作られ、また室町後期にもう一人の名人が出現します。その人が武野紹鷗で、堺で最も裕福な家で生まれ、珠光の茶の湯をさらに進化させたのでした。

写真は「今井屋敷跡」です。今井宗久は倉庫業で財をなし、武野紹鷗に茶を習い女婿となりました。そして紹鷗のもとに同じ堺の魚屋田中与兵衛の長男与四郎、後の千利休が入門したのです。

「宿院」で茶聖の屋敷跡を見学しましょう

写真:和山 光一

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二つの屋敷跡は石碑しかありませんが、「千利休屋敷跡」は敷地が残されていて、約70坪(230u)の地に今も椿の炭を底に沈めたといわれる椿の井戸と利休ゆかりの大徳寺山門の古い部材で建てられた井戸屋形があります。飛石・燈籠は近年に整備されたものです。

彼らはこの界隈をしきりに往来し、茶の湯の創意と工夫を日夜楽しんでいたのです。

「宿院」にある千利休も好んだ伝統の芥子餅「本家小島」

「宿院」にある千利休も好んだ伝統の芥子餅「本家小島」

写真:和山 光一

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「さかい利晶の社」の向かい、フェニックス通りを渡った大道筋を一本西の路地にはいったところにあるのが千利休も愛した伝統の芥子餅とニッキのお店「本家小嶋」です。天文元年(1532)菓子屋吉右衛門として創業、路地裏にひっそりと佇み、風にひるがえるのれんに老舗の風情を感じてもらえます。

お店の中はレトロなショーケースの中に見本が並び、お店の人の丁寧な応対同様、店内に家人の人柄が感じられます。

「宿院」にある千利休も好んだ伝統の芥子餅「本家小島」

写真:和山 光一

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利休も好んで食べたという煎った芥子の実が贅沢にまぶされ、プチプチ口の中で弾ける芥子の実の食感と香ばしさがやみつきになる「芥子餅」と、柔らかい求肥に練り込まれた肉桂(ニッキ)の清涼感のある香りがスッと香る「ニッキ」が、お店の代名詞にもなっています。室町時代にインドから芥子と肉桂が薬として輸入されていたのを、茶の湯に因んだ和菓子にできないかと考えだされたとのことで、代々受けつがれる吉右衛門の名と味が約480年続いている名店です。

お茶請けに最適でお店の中で1個からいただけますよ。

「宿院」にある千利休も好んだ伝統の芥子餅「本家小島」

写真:和山 光一

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本家小嶋の基本情報
住所:大阪府堺市堺区大町西1-2-21
電話番号:072-232-1876
アクセス:阪堺電車寺宿院駅より徒歩3分

まだまだあります和スイーツのお店

「妙国寺前」駅のある材木町の交差点には、古代の神器「八咫鏡」をモチーフにした名物大鏡のお店「曽呂利」があります。たっぷりの白餡をふわふわの焼き皮で包んだ一品です。また雑誌大人組2014年11・12号では「そロール」というロールケーキが取り上げられていますよ。

店名でもある豊臣秀吉に御伽衆として仕えたといわれる人物「曽呂利新左衛門」は、茶道を武野紹鷗に学び、香道や和歌にも通じていたという、落語家の始祖とも言われる人です。

「花田口」駅近くには、元禄年間に創業する以前、安土桃山時代から肉桂を輸入していたという老舗和菓子処「八尾源来弘堂」があります。「肉桂カステラ」は肉桂の風味が甘さを引き立てる一品です。

まだまだ阪堺電車沿線には新しい発見がありますよ。

※2017年12月現在の情報となります。変更となる場合がありますので、公式サイトなどで最新情報を必ずご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/12/17 訪問

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