馬車の時代、馬車を操縦する馭者が旅籠で休むあいだ、馬のお腹をわらの束でこすりマッサージしていました。その作業をbouchonner(ブショネ)といい、ブションの名前はそこからきたといいます。
またほかの説では、ワインが飲めることを示すために酒神バッカスの印である「松ぼっくりを付けた枝」や「わらの束」を酒場の入口に実際にかけていて、これらがboucheやbuscheと呼ばれていました。そして時が経ち、bouche(ブシュ)がbouchon(ブション)へと変化したのだそうです。
リヨン料理は「メール・リヨネーズ(リヨンの母たち)」と呼ばれる女性達の仕事から始まります。
18世紀、リヨンの上流階級の家庭は周囲の田舎から若い娘を集めてお抱え料理人としていました。その彼女たちが豊かな農場の食材とレシピと同時に、最も高級なガストロノミーから生まれる田舎料理を発展させたのです。19世紀末になると、フランス革命で上流階級の特権が一掃され、一気に職を失ったメール・リヨネーズたちは小さな宿を開いて、町の絹織物労働者に食事を提供したのです。
歴史に残る多くのメール・リヨネーズの中で、リヨン料理のシンボルでもあるのがメール・ブラジエ(Mère Brazier)。20歳の頃、当時2本のナイフしか使わないことで人気を博したメール・フィユー(Mère filloux)のもとで料理を学び、その後26才で独立、1933年女性として初めてミシュラン3つ星を獲得して美食の町の名声をつくりあげました。現在フランス料理界の巨匠として世界に名を馳せるポール・ボキューズもまた彼女の弟子の一人なのです。
クロワルースの丘のふもとには、彼女が26歳で開いたレストラン「ラ・メール・ブラジエ」が今もあります。
Mâchon(マション)とは、絹職人のため休憩時間の朝9時からブションなどで提供されていた食事のこと。フランス人の朝食と言えばコーヒーにクロワッサンですが、マションの内容はトリップ、腸の腸詰ソーセージ「アンドゥイエット」などリヨンの伝統的な内臓系料理に赤ワイン+チーズとボリュウム満点!
その後時は流れ、お客は絹職人から銀行員へと変わります。
1964年にマションの伝統を守る協会les Francs-Mâchons(レ・フラン・マション)が発足し、今も毎月マションを提供するお店で食べたり飲んだりしながら会議が行わています。そしてそのお店の食事や雰囲気が良かったらマション協会に登録され、お店に名誉証書が授与されます。
ブションのワインは「ポ」と呼ばれる厚底の瓶に入れて提供されます。
最近はお土産用にきれいな形の上げ底瓶を販売していますが、昔ながらのポは底の厚さ4p、重さ1kg、やや薄緑色がかったリサイクルガラスで作られています。瓶の内部には気泡が残っていたり、形も少し歪んでいて均一ではないです。
中世の時代、1単位はロバの運べる重さを基準にした93Lの「ASNÉE/アネ」でした。
その後、16世紀に2,08Lの「ポ」という単位が登場。17世紀には単位が半分の1,04Lに減って、1843年に0,46Lの「ポ・リヨネ」になりました。
なぜ中途半端な0,46Lなのか?ポ・リヨネが誕生した19世紀、絹織物工の労働者は雇用者から50clのワインもらう権利がありました。そこで雇用者が、自分が飲む1杯分を省いた46Lの厚底瓶を労働者に渡したのが始まりなのだとか。ほかにも諸説あります。
ブションのワインメニューには今でも46clのポ(pot)と25clのフィエット(fillette:少女という意味)2つのボトルサイズがあります。
庶民的な食堂のブション。古典的なお店の内装は、赤いチェックのテーブルクロスに、木製の家具、壁には額縁に入ったたくさんの写真や銅製の鍋が飾られ、チャームポイントに豚の絵や置物が必ず店内に置いてあります。
メニューは豚、牛、羊の頭や足、胃袋、心臓など、内臓系料理が多いのが特徴。 貧富の差が激しかった当時、メール・リヨネーズたちが安価な臓物を美味しく調理し、労働者に提供していた事からこのような料理が生まれました。
前菜からデザートまで、安くてボリュームのある料理は今も昔もリヨンの人々に親しまれています。
ブションには2つのタイプがあります。昔と変わらぬ味を守り続ける安くてボリュームたっぷりの「古典的なブション」。時代にあわせて変化を加え、現代人の舌にあわせた味付けと程よい量を提供する「美食のブション」。
このどちらにも、ブションの伝統を守り、保護することを目的とした称号ラベルがあります。リヨンの人形劇のキャラクター「ニャフロン」が描かれたパネルで、扉や壁の見えるところに貼ってあります。リヨンを訪れた際はこの称号ラベルを探して、メール・リヨネーズが築いた本物の伝統の味を堪能してください。
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(2024/4/20更新)
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