今回ご紹介する老舗旅館「落合楼村上」は、東京駅から「特急踊り子号」で修善寺駅下車。
修善寺駅から東海バス「湯ヶ島バス停」まで約25分の距離にあります。
宿がある伊豆市湯ヶ島は、8割以上が山林に囲まれ、年間平均気温は15度と、一年を通して穏やかな気候に恵まれた過ごしやすい環境。そんな緑深い美しい渓谷に宿はあり、昔から文人墨客には格好の癒し場でした。
こちらは、そんな宿の入口。宿へ入る前から日本建築が美しく、何とも立派。
昭和の初めに大改築されて以来、ずっと変わっておらず、著名人をもてなしてきたアプローチは今も同じ。そんな方達と、同等な門をくぐれるのだと思うと、ちょっと優越感を感じてしまいますよ。
国の登録有形文化財の宿ですので、早速、素晴らしい建物を見てみたくなるもの。
まず、初めにご紹介するのは「紫壇(しだん)の間」。こちら正面に見える両脇の2本の柱は、文化財になっている紫壇の柱です。
目を凝らして見ると、しなやかな模様があるのが解りますか?
これは、天然の木の模様に見えますが、これは職人達が彫刻で施した模様なんです。
職人の技は、自然と融合した何とも美しい模様で、今もこのような彫刻ができる職人は数少ないのだとか。「文化財の凄さはこれだけ?」と思われた方もいるかもしれませんが、これだけではありません。ここは2階にありますが、この柱は1階から延びている、言わば1階と2階をそのまま貫いている柱なんです。
見えているのは一部で、実は10m位はあろう巨木。その上、大人が手を回しても、ようやく後ろで手が届くぐらいのとても太い幹なんです。丸々1本使った素晴らしい紫壇は、とてもお値段が高く、昔から珍重されてきた建築材。それに加え、匠の技が施された相当な代物なので、滅多にお目にする機会はありません。なので、ここを訪れたら絶対に必見スポットです。
この紫壇の間は、宴会場や結婚式場として使われたため、108畳もの広さがあります。
団体旅行が流行した昭和の名残りをも感じさせる雰囲気、これも名旅館ならでは。
職人の技が見られるスポットは、これだけに留まらず、館内の窓や襖の至る所に施された細子細工などが見られます。中でも「富士山と干し網」のデザインは、国内でも有数の職人しか成しえない技なので、是非探してみて下さいね!
宿の創業は明治7年。創業当時は「眠雲楼」と呼んでいたそうですが、現在は「落合楼村上」になっています。そのきっかけは、この吊り橋が架かっている川。この川は狩野川ですが、この数十メートル上流は、本谷川と猫越川が混じり合っている地点があります。
明治14年、ここを訪れた山岡鉄舟が、2つの川が合流する様子から「落合楼(おちあいろう)」と名付けました。因みに「村上」とは、この旅館を継いだ夫妻の名字から。
山岡鉄舟は、幕末から明治にかけて活躍し、勝海舟と肩を並べる存在。
江戸無血開城に貢献後、明治天皇の侍従になった人物で、宿の名前を変えてしまうなんてまさに、凄い人物ですね!!
木造の本館と新館を結ぶ川の上にある廊下から、今も落ち合う川の様子が見られますよ。
この吊り橋は、2012年に公開された映画『わが母の記』のワンシーンに登場した橋。
映画の時代背景は、昭和30年代。それにも関わらず、そのままここを使用したなんて、よっぽど当時と同じ面影なんでしょうね!
美しい里山や清流など、心が和まされてしまう景色が見られます。ここに宿泊すれば、いつでも散策ができるので、そんな眺めを見ながら過ごしてみても良いかもしれませんね。
こちらは、大浴場の「天狗の湯」。大人10人以上は軽く入れる広さで、手前に見えるのは露天風呂。左手側に見える岩壁にぽっかりと開いた穴の向こうは、洞窟のようなお風呂になっています。洞窟内部の湯の注ぎ口は、滝のような温泉が、ざっーと音を立てて流れていてダイナミック! 流れ出た湯気が、まるでサウナのような役割をするので、体の芯から温まることができます。
とても広々としていて、気が大きくなってしまうような湯なので、名前の通り天狗になった気分が味わえ、まさに至福のお風呂。つもりつもった心のコリも、やさしく解してくれるような柔らかな湯で、源泉温度がそれほど高くないので、丁度いい湯加減。目をつぶっていつまでも、入っていたくなるような気持ち良い湯です。
滞在していた北原白秋は、露天風呂に浸かって「渓流唱」37首を作ったそうで、歌がスラスラ作れてしまうほど、文人をもリラックスさせた素晴らしい温泉です。
天狗の湯の他にも、モダンタイル大浴場もあり、時間により男女入れ替え制。モダンタイル大浴場は、内風呂・半露天風呂があって、タイルの滑らかな感触が心地良いお風呂です。
【温泉データ】
泉質:カルシウム・ナトリウム・硫酸塩温泉
(低張性・弱アルカリ性・高温泉)
源泉温度:44.7度
外来入浴:なし
宿の楽しみと言えば、やっぱり料理。
こちらでは、月替わりで会席料理が楽しめます。これは、初夏をイメージした料理。一番左側に見えるのは、なすを蛍に見立て、その右側にある黄色いものは、月に見立てた卵の黄身。
食材で四季の移り変わりを演出した日本料理が食べられます。
会席料理と聞くと、少しかしこまって食べにくいような印象がありますが、もともと会席料理は、本膳料理を省略し、作法や行儀を重視しないで味本位を楽しみながら気軽に食べる料理。そのため、美味しく味わって食べるのが一番なのだそう。
2013年、ユネスコの世界無形文化遺産となった日本料理は「自然の美しさを表した盛り付け」などが評価されました。ここで出される料理は、これに通じており、文化遺産になった立派な料理が頂けます。どれも上品で、プロならではの味付けです。
落合楼村上の部屋数は、わずか15部屋で、それぞれ異なった部屋が楽しめます。増築に増築を重ねた複雑な造りで、とにかく、歴史が沢山詰まっています。宿の詳しい経歴や滞在した文人達の面白いようなエピソードなど、もっと詳しく知りたい方は、文化財ツアーを行っているので、興味を持たれた方は、是非どうぞ。
和風の宿に抵抗があるという方は「ボランツーリズム」がお勧め。若い世代に和風旅館の魅力を知ってもらおうと、2010年から行われているイベントで、体験をすれば、意外に和風の宿が大好きになるかもしれませんよ。
イベントについての詳しい内容は下記のMEMO【伊豆市観光情報】よりお問い合わせ下さい。
落合村上楼は、文人の他、軍人・政界人もここに泊まって、心を再生させてきた宿。
「歴史がある=古い」ではなく、古くても良い物だけが残される時代。新しいものは幾らでも造り出せるけど、長い年月をかけて造り出された素晴らしい旅館は、そう多くはありません。女将さんから仲居さんまで、すべて着物で美しい日本語を話されます。
もてなしの神髄が受けられ、ここを訪れれば、きっと忘れかけていた、古き良き日本の心をきっと感じられることでしょう。
ゆったりスローな時間を過ごして、心を伸び伸びさせてみませんか?
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